良亜美


(また、ここに来ましょうね)

そう言って、可憐に微笑んだ貴女
僕は顔を赤くする事しか出来ませんでした

……あれから二年……いいえ、正確には三年が経ちました
極一部の人だけが知る、世界の終焉と再生

僕が十番中学に転校して、貴女たちと出会って
過ごしたのはとても僅かな時間でした
僕はまた直ぐに転校してしまったから
簡単には会えなくなって

それでも思い出は僕にとって、宝物だった

……なのに……
楽しかった思い出も、辛い事件も
人々の記憶から消されてしまった
セーラームーンが、貴女たちが起こした奇跡
リセットされた一年
……あれで良かったのだろうと思います
頭ではそう分かっているのに、僕は……

消えかかっていた能力は、何故か完全に戻っていました
皮肉なものです
好きではなかった力のお陰で僕は真実を知れた
総てを思い出す事が出来たのですから

だけど僕が十番中学に在籍していた、という事実は歴史から完全に消されていました
誰に聞いても、何処を捜しても
まるで一時の夢であったのだと、突き付けるかのように……

その時の衝撃を、どう言い表せば良いでしょうか

それでも、会いに行こうと何度も思いました
セーラー戦士の貴女は全てを覚えている筈だから

……けれど行けなかった……
怖かったんです
恐ろしかった

もし僕の事を覚えていなかったら?
会いたくなかったと言われてしまったら?

亜美さんに相応しい人が、既に隣に居るとしたら…………?

そう考えてしまうと足は言う事を聞いてくれず、気付くと駅に背を向けて自宅へ向かっていました
同じような事を繰り返し、時間ばかりが過ぎて
僕がうじうじ悩んでいる間も、貴女たちは戦い続けていた

もっと僕に勇気があれば
力があれば
最近はそんな事ばかり浮かびます
行動には移せない自分
予知能力が見せる貴女の姿
戦いの光景
……そして増していく想い
苛立ちと情けなさに、このままではダメだと思っていた

そんなある日
両親から告げられた言葉

そのあまりの都合の良さに僕は耳を疑いました
両手で頬を抓って両親を心配させたくらいです
滲んだ涙は痛みの所為だけではなかったのでしょう

父親は所謂転勤族
幼い頃から一つの街に留まる事はありませんでした
そんな生活に慣れきっていた僕は友人を持つ事が苦手でした
どうせ直ぐに離れてしまうのだからと
住んでいた家にすら未練は持たないようにと
……心を殺していたとまでは言いません
それぞれの街で過ごした思い出は宝物です
出逢った沢山の人の中にも友人と呼べる人は幾人かいます

けれど真っ先に思い出すのは
あんなにも離れたくないと思ったのは
十番中学だけでした

僕が高校に入ると両親が学業を心配したのか
父親の単身赴任という形が多くなりました
引っ越し自体は数度あったのですが
転校しなければならないような遠方ではなかったのです
それでも今回は、家族での引っ越しを決めたのだそうで
「どうしても嫌ならこの街に残っても構わない」
とまで言ってくれました
でも僕にその選択肢はなかった

引っ越し先の住所を聞いた時点で、僕は決めていたのです
そこから最も近い公立高校の名が両親の口から出る前に
僕は知っていました
その町に何があるのか
……誰が居るのか

自惚れても良いですか?
意気地の無い僕に神様が与えてくれたのだと

知っていますか?
この間の全国模試
僕の名が貴女の名前の上に並んだ事


……実力で貴女を抜いたら…………

そう約束しましたよね?
今ここに立っている事は
僕一人では出来なかっただろうけれど
僕はここに居ます
この扉を開けば驚いた貴女を見る事が出来るでしょうか?

……でもきっと、直ぐに笑ってくれる
そんな気がします

伝えたい言葉は沢山…………

中でも一番は
あの時言えなかった言葉……


一言


……好きです……と…………
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