シエシエ ワンライ詰め
止まらない涙が溢れる夜がある。
まるで、絶えず降り続ける雨のように。僕がそれを必死に止めようとすればするほど、嘲笑うかのように、僕を惨めな姿へと導く。
責め立てる何かが……僕が、僕自身を決して許さないから。
「また、泣いているの?」
ほら、僕がこうして惨めな姿を見せるから、君はいつも現れる。
「……大丈夫だよ、お前は僕が守ってあげる。僕がずっとお前の傍にいるよ」
いつまでも耳に残り続けるあの優しい声は、いつだって正確に再現される。僕を守ってくれる君の声と言葉が今夜も惨めな僕の何もかもを包み込む。そして、優しい君に僕は今日も縋り付かずにいられなくなるんだ。
君の温もりが、凍てつくような寒さに震える僕を簡単に温めてしまうから。
「お願いだから、必要以上に自分を責めないで。もういいんだよ。もうこれ以上、苦しまないで」
君のそのたったひと声が、消せない罪に呪われた僕を癒して、許そうとしてくれる。あまりにも都合のいい妄想だ。
……やめてくれ。そんな優しい声で僕を惑わせないでくれと、口ではそう拒みたいのにそんな言葉を紡げるほど僕は強くない。
君の願った君になると、あの日誓ったはずなのに。僕は君の強さには到底届きそうにない。そんな自分が僕はやっぱり大嫌いで、そんな自分が許しを求めることを許したくない。
「泣き虫の癖に、本当にお前は強情だなぁ。それとも強情だから泣き虫なの?どちらにしたって、そんなお前のことも大好きだけど……
やっぱり僕はお前の笑った顔が一番好きだよ」
笑い方なんてもうとっく忘れたんだよ。君の魂を犠牲にしてしまった僕に、そんなもの似合うわけがない。止めてしまいたい願うこの涙の方が、僕にはよっぽどお似合いだろう。……あぁ、そんな姿は“笑える”かもしれない。
「……こら。捻くれもの。」
何とでもいってくれ。
「好きな子にもそんな姿を見せるつもり?」
おあいにくさま。僕の好きな人は今までもこの先もたった一人だけだし、その人は僕のどんな姿も愛してくれる優しい人だから、笑顔がないくらいで嫌いになったりしない。……って、信じてるんだけど。そうじゃなくても別にいい。
僕が、ただ愛し続けるだけだから。
「大正解だよ。僕のこと何でもわかるの?うれしいなぁ。何があったって嫌いになるわけない。僕もお前のすべてを愛してる。愛し続けているからね」
誰も君のことだなんて言ってない。君じゃないとも言ってないけど。
「あはは、屁理屈が止まらないね。少しは元気出てきたのかな。……うん、涙も落ち着いてきたようだし、今日はもう大丈夫かな」
…………。
「そんな顔しないで。僕はいつだってお前の傍にいるっていったでしょ?絶対、一人になんてしない。ずっとここにいるから」
君は僕を抱きしめる。壊れものを包み込むように。君の腕の中にいると自然と眠りへと誘われていくような気がした。君が用意してくれる特等席はいつも温かくて優しくてしあわせで満たされている。僕が大好きな、僕だけの居場所。
眠りたくないと子供のように駄々をこねる僕を君は鈴のような音で笑う。だって一度眠ってしまったら、またしばらくは君に会えない。無慈悲な朝が、僕から君を奪っていくのに。僕は一人で戦わないといけないのに。傍に君が本当にいたとしても、僕は君を認識できないのに。
それなのに、君は僕を眠りにつかせようと頭を撫でて、キスを落とす。どうしてなんて聞いたって君は教えてはくれない。いつもそうだ。
「おやすみなさい……大好きだよ。ーーーー。たまには僕以外の、もっと“良い夢”をみてね」
目を覚ますと、枕元は微かに濡れている日がある。そういうときは大抵、僕の目元は真っ赤だから、それが涙によるものなのだとすぐにわかる。
けれど、夢の内容を僕はいつも思い出せないし、思い出す気にもなれなかった。
ただその夢が、僕にとって“悪い夢”ではなかったことだけは確かだ。
