カノン×テティス
眼前にある扉を開けようとして、テティスは一度動きを止めた。
中に目的の人物以外居ない事を確認し、おかしな所は無いかと自分の姿を見る。前髪を手櫛でサッと整え準備万端、扉をノックするが反応が返って来ない。
首を傾げもう一度叩いても結果は同じ。
不思議に思ったテティスはドアノブに触れた。鍵は掛かっていないらしい。心の中で部屋の主に詫びつつ、そっと扉を開いく。
「失礼します。海龍様……?」
てっきり手前にある机に座って報告書を睨み付けているものと思っていたのだが、そこに海闘士筆頭の姿は無かった。
では奥に居るのか、と寝室を覗けばベッドに散らばる見慣れた藍色の髪。
「海龍様?」
音をたてない様に近付き、ベッド脇に屈み込む。普段は合わない目線が合い、彼の眉間に兄に負けず劣らず深々と刻まれたしわがよく見えた。
これだけ近付けば起き上がりそうなものだが、今は余程疲れているのだろう。人の気配に敏感な彼には珍しく、起きる様子がない。
自分だから起きないのだと自惚れたい所ではあるが、彼にとっては所詮部下の一人。精々妹か娘だ。
初めて出会ってから――この人を見つめる様になってから何年経つのか。
唇をキュッと結び恐る恐る彼の髪に触れる。
思っていたより傷んではいたが、それにしては柔らかかった。
「……カノン様……」
身を乗り出したテティスは彼の額に唇を寄せた。
触れ合った瞬間、微かに身体が動いた気がしてハッとなる。一体何をしているのだろう。染まった頬を隠す様に彼女は慌てて立ち去った。
パタン、と扉の閉まる音が聞こえた後カノンはむくりと起き上がった。
「……何だってんだ……」
昨日、聖域に居た間に溜まった書類を遅くまで捌いていた。
完全に寝入っていた為テティスが入って来るのに気付かなかった訳だが、流石にあれだけ見られていれば目が覚める。
声を掛けようとも思ったのだが人の髪で戯れる彼女に、感じる視線に籠められた熱に、タイミングを見失った。
そして狸寝入りを続けていれば……。
カノンの意識があった事にテティスが気付いたかどうかは分からない。しかしだ。
「分かっててやってんのか……?」
その行為の意味する事。
伊達に歳はくっていない。
聖戦が終わって数年。子供だった彼女も大人になりつつある。
だがそれは同時に、カノン自身も年をとるという事。
十代の少女が三十路を過ぎた自分に。
有り得るだろうか。まして本当に幼い頃から知っている。普通兄か父親がいいところでは無いのか。
テティスはジュリアンに想いを寄せていると思っていたのだが、違ったのだろうか。
昔からテティスをよく知っているからこそ、カノンは混乱していた。単に親愛だとしても、過去にテティスがこの様な行動を取ったことがあったか。
いや、軽々しくそんなことをする性格では無かった筈だ。
「……これでは愚兄 の事をとやかく言えん……」
頭を抱えながら、カノンは重く息を吐き出す。そして唸りながら、ぼふっとベッドに沈んだ。
中に目的の人物以外居ない事を確認し、おかしな所は無いかと自分の姿を見る。前髪を手櫛でサッと整え準備万端、扉をノックするが反応が返って来ない。
首を傾げもう一度叩いても結果は同じ。
不思議に思ったテティスはドアノブに触れた。鍵は掛かっていないらしい。心の中で部屋の主に詫びつつ、そっと扉を開いく。
「失礼します。海龍様……?」
てっきり手前にある机に座って報告書を睨み付けているものと思っていたのだが、そこに海闘士筆頭の姿は無かった。
では奥に居るのか、と寝室を覗けばベッドに散らばる見慣れた藍色の髪。
「海龍様?」
音をたてない様に近付き、ベッド脇に屈み込む。普段は合わない目線が合い、彼の眉間に兄に負けず劣らず深々と刻まれたしわがよく見えた。
これだけ近付けば起き上がりそうなものだが、今は余程疲れているのだろう。人の気配に敏感な彼には珍しく、起きる様子がない。
自分だから起きないのだと自惚れたい所ではあるが、彼にとっては所詮部下の一人。精々妹か娘だ。
初めて出会ってから――この人を見つめる様になってから何年経つのか。
唇をキュッと結び恐る恐る彼の髪に触れる。
思っていたより傷んではいたが、それにしては柔らかかった。
「……カノン様……」
身を乗り出したテティスは彼の額に唇を寄せた。
触れ合った瞬間、微かに身体が動いた気がしてハッとなる。一体何をしているのだろう。染まった頬を隠す様に彼女は慌てて立ち去った。
パタン、と扉の閉まる音が聞こえた後カノンはむくりと起き上がった。
「……何だってんだ……」
昨日、聖域に居た間に溜まった書類を遅くまで捌いていた。
完全に寝入っていた為テティスが入って来るのに気付かなかった訳だが、流石にあれだけ見られていれば目が覚める。
声を掛けようとも思ったのだが人の髪で戯れる彼女に、感じる視線に籠められた熱に、タイミングを見失った。
そして狸寝入りを続けていれば……。
カノンの意識があった事にテティスが気付いたかどうかは分からない。しかしだ。
「分かっててやってんのか……?」
その行為の意味する事。
伊達に歳はくっていない。
聖戦が終わって数年。子供だった彼女も大人になりつつある。
だがそれは同時に、カノン自身も年をとるという事。
十代の少女が三十路を過ぎた自分に。
有り得るだろうか。まして本当に幼い頃から知っている。普通兄か父親がいいところでは無いのか。
テティスはジュリアンに想いを寄せていると思っていたのだが、違ったのだろうか。
昔からテティスをよく知っているからこそ、カノンは混乱していた。単に親愛だとしても、過去にテティスがこの様な行動を取ったことがあったか。
いや、軽々しくそんなことをする性格では無かった筈だ。
「……これでは
頭を抱えながら、カノンは重く息を吐き出す。そして唸りながら、ぼふっとベッドに沈んだ。
