サガ
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カチ、カチ、カチ、と時計の秒針がやけに存在を主張する。
視線は手許の活字を追うが、内容は全く頭に入ってこない。あまりにそぞろな自身へ大きく息を吐き出し、私は持っていた書籍をテーブルに置いた。
「麗子、いい加減に機嫌を直してくれないか?」
「しらない」
別に気にしてないもの、と言う恋人は一向に此方を見ようとしない。
普段ならここぞとばかり、私に身体を預けてくるだろうに。今はクッションを胸に抱え、ソファーの上で縮こまっている。
私に背を向けて、間にはご丁寧に人一人分の隙間を空けて。
「麗子、おいで」
「やだ」
努めて声色を変えて、数度名を呼んでみた。
しかし返ってくる返事は全て、幼い子供のように短い言葉のみ。
それらから伝わる感情は怒っている、というよりも哀しんでいるようだった。
泣いてはいないが、泣いてしまいたいと背中が言っている。
なけなしのプライドが邪魔をしているのだろう。成人も近いという意識の中、子供扱いをするなという口で感情を爆発させるのは抵抗があるに違いない。
――とはいえ、少し前までは八つ当たりのように言葉をぶつけられた記憶があるのだ。
いっそ泣き喚いてくれればと思ってしまうのも致し方あるまい。……実際にそうされたなら、困り果てる私自身の姿も容易く想像は出来るのだが。
どのような理由があろうと、約束を反故にされた彼女が怒るのは当然だ。
私にはその感情を受け止める義務がある。
罵られる覚悟はしていた。どう宥めようかと考えていた。
だが実際に同じ空間で過ごしてみれば、こちらに強い感情が向けられることはなく、麗子は己の内側に気持ちを抑えようとしている。
拍子抜けした気持ちとやるせない想いがぐるぐると渦を巻いた。
情けない話だ。こと恋愛に関して、いくら大人ぶって余裕を見せようとしても上手くはいかないのだから。
……時間をかけて、彼女は呑み込むだろう。どうにか気持ちに折り合いをつけて、このもどかしい距離を埋めてくれるに違いない。
しかしそれで良いのだろうか。
呑み込ませて。
我慢させて。
今日一日このままの…………否。
それは私が耐えられない。
思考が終着へ辿り着けば、自然と手が伸びた。
「きゃ!?」
バランスを崩した麗子がそのまま後ろに倒れ込んでくる。無論、受け止め損なうなどというヘマはしない。
「サガ!! 何するの!?」
心底驚いたらしく、此方を睨む瞳は少々潤んでいた。
抗議の声にすまないと返して、私は彼女の腰を引き寄せる。そうして腹の前に腕を回し、抱き締めた。
密着することで身体を硬くしているのが伝わってくる。却って不快にさせただろうか、と思うが、赤く染まった耳朶を見るに杞憂であるようだ。
触れ合いに照れるような関係ではなかろうに。そうは思えど、反応が酷く愛おしい。
思わず腕に力を込めれば、とくとくと脈打つ鼓動が伝わってくる。やがてそれは早鐘を打つようなものから穏やかな音へと変わり、私の腕に麗子が触れた。安心したように身体の緊張を解き、此方に体重を掛けてくる。
その変化を知覚したと同時に私の膝上へと強引に招けば、ようやっと見えた表情は驚きに満ちて――いたのも一瞬。拗ねたように頬を膨らませたかと思うと、私の首筋に顔を埋めてしまった。ぐりぐりと頭を押し付け、背に回された両腕は私の服を掴む。
「……私が悪かった。許してはくれないか?」
頭から背中へ掌を滑らせ、指でとん、とん、とリズムを刻めば、身体に伝わる力が緩んでいく。
「……悪いと思ってるならきすして」
か細い声で、甘やかな響きが耳に届いた。
可愛らしい強請り方に口角が上がるのを止められない。
「仰せのままに」
そう言って、リップ音と共にこめかみへ口付けを贈った。
当然、麗子は不服を訴えようと私に視線を合わせる。
ゼロ距離が少し広がり、色付いた頬と、ムッと結ばれた唇がよく見えるようになった。
「んっ……」
言葉を紡ごうとする刹那、しっかりと唇同士を触れさせれば、後は僅かに目を瞬かせるのみ。
そのうち満足気に瞳を閉ざし、私の首へと両腕を巻きつけてくる。
あまりに素直な様に、悪い大人だな、と自嘲の息が漏れた。
「さが……?」
唇を外すと、もう終わりかと言わんばかりにきょとんとした顔をする。かと思えば、全く足りない、ともの欲しそうな表情に変わった。
どこか幼い表情を見ると安心する反面、私だけが知る女の顔にどうしようもなく高揚する。
白い輪郭に指を這わせると、麗子は擽ったそうにしながらも私を受け入れた。
閉じられた瞼に一度口付け、頬を撫でていた指を後頭部へ移動させる。
「……愛している」
今日は私の気が済むまで甘やかされてくれ。
敢えて口にはしないが。
