良亜美
※良亜美と転生ゾイサイトが一緒に買い物してます
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容姿端麗、才色兼備、傾城傾国。
生物学上は男性といえど、彼を言い表す際にはそんな言葉を並べたくなる。仕草についても艶かしい、と言ってしまえるような華やかな佳人だ。
独特の空気を纏う彼が恋人の隣に立っているのを見ると、良はどうにも胸の奥がざわついて息苦しくなった。
彼はもう敵ではない。警戒する必要などないというのにだ。
自己嫌悪に溜め息が出る。暗い思考に頭が重く感じ、こめかみへ指先を押し付けた。
「……別に普通の感覚じゃない?」
そんな真面目に考えて思い詰めなくても、と呆れた声に肩が跳ねた。
「顔を見れば分かるわよ」
表情を読むのは得意なのよね、と微かに笑いながら彼―― 栄倉麗夜 は束ねずに流している横髪を指でくるくると弄んだ。仲間内でこの仕草が様になるのは彼くらいだろうと思う。
「なに?」
右手で頬杖をつきながら、麗夜は首を傾げる。真っ直ぐ良を見る翠玉は曇りなく輝いていた。大人びた雰囲気とは反した純粋な瞳になんとも不思議な気分になる。彼が自分と同じ歳の少年であることは間違いない事実なのだが、どうにも歳上意識が抜けない。
時折見せる幼い言動に理解が追いつかず、妙な間を返してしまうことが多々あった。
今もまさにその状態である。内心猛省して良は話題の転換を試みた。
「……亜美さんはお会計に?」
「ええ。気に入ったみたいで良かったわ」
もう少し待ってあげて、と亜美がいる方向に向けられた視線はとても優しい。
……敵対していたかつては言わずもがな、前世の王宮でもこれほど穏やかな表情をした彼を見たことはなかったように思う。他の四天王や王子に対して年相応に笑ったり怒ったりといった姿を見た記憶はあるが、それよりも不特定多数へと向けられた冷たい視線の方が印象強い。
「……言いたいことはもっと口に出したらどうなの?」
ジトっとした目を向けてくる麗夜に良は苦笑いを返す。視線が不躾すぎたと詫びを口にするが、不服そうな表情は変わらなかった。
「もしかして自覚ないわけ?」
「え?」
何の話だろう、と考える。自分が隠しきれなかった感情が彼を不快にさせたのではないのだろうか。
「ほんっとに、あんたたちときたら……!」
もう、と腰に手を当て、麗夜は良を睨む。
何故分からないのだろうと言わんばかりの様子に困惑していると、不意に距離が縮まった。
「あたしに嫉妬してる暇があるなら、きちんと言葉にしてあの子に伝えなさい! って言ってるの!」
……嫉妬。
嫉妬……?
誰が、誰に?
青天の霹靂と言っても過言でもない言葉に思わず息が止まる。
毅然と言い放った麗人は前のめりになっていた姿勢を戻して腕を組んだ。
「あっきれた。……二人きりにしたくないからついてきたんじゃないの?」
そう言われて良は言葉に詰まる。
思わず目線を彷徨わせて、最終的には床を見た。
「…………ぼくは……」
二人だけで行かせたくないと思ったのは確かに事実だった。大丈夫だ、と心に言い聞かせても不安で仕方なかったから同行を申し出た。
けれど、何故不安だったのかと具体的に問われても解答を導き出せない。
良は麗夜が信頼出来ないとは思っていなかった。かつての地球国四天王との再会を果たしてから、少なくない交流の中で彼の為人は理解しているつもりだった。
それでも、麗夜のことを大切な友人だと話す亜美に心が騒めいた。楽しそうに話す姿を見て、心は暖まるのに指先は冷えていった。
……なるほど、冷静に考えればそれは麗夜の言うとおりだと思う。
「世話の焼けること」
くす、と笑う彼の声は言葉の割に冷たくはない。
けれどもなんと返すべきか分からず、良は視線を合わせられなかった。そのまま気まずい沈黙、とはならず涼やかな声が響く。
「待たせてごめんなさい」
