CPなしの小説

酒の入ったボトルが数本空になる頃。グラスを片手にニヤニヤとデスマスクが笑った。
「今日は日本ではミロの日だってな」
「は?」
何を言い出すのかと手が止まるミロとは対照に、程よく酔いが回っているらしいカノンは興味津々という様子で身を乗り出した。
「語呂合わせ、と言うやつか?」
「みろ、なら3月6日じゃないのか?」
不満を隠さず、ミロはうさぎリンゴを咀嚼しながら吐き捨てた。己と同じ名の飲料がある話は聞いている。しかし今日は11月5日。何故今日が"ミロの日"などと言うのだ。
表情に出たそんな疑問を読み取ったらしいデスマスクはいけしゃあしゃあと答える。
「ああ、3月6日はまさにミロの日だが、11月5日は"いいりんごの日"らしい」
腹立たしい程のドヤ顔で無駄な知識を披露され、思わず咽せた。
気管に入りかけて死にそうになっている隣でカノンが腹を抱える声が聞こえる。
ゲホゲホと必死になっていると激しい音を立てて背中が数度叩かれた。涙目のまま、何とか犯人を睨み付け、ガラガラの声を引き絞る。
「だいぶ無理やりだろ」
肩を竦めたデスマスクはそんなもんだろ、とまた笑う。
「11月を"いい"と読むなら、他にも"いい何とかの日"が色々ありそうだな」
「ああ、いい双子の日とかな」
苦しんでる横で随分笑ってくれた意趣返しにそう言うとカノンはあからさまに嫌そうな顔をした。
「いい線いってるぜ、ミロ。実際ある」
あるのかよ、とカノンとミロの声が重なった。面倒くさいからサガには言うなよ、と凄むカノンの姿は真に迫っている。
「いい兄さんの日とかもあるってよ」
アイオロスには言うなよ、と再び声が揃う。
ちげーねぇ、とデスマスクはケラケラ笑った。
「因みに、あちこちで"いい何とかの日"を作ってて、今日は"いい男の日"でもあるんだとさ」
「なるほど俺の日か」
神をも誑かした男が顎に手を当てしたり顔になる。
なんでだよ、と今度はデスマスクとミロの言葉が重なった。
「いや、なまじ顔が良いだけに腹立つ」
「それな」
自他共に認める黄金聖闘士上位の実力者は万人が認めるだろう、整った顔をしている。
良くも悪くも回る頭、鍛えられた体躯。堅物と呼ばれる兄とは違ってノリが良いのはご覧の通りだ。
空になったミロのグラスへ度数が低めの酒を注いでくれる辺り面倒見の良さもある。
まあ、いい男、と言えるだろう。元敵とも呼べる戦友ともだが、何のかんのと付き合いやすい彼とは戦後よくつるんでいる。
「つまみがなくなるな」
「言うだろうと思ったよ」
やれやれ、と言いたげな顔でデスマスクがキッチンから大皿を持って来た。
「流石。気が効くな」
「デスマスク様だぞ。精々敬って有り難く食べやがれ」
「へいへい。いつも感謝してますよっと」
軽口を叩き合いながら、カノンとデスマスクは互いのグラスを打ち合わせて高い音を鳴らした。
席を立ったと思ったが成る程。デスマスクも相変わらず世話焼きだなと、ミロは幼い記憶を思い出す。
サガとアイオロスの次に自分たち年少組が世話を焼かれていたのは間違いなく彼だった。喧嘩の仲裁をされた記憶はないが、諸々やらかした後の後始末は悪態を吐きながらも手伝ってくれた。
……以前はおどろおどろしい空気を放っていたが、最近の巨蟹宮はよく人の気配がする。年中の三人が集まっていたり、シャカが匂いに釣られて夕餉をたかりに来たり。こうやってミロとカノンが酒を持って来たり。
そんな話を氷河たちにしたら、これでもかと目を丸くしていたことを思い出してミロは笑った。
「なんだ? 急に」
「いや? ……お前ら二人ともいい男だよな、って」
一瞬ポカンとした兄貴分たちが次の瞬間陽気な笑い声を上げる。
「当たり前だろうが!」
「心配するな、お前だって悪くない」
"悪くない"とはなんだ、と思ったがミロはフッと笑うに留めてグラスを掲げた。
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