一瞬毎に、この腕の中にいるお前こそが美しいと、そう思うくらいには。
骨抜きにされている自覚があるのだよ。
視線は手許の活字を追うが、内容は全く頭に入ってこない。あまりにそぞろな自身へ大きく息を吐き出し、私は持っていた書籍をテーブルに置いた。
「麗子、いい加減に機嫌を直してくれないか?」
「しらない」
別に気にしてないもの、と言う恋人は一向に此方を見ようとしない。
普段ならここぞとばかり、私に身体を預けてくるだろうに。今はクッションを胸に抱え、ソファーの上で縮こまっている。
私に背を向けて、間にはご丁寧に人一人分の隙間を空けて。
「麗子、おいで」
「やだ」
努めて声色を変えて、数度名を呼んでみた。
しかし返ってくる返事は全て、幼い子供のように短い言葉のみ。
それらから伝わる感情は怒っている、というよりも哀しんでいるようだった。
泣いてはいないが、泣いてしまいたいと背中が言っている。
なけなしのプライドが邪魔をしているのだろう。成人も近いという意識の中、子供扱いをするなという口で感情を爆発させるのは抵抗があるに違いない。
――とはいえ、少し前までは八つ当たりのように言葉をぶつけられた記憶があるのだ。
いっそ泣き喚いてくれればと思ってしまうのも致し方あるまい。……実際にそうされたなら、困り果てる私自身の姿も容易く想像は出来るのだが。
どのような理由があろうと、約束を反故にされた彼女が怒るのは当然だ。
私にはその感情を受け止める義務がある。
罵られる覚悟はしていた。どう宥めようかと考えていた。
だが実際に同じ空間で過ごしてみれば、こちらに強い感情が向けられることはなく、麗子は己の内側に気持ちを抑えようとしている。
拍子抜けした気持ちとやるせない想いがぐるぐると渦を巻いた。
情けない話だ。こと恋愛に関して、いくら大人ぶって余裕を見せようとしても上手くはいかないのだから。
……時間をかけて、彼女は呑み込むだろう。どうにか気持ちに折り合いをつけて、このもどかしい距離を埋めてくれるに違いない。
しかしそれで良いのだろうか。
呑み込ませて。
我慢させて。
今日一日このままの…………否。
それは私が耐えられない。
思考が終着へ辿り着けば、自然と手が伸びた。
「きゃ!?」
バランスを崩した麗子がそのまま後ろに倒れ込んでくる。無論、受け止め損なうなどというヘマはしない。
「サガ!! 何するの!?」
心底驚いたらしく、此方を睨む瞳は少々潤んでいた。
抗議の声にすまないと返して、私は彼女の腰を引き寄せる。そうして腹の前に腕を回し、抱き締めた。
密着することで身体を硬くしているのが伝わってくる。却って不快にさせただろうか、と思うが、赤く染まった耳朶を見るに杞憂であるようだ。
触れ合いに照れるような関係ではなかろうに。そうは思えど、反応が酷く愛おしい。
思わず腕に力を込めれば、とくとくと脈打つ鼓動が伝わってくる。やがてそれは早鐘を打つようなものから穏やかな音へと変わり、私の腕に麗子が触れた。安心したように身体の緊張を解き、此方に体重を掛けてくる。
その変化を知覚したと同時に私の膝上へと強引に招けば、ようやっと見えた表情は驚きに満ちて――いたのも一瞬。拗ねたように頬を膨らませたかと思うと、私の首筋に顔を埋めてしまった。ぐりぐりと頭を押し付け、背に回された両腕は私の服を掴む。
「……私が悪かった。許してはくれないか?」
頭から背中へ掌を滑らせ、指でとん、とん、とリズムを刻めば、身体に伝わる力が緩んでいく。
「……悪いと思ってるならきすして」
か細い声で、甘やかな響きが耳に届いた。
可愛らしい強請り方に口角が上がるのを止められない。
「仰せのままに」
そう言って、リップ音と共にこめかみへ口付けを贈った。
当然、麗子は不服を訴えようと私に視線を合わせる。
ゼロ距離が少し広がり、色付いた頬と、ムッと結ばれた唇がよく見えるようになった。
「んっ……」
言葉を紡ごうとする刹那、しっかりと唇同士を触れさせれば、後は僅かに目を瞬かせるのみ。
そのうち満足気に瞳を閉ざし、私の首へと両腕を巻きつけてくる。
あまりに素直な様に、悪い大人だな、と自嘲の息が漏れた。
「さが……?」
唇を外すと、もう終わりかと言わんばかりにきょとんとした顔をする。かと思えば、全く足りない、ともの欲しそうな表情に変わった。
どこか幼い表情を見ると安心する反面、私だけが知る女の顔にどうしようもなく高揚する。
白い輪郭に指を這わせると、麗子は擽ったそうにしながらも私を受け入れた。
閉じられた瞼に一度口付け、頬を撫でていた指を後頭部へ移動させる。
「……愛している」
今日は私の気が済むまで甘やかされてくれ。
敢えて口にはしないが。
一瞬毎に、この腕の中にいるお前こそが美しいと、そう思うくらいには。
骨抜きにされている自覚があるのだよ。
