シエシエ ワンライ詰め
僕達はずっと一緒にはいられない。
伯爵にならなくてはいけない長男の僕と、いつかこの家をでなくてはいけない次男のあの子。
生まれたときから決まっていたこと。どうしたって覆せないこと。それを理不尽だと誰かを非難することなど許されない、当たり前のこと。
幼いながらにそれをはっきりと理解したとき、僕は自分の人生にはじめて絶望した。
僕は、弟のことが大好きだった。
そこに理屈や根拠なんてものはなく、ただただ生まれてからずっと隣で僕と同じ時間過ごす弟の存在が堪らないほど愛おしい。
可愛い可愛い、僕だけのたった一人の弟は他のなににも変え難い、僕にとって一番特別な存在だ。
だから僕は、そんな弟と離れ離れになる運命を呪った。
……でもあの子は、僕とは違ったんだ。
先日あの子は僕の前で夢を語ってくれた。
あの子は、将来おもちゃ屋さんになりたいらしい。それはとても素敵な夢なのに、僕はそれを応援することができなかった。
だってあの子は僕と離れ離れになることをちっとも恐れていなかった。それどころか、僕にとっての自慢の弟になりたいからって“一人でも生きられる大人”を目指そうとしていた。僕が渇望する“いつまで二人で一緒にいる”未来を見ようとはしてくれなかった。
……ああ、こんなこと認めたくない。
僕とあの子が離れ離れになる未来も。
僕があの子を望むように、あの子が僕を望んでいなかった事実も。
僕は、あの子にとっての“特別”になれなかったことも。
全部嘘だったなら、良かったのに。
「…………なりたいな」
あの子の一番になりたいと、シエルは小さな声で願う。哀愁に塗れた青の瞳にはきらきらとした真夜中の星空がそっと映し出される。
なかなか眠れない夜にシエルはよく窓越しに星空を眺めていた。
天体に関する知識はまだ持ち合わせていなかったものの、シエルにとって星空は特別なものだ。シエル達が生まれたのは星降る夜のことだと母親から教えてもらったことをきっかけでそう感じるようになった。
ふたご座流星群と呼ばれるそれが降り注ぐその日に生まれた双子だなんて、ますます運命みたいだとシエルは思う。まるで星空の祝福を受けて生まれてきたみたいだ。
夜空に浮かぶ星々のきらめきは、シエルの絶望を和らいでくれる。
真っ暗な空を絶望と捉えるのなら、その絶望の中で輝きつづける星々はまさに希望と呼べるだろう。名前に空の意味をもつ“シエル”にとって、星というのは益々焦がれてしまう存在なのかもしれない。そのきらめきに瞳はいつだって釘付けになり、どうしようもなく魅了されてしまう。シエルは星を愛していた。
だから、そんな星々にシエルはよく願いをかけた。
シエルにとって、それは存在するかもわからない神様に祈るよりも価値のあることだ。だって星々は常に真っ暗な空の上を輝いている。確かにそこでシエルを見守って照らし続けてくれる。どこにいるかもわからない誰かに何かを祈るより、ずっとそこにいてくれる星に願い続けた方が……幾分かは効果があるのではないだろうか、とシエルはそう考えていたから。
「お星様、お星様……お願いします」
「僕があの子を特別に思うように、僕もあの子の特別になれますように」
「あの子に望まれる僕になれますように」
「僕がいつまでも、ずっと、ずっとあの子のそばにいられますように……」
シエルは、自分の心を蝕む絶望が過ぎ去るまで星に祈りを捧げ続けた。