たった一言。それだけで、良は自分にまとわりついていた嫌な熱が霧散し身体が軽くなるのを感じた。
「大丈夫、全然待ってないわよ」
「……はい。いい買い物が出来て良かったです」
考え込んでいたにしても、自分が先に声を掛けるべき場面だろう、と瞬発力のなさが嫌になる。
けれど、良の言葉で咲いた穏やかな笑顔に心が凪いでいくのを感じた。
「歩きっぱなしだったし、休憩しましょうか。麗夜ちゃんがうさぎちゃんたちと行ったっていうカフェ、この辺りじゃなかった?」
「そうね。行きましょう」
揃って歩き出そうとしたところで良はハッとして声をあげた。
「亜美さん、持ちます」
「え?」
「あら」
驚いた亜美の手からショッピングバッグを受け取り、左手に持ち変えた。やるじゃない、と聞こえた声に、もたつかなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「あの、良くん……」
「かなり大きいですし、持ちますよ」
ショップのロゴが描かれたシンプルな白い紙袋。重さはそれほどではないが、冬物のコートが入っているためどうしても嵩張ってしまう。
「でも、私の荷物だし……」
亜美はオロオロと良の顔と手許を交互に見た。気にしないでください、でも、というやりとりが数度往復したところで、助け舟が出される。
「こういう時はね、相手を立てて持たせてあげればいいの」
うちの男共にも見習わせたいくらいだわ、と言って麗夜は片目を瞑った。
「……そう、なの?」
「そうよ。だから早くカフェに行きましょう。もう足が棒みたい」
わざとらしく言う麗夜に亜美は笑みを溢した。良も思わず口角が上がる。
「……じゃあ、荷物お願いしてもいいかしら?」
「はい! 勿論です」
はにかんだ恋人からそんな風にお願いをされて否と答える男がいるものか。ついつい返事に力が入ってしまったことに対して恥ずかしさはあるが、頬が弛むのは止められそうになかった。
「幸せそうな顔しちゃって……」
ふふふ、と笑顔を浮かべる麗夜はやけに楽しそうだ。けれどそれは決して揶揄うような表情ではなく、見守るような優しい微笑みに見える。
ああ、この人にとって自分達は友人であり、被保護者なのか。
そう考えるとなんだか感情がすとんと心に落ちてきた。同時に少し腹立たしくも思う。
前世で初めて会った時、良は確かに子供だった。一方でゾイサイトもそう変わらぬ歳ではあったが、政にも関われる立場の戦士だった。既に王子の側近としての地位があり、守る側の大人として扱われていた。
成長後とて良は戦士ではなかった。故に彼の中ではあの頃から印象がさほど変わらないのだろう。
……不服に思った。
前世は揺らがない。過去は変わらない。けれど現世は現世だ。
今の良と麗夜はただの高校生なのだから。
かつては産まれも立場も違った。しかし今は国すらも違った亜美と3人で並んで歩いている。
もっと麗夜を知ろう。
今の麗夜を。ただ同い年の友人として。
……正直に言って相性はよくないのでは、とも思うのだが。せめて、クラスメイトに接するように自然な態度で居られるようにしよう。
そう決意したことに気付いたのか否か、麗夜は面白そうに笑って良を見ていた。
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容姿端麗、才色兼備、傾城傾国。
生物学上は男性といえど、彼を言い表す際にはそんな言葉を並べたくなる。仕草についても艶かしい、と言ってしまえるような華やかな佳人だ。
独特の空気を纏う彼が恋人の隣に立っているのを見ると、良はどうにも胸の奥がざわついて息苦しくなった。
彼はもう敵ではない。警戒する必要などないというのにだ。
自己嫌悪に溜め息が出る。暗い思考に頭が重く感じ、こめかみへ指先を押し付けた。
「……別に普通の感覚じゃない?」
そんな真面目に考えて思い詰めなくても、と呆れた声に肩が跳ねた。
「顔を見れば分かるわよ」
表情を読むのは得意なのよね、と微かに笑いながら彼――
「なに?」
右手で頬杖をつきながら、麗夜は首を傾げる。真っ直ぐ良を見る翠玉は曇りなく輝いていた。大人びた雰囲気とは反した純粋な瞳になんとも不思議な気分になる。彼が自分と同じ歳の少年であることは間違いない事実なのだが、どうにも歳上意識が抜けない。
時折見せる幼い言動に理解が追いつかず、妙な間を返してしまうことが多々あった。
今もまさにその状態である。内心猛省して良は話題の転換を試みた。
「……亜美さんはお会計に?」
「ええ。気に入ったみたいで良かったわ」
もう少し待ってあげて、と亜美がいる方向に向けられた視線はとても優しい。
……敵対していたかつては言わずもがな、前世の王宮でもこれほど穏やかな表情をした彼を見たことはなかったように思う。他の四天王や王子に対して年相応に笑ったり怒ったりといった姿を見た記憶はあるが、それよりも不特定多数へと向けられた冷たい視線の方が印象強い。
「……言いたいことはもっと口に出したらどうなの?」
ジトっとした目を向けてくる麗夜に良は苦笑いを返す。視線が不躾すぎたと詫びを口にするが、不服そうな表情は変わらなかった。
「もしかして自覚ないわけ?」
「え?」
何の話だろう、と考える。自分が隠しきれなかった感情が彼を不快にさせたのではないのだろうか。
「ほんっとに、あんたたちときたら……!」
もう、と腰に手を当て、麗夜は良を睨む。
何故分からないのだろうと言わんばかりの様子に困惑していると、不意に距離が縮まった。
「あたしに嫉妬してる暇があるなら、きちんと言葉にしてあの子に伝えなさい! って言ってるの!」
……嫉妬。
嫉妬……?
誰が、誰に?
青天の霹靂と言っても過言でもない言葉に思わず息が止まる。
毅然と言い放った麗人は前のめりになっていた姿勢を戻して腕を組んだ。
「あっきれた。……二人きりにしたくないからついてきたんじゃないの?」
そう言われて良は言葉に詰まる。
思わず目線を彷徨わせて、最終的には床を見た。
「…………ぼくは……」
二人だけで行かせたくないと思ったのは確かに事実だった。大丈夫だ、と心に言い聞かせても不安で仕方なかったから同行を申し出た。
けれど、何故不安だったのかと具体的に問われても解答を導き出せない。
良は麗夜が信頼出来ないとは思っていなかった。かつての地球国四天王との再会を果たしてから、少なくない交流の中で彼の為人は理解しているつもりだった。
それでも、麗夜のことを大切な友人だと話す亜美に心が騒めいた。楽しそうに話す姿を見て、心は暖まるのに指先は冷えていった。
……なるほど、冷静に考えればそれは麗夜の言うとおりだと思う。
「世話の焼けること」
くす、と笑う彼の声は言葉の割に冷たくはない。
けれどもなんと返すべきか分からず、良は視線を合わせられなかった。そのまま気まずい沈黙、とはならず涼やかな声が響く。
「待たせてごめんなさい」
たった一言。それだけで、良は自分にまとわりついていた嫌な熱が霧散し身体が軽くなるのを感じた。
「大丈夫、全然待ってないわよ」
「……はい。いい買い物が出来て良かったです」
考え込んでいたにしても、自分が先に声を掛けるべき場面だろう、と瞬発力のなさが嫌になる。
けれど、良の言葉で咲いた穏やかな笑顔に心が凪いでいくのを感じた。
「歩きっぱなしだったし、休憩しましょうか。麗夜ちゃんがうさぎちゃんたちと行ったっていうカフェ、この辺りじゃなかった?」
「そうね。行きましょう」
揃って歩き出そうとしたところで良はハッとして声をあげた。
「亜美さん、持ちます」
「え?」
「あら」
驚いた亜美の手からショッピングバッグを受け取り、左手に持ち変えた。やるじゃない、と聞こえた声に、もたつかなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「あの、良くん……」
「かなり大