その他

「あら可愛い子」
母の声に釣られて視線を向けると、そこには見慣れた白い毛並み。どことなく肩を落として見えることに気が付いて、良は前髪をかきあげた。
「アルテミス……」
良の声に母が振り返る。同時に彼女の足元をすり抜け、アルテミスは良の元へやってきた。
猫らしく「にゃお」と静かに鳴いた彼の両脇に手を入れ抱き上げると、ぐりぐりと服に頭を擦り付けてくる。
「……ルナと喧嘩したんですね」
あまりの勢いにあらましを察して息が漏れた。
「良ちゃんの知ってる猫ちゃん?」
きょとんとしている母に良は苦笑いを返す。
「同級生の飼ってる猫なんだ。ちょっと距離あるから送ってくるよ」
「そう。気をつけてね」
またね、とアルテミスの頭を撫でて母はマンションのエントランスへ入っていく。
その姿が見えなくなるまで見送って、良はぐずぐずと鼻を啜るような音が聞こえ出した腕の中へ視線を落とした。
「……衛さんは……」
「いま、ばいと……」
ですよねー、と出かかった声をころして良はポケットから端末を取り出す。
一先ず美奈子に相棒を預かっていると連絡し、うさぎにはルナの様子を尋ねた。
衛は時間的に難しいかもしれないが、詳細を送っておく。そうすれば後で時間を作ってくれるだろう。その時には既に解決しているかもしれないが、話しが出来るのなら甘えたいと思った。
「……公園にでも行こうか」
ちゃんと聞くよ、と背中を撫でるとすごい勢いで身体が震えだした。
ひどい泣き顔をしているんだろうと想像がついて眉が下がる。少し落ち着く時間が必要そうだ。
落としてしまわないないようにしっかり両腕で抱え直すと真っ白な尻尾が手に巻き付いてきた。
ポケットからも別の振動が伝わってくる。
通話ではなさそうなので、腰を落ち着けるまで待ってもらうことにして、良は歩き出した。
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