シエシエ ワンライ詰め
最近のシエルは何だか様子がおかしい。
様子がおかしいというのも少しまた違う気もするのだが、それでも年々シエルの行動は度を超えているようにも弟は思う。
そう……弟は、エスカレートしつつあるシエルからのスキンシップについて、悩みの種を咲かせていた。
元はと言えば、シエルからされて嫌なことも、身体に触れられて嫌だと感じることは滅多にない弟だったものの、“他人からの視線”を意識しはじめる年頃でもある。人前でシエルからのやや度を超えているスキンシップを受けると、自然と向いてしまう自分達に周囲の視線……それが弟の羞恥心を煽り、悩みとなってしまった。
けれど、シエルには「もう僕に触らないで」とか「もう僕に近づかないで」とか、そんな言葉を言いたいわけでもない。むしろ恥ずかしさからそんな語弊を生みかねないことを口にして、シエルを傷つけて取り返しのつかないことになったらと……そんなことを考えるだけで弟の気は滅入るばかり。
そもそもの大前提として、弟はシエルから受けるスキンシップが嫌なわけではないのだ。
優しい眼差しでじっと見つめられること。手を絡ませるように握られること。ときより強く抱きしめてくることも。そして、これは人の目が無くても弟にはとても恥ずかしかったことだけれど……頬や首元にキスを落とされることも嫌じゃない、羞恥よりも愛おしさが優り満たされた。「大好きだよ」なんて面と向かって言われると、弟は頭がぼんやりしてしまうくらいシエルのことを考え続けることになる。
どのスキンシップを思い返してみても、嫌という気持ちよりも「安心感」と「心地よさ」「幸福」が伴っているものばかりで……だからこそ簡単にやめてほしいなんて言えない。でも恥ずかしいものは恥ずかしいし、慣れないものは慣れないから……何とか状況を好転させることは出来ないものかとは思う。
シエルを傷つけず、スキンシップも無理に減らさずに、平和にことを解決させるにはどうしたら良いのか。
その悩みが弟には中々解決できず、悩み続けてしばらく経った頃、今度はシエルから弟に対して「様子がおかしい」という印象を抱くことになる。
シエルが弟の隣に座れば、弟はいつだって微笑み返してくれて、手を握れば安心したように目を細める。抱きしめた時に控えめに回される腕も、突然のキスさえも拒まずに受け入れてはうっとりとして愛らしい姿を見せることもある。幼さ故に最愛の弟には、半分は無意識に色々な方法で愛情表現をしてしまうシエルにとって、そんな弟の受け身姿勢はシエルを煽り続けてきた。
だからこそ、まさか弟が人目を気にして恥ずかしがっているとは思わず、シエルはすぐに気づくことが出来なかった。
それどころか、優しい弟はずっとシエルからの行き過ぎた愛情に耐えることしかできなかったからこそ、今更嫌だなんて言えなくなってしまったのでは……と最悪の方向へ思考を回してしまう始末。
それゆえに、すれ違いというのは簡単に生まれ、それぞれ別の方向へと二人の心を揺さぶることになってしまった。ごく当たり前に溢れる早とちりとも呼べるそれは、二人にとって一番良しとしなかったことだった。
……そんな状況で先に動いたのは、やはりシエルだ。
シエルは何があったのかと、何か自分に至らないことがあったのかと弟へ単刀直入に聞くと……弟はしばらく回答に悩みこくった後、「シエルとのスキンシップを誰かに見られることが恥ずかしい」と至ってシンプルな回答をした。
その回答は、弟に嫌われたとか嫌がられている……などと早とちりをして色々と不安になっていたシエルの頭をクリアにしてくれるものだった。
「……勘違いはしないでほしいんだ。僕は別にシエルにされることが嫌だったわけじゃない。ただ本当にその、誰かに見られることが恥ずかしくて嫌で……わがまままを言ってごめん」
ここまで、丁寧に説明をしてくれる弟に謝罪など求める必要がない。むしろシエルはすぐに弟へ勘違いをしかけていたことを謝罪してすれ違いかけていた気持ちを元に戻すことに成功した。
シエルのするべきことはあと一つ。この弟の悩みを解決することだけ。
そして、その解決法をシエルはすでに思いついていた。弟が言い出しがたかった悩みは、そもそもシエルの行動と約束一つで何とかなるものだ。だからこそ、逆に気を遣われてしまったのだが。
「これからは二人だけの“秘密”にすればいいんだよ」
「二人だけの、秘密……?」
「うん、ハグもキスも全部二人きりの時だけにするの。そう約束しよう。そうすればお前が恥ずかしがらずに済むはずだし……僕もお前に今まで通りに触れることができたら本望だから」
全部全部、二人だけの秘密にして仕舞えばいいんだと、そう笑いかけるシエルに弟のは僅かに頬を染める。
それはあまりにもシンプルな解決法で困る要素なんて一つもない、シエルにとっても弟にとっても最善と呼べるものだ。
それなのに、それなのに。
二人だけの秘密で、二人きりの触れ合いをするだなんて、なんだかよくないことをしてるみたいで、どこか後ろめたいのに期待さえも湧いて早まる鼓動をどう説明すればいいか弟にはわからなかった。
それでも弟は気付けばシエルからの提案に頷いて、約束を交わすことになる。
……その選択により、スキンシップも二人の関係性もどんどんエスカレートの一途を辿り、密なものとなっていくことを幼い二人はまだ知らない。
