アイオロス
物憂げな顔をした恋人が顎に手を当てている。
ソファに座って考え込んでいる様子で、伏せられた視線が艶やかさを演出していた。ゆったりとしたズボンの裾から覗く踝もとても魅惑的だ。
……今すぐ彼女を全力で抱き締めたい。
アイオロスは心からそう思った。しかし思いのままに行動してしまっては暫く口を聞いてくれなくなる未来が見える。
ぐっと拳を握って冷静さを取り戻し、努めて静かに移動した。ゆっくりと恋人の隣に腰掛けて様子を伺う。
普段よりも距離を空けてはいるが拒絶されることはなく、思わず安堵の息が漏れた。
そのまま名前を呼んで、彼女の肩に触れようとした時。
「触らないでくれる?」
射手座の英雄はピタリと動きを止めた。
伸ばされていた手はカタカナの効果音が付きそうなくらいにぎこちない動きで戻ってくる。
「わたし怒っているのよ」
淡々とした感情の見えない声に、アイオロスは両手を膝の上に置いて肩を下げるしかなかった。恋人の怒りを解く方法がとんと思い付かず、口を引き結ぶ。
表面的な謝罪は意味がない。既に誤魔化しなど通用しない次元に達してしまっている。
この状況に至ったのは間違いなくアイオロス自身の落ち度だ。とはいえ聖闘士として譲れない部分も大きく、恋人の繊細な心を汲み取って受け入れることは難しい。
「……すまなかった」
結局アイオロスに出来るのは愚直に言葉を交わすことだけだった。けれど彼女は視線を変えない。
「許して欲しいと言うのは俺の我儘だ。無茶をして心配をかけていることも分かっている……それでも君を愛しているし、これからも隣に居させて欲しいんだ」
アイオロスがそう言うと、ようやく目が合った。宝石のように強い輝きが真っ直ぐアイオロスを射抜いている。
「貴方の言葉を惜しまない姿勢は心から尊敬しているわ」
けれどそれが時々辛くなるのだ、と瞳が揺れていた。
彼女が心の柔らかい部分を見せてくれることは滅多にない。不謹慎なことだが、アイオロスは愛おしさと歓喜で胸がいっぱいになった。
そして今度は遠慮なく両腕で恋人を抱き締める。
頬を擦り寄せるようにして名を呼ぶと、彼女もアイオロスの背に手を伸ばした。
「言葉を惜しまない俺と、何事も慎重な君と。足して2で割れば丁度良いと思わないか?」
言い過ぎた時は咎めて欲しい。間違っている時は引き留めて欲しい。俺も君の言葉が聞きたい時は遠慮なく求めるから、と。
「そうやって補い合って傍に居られたら、俺はすごく幸せだと思う」
君は、と問うと恋人は小さく笑みを溢した。
「それって結局わたしの負担が大きくならない?」
上目遣いに首を傾げられ、アイオロスは言葉に詰まる。精一杯の格好を付けたつもりだったが、一切否定出来ない事実に声にならない声を上げるしかない。
だというのに、苦言を呈した恋人はどこか楽しそうにアイオロスを見ていた。
「でも、そうね……きっと、そうなったら私も幸せよ。アイオロス」
彼女の手が優しくアイオロスの頬を包む。その温もりに自然と笑みが浮かんだ。
「そうしよう……きっと」
そっと互いの額を合わせて、穏やかな未来をモイライに希った。
ソファに座って考え込んでいる様子で、伏せられた視線が艶やかさを演出していた。ゆったりとしたズボンの裾から覗く踝もとても魅惑的だ。
……今すぐ彼女を全力で抱き締めたい。
アイオロスは心からそう思った。しかし思いのままに行動してしまっては暫く口を聞いてくれなくなる未来が見える。
ぐっと拳を握って冷静さを取り戻し、努めて静かに移動した。ゆっくりと恋人の隣に腰掛けて様子を伺う。
普段よりも距離を空けてはいるが拒絶されることはなく、思わず安堵の息が漏れた。
そのまま名前を呼んで、彼女の肩に触れようとした時。
「触らないでくれる?」
射手座の英雄はピタリと動きを止めた。
伸ばされていた手はカタカナの効果音が付きそうなくらいにぎこちない動きで戻ってくる。
「わたし怒っているのよ」
淡々とした感情の見えない声に、アイオロスは両手を膝の上に置いて肩を下げるしかなかった。恋人の怒りを解く方法がとんと思い付かず、口を引き結ぶ。
表面的な謝罪は意味がない。既に誤魔化しなど通用しない次元に達してしまっている。
この状況に至ったのは間違いなくアイオロス自身の落ち度だ。とはいえ聖闘士として譲れない部分も大きく、恋人の繊細な心を汲み取って受け入れることは難しい。
「……すまなかった」
結局アイオロスに出来るのは愚直に言葉を交わすことだけだった。けれど彼女は視線を変えない。
「許して欲しいと言うのは俺の我儘だ。無茶をして心配をかけていることも分かっている……それでも君を愛しているし、これからも隣に居させて欲しいんだ」
アイオロスがそう言うと、ようやく目が合った。宝石のように強い輝きが真っ直ぐアイオロスを射抜いている。
「貴方の言葉を惜しまない姿勢は心から尊敬しているわ」
けれどそれが時々辛くなるのだ、と瞳が揺れていた。
彼女が心の柔らかい部分を見せてくれることは滅多にない。不謹慎なことだが、アイオロスは愛おしさと歓喜で胸がいっぱいになった。
そして今度は遠慮なく両腕で恋人を抱き締める。
頬を擦り寄せるようにして名を呼ぶと、彼女もアイオロスの背に手を伸ばした。
「言葉を惜しまない俺と、何事も慎重な君と。足して2で割れば丁度良いと思わないか?」
言い過ぎた時は咎めて欲しい。間違っている時は引き留めて欲しい。俺も君の言葉が聞きたい時は遠慮なく求めるから、と。
「そうやって補い合って傍に居られたら、俺はすごく幸せだと思う」
君は、と問うと恋人は小さく笑みを溢した。
「それって結局わたしの負担が大きくならない?」
上目遣いに首を傾げられ、アイオロスは言葉に詰まる。精一杯の格好を付けたつもりだったが、一切否定出来ない事実に声にならない声を上げるしかない。
だというのに、苦言を呈した恋人はどこか楽しそうにアイオロスを見ていた。
「でも、そうね……きっと、そうなったら私も幸せよ。アイオロス」
彼女の手が優しくアイオロスの頬を包む。その温もりに自然と笑みが浮かんだ。
「そうしよう……きっと」
そっと互いの額を合わせて、穏やかな未来をモイライに希った。
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