その他
自室を出ると階下から弟の声が聞こえた。
「今度の日曜日だね。うん、ありがとう。楽しみにしているよ」
誰かと通話をしているのだろう。弾んだ声にデマンドは自分の頬が緩んでいることを感じる。
そのまま階段を降りると、連絡を終えたサフィールが兄に気付いて顔を輝かせた。
「兄さん!」
「友人か?」
「ペッツだよ。映画の招待券を貰ったから一緒に行かないか、って」
弟の口から出た名前にデマンドはほう、と腕を組む。
「……お前が女性とデートをするようになるとはな」
何をするにもデマンドの後をついて回っていたあのサフィールが、と感慨深くなる。
とはいえ、そういうことを恥ずかしがる年頃だ。揶揄わないでよ、と文句の一つでも言われるだろうと思ったが、デマンドの予想に反してサフィールは首を傾げた。
「違うよ?」
きょとんとしている弟に釣られて、デマンドも同じ仕草を返す。
「2人で出掛けるんじゃないのか?」
「そうだよ?」
だったらそれはデートではないのか、と言おうとしてデマンドは一度口を噤んだ。
「……サフィール、定期的にペッツと会っているだろう?」
「え? うん」
「よく連絡を取っているし、彼女と話したことを私に報告してくるだろう?」
「そうだね」
「……お前たち付き合っているんじゃないのか?」
デマンドの率直な問いにサフィールの目が丸くなる。次の瞬間、無邪気に笑った弟はこう言った。
「まさか! 違うよ兄さん。……でも、確かにペッツには色々と気を遣わせてしまっているな……」
社会人だし、あまり僕に付き合わせるのは良くないよね、と呟きながら考え込む姿にデマンドは失態を悟った。
もし自分の言葉が原因で、サフィールとペッツの間に距離が出来ようものならどのような非難を受けるだろう。特に、何かと四姉妹やサフィールを気にかけてくれている月の姫の怒り顔は想像に難くない。
「男女のきび、ってものがあるでしょう!?」
と、そのようなことを言って眉を吊り上げるだろう。立腹しながらこちらを見上げる姿もきっと美しいに違いない。
……思考が逸れた、とデマンドはかぶりを振った。
「サフィール」
「はい」
思考の海に沈んでいたとは思えぬ速度で弟は兄の呼ぶ声に応える。
あまりに真っ直ぐな瞳に、デマンドは僅かに居心地の悪さを覚えた。軽く息を吐いて気まずさを誤魔化すとサフィールは心配そうな色を覗かせる。
「……仮に気を遣わせているのだとしても、一度受けた誘いを断る方が失礼じゃないか?」
デマンドの言葉にサフィールはハッとした様子で確かに、と呟く。
「ともかく、映画は楽しんでくるといい」
そう言って頭を撫でてやれば、サフィールは嬉しそうな笑顔で頷いた。
食事を済ませ自室に戻った後、どうしたものかと思案する。
下手に口を出すと拗れる予感しかしない。ここは素直に援軍を要請すべきだろう。自然と元部下の顔を思い浮かべるが、デマンドはそれを直ぐに打ち消した。
宮廷闘争のような愛憎劇なら話は別だが青少年の色恋相談をするには流石に人選が悪い。
……背に腹は変えられん。
渋い顔を隠さぬまま、スマートフォンのチャットの画面を表示する。その中から、うさぎと衛がメンバーにいるグループを開き、事の顛末を綴った。
然程間をおかず、端末は返信を告げる。
(あの2人付き合ってないの!?)
(こういうのは外野が口を出しすぎるのもよくないぞ……?)
「……うさぎはともかく、何故地場までレスポンスが早いんだ……?」
平々凡々とした自己主張のない男への苛立ちが沸いた。
仇敵である筈のデマンドへあからさまな敵意を向けるでもなく、友好的に振る舞うでもない。それでいて、必要と判断した対応には卒がない。
腹立たしい、と思う間にもグループチャット上で衛はうさぎと意見を交わしている。
……忌々しいが可愛い弟のためだ。
デマンドは愛しの君と宿敵が交わす議論に合流すべく、文字の入力を進めた。
「今度の日曜日だね。うん、ありがとう。楽しみにしているよ」
誰かと通話をしているのだろう。弾んだ声にデマンドは自分の頬が緩んでいることを感じる。
そのまま階段を降りると、連絡を終えたサフィールが兄に気付いて顔を輝かせた。
「兄さん!」
「友人か?」
「ペッツだよ。映画の招待券を貰ったから一緒に行かないか、って」
弟の口から出た名前にデマンドはほう、と腕を組む。
「……お前が女性とデートをするようになるとはな」
何をするにもデマンドの後をついて回っていたあのサフィールが、と感慨深くなる。
とはいえ、そういうことを恥ずかしがる年頃だ。揶揄わないでよ、と文句の一つでも言われるだろうと思ったが、デマンドの予想に反してサフィールは首を傾げた。
「違うよ?」
きょとんとしている弟に釣られて、デマンドも同じ仕草を返す。
「2人で出掛けるんじゃないのか?」
「そうだよ?」
だったらそれはデートではないのか、と言おうとしてデマンドは一度口を噤んだ。
「……サフィール、定期的にペッツと会っているだろう?」
「え? うん」
「よく連絡を取っているし、彼女と話したことを私に報告してくるだろう?」
「そうだね」
「……お前たち付き合っているんじゃないのか?」
デマンドの率直な問いにサフィールの目が丸くなる。次の瞬間、無邪気に笑った弟はこう言った。
「まさか! 違うよ兄さん。……でも、確かにペッツには色々と気を遣わせてしまっているな……」
社会人だし、あまり僕に付き合わせるのは良くないよね、と呟きながら考え込む姿にデマンドは失態を悟った。
もし自分の言葉が原因で、サフィールとペッツの間に距離が出来ようものならどのような非難を受けるだろう。特に、何かと四姉妹やサフィールを気にかけてくれている月の姫の怒り顔は想像に難くない。
「男女のきび、ってものがあるでしょう!?」
と、そのようなことを言って眉を吊り上げるだろう。立腹しながらこちらを見上げる姿もきっと美しいに違いない。
……思考が逸れた、とデマンドはかぶりを振った。
「サフィール」
「はい」
思考の海に沈んでいたとは思えぬ速度で弟は兄の呼ぶ声に応える。
あまりに真っ直ぐな瞳に、デマンドは僅かに居心地の悪さを覚えた。軽く息を吐いて気まずさを誤魔化すとサフィールは心配そうな色を覗かせる。
「……仮に気を遣わせているのだとしても、一度受けた誘いを断る方が失礼じゃないか?」
デマンドの言葉にサフィールはハッとした様子で確かに、と呟く。
「ともかく、映画は楽しんでくるといい」
そう言って頭を撫でてやれば、サフィールは嬉しそうな笑顔で頷いた。
食事を済ませ自室に戻った後、どうしたものかと思案する。
下手に口を出すと拗れる予感しかしない。ここは素直に援軍を要請すべきだろう。自然と元部下の顔を思い浮かべるが、デマンドはそれを直ぐに打ち消した。
宮廷闘争のような愛憎劇なら話は別だが青少年の色恋相談をするには流石に人選が悪い。
……背に腹は変えられん。
渋い顔を隠さぬまま、スマートフォンのチャットの画面を表示する。その中から、うさぎと衛がメンバーにいるグループを開き、事の顛末を綴った。
然程間をおかず、端末は返信を告げる。
(あの2人付き合ってないの!?)
(こういうのは外野が口を出しすぎるのもよくないぞ……?)
「……うさぎはともかく、何故地場までレスポンスが早いんだ……?」
平々凡々とした自己主張のない男への苛立ちが沸いた。
仇敵である筈のデマンドへあからさまな敵意を向けるでもなく、友好的に振る舞うでもない。それでいて、必要と判断した対応には卒がない。
腹立たしい、と思う間にもグループチャット上で衛はうさぎと意見を交わしている。
……忌々しいが可愛い弟のためだ。
デマンドは愛しの君と宿敵が交わす議論に合流すべく、文字の入力を進めた。
2/2ページ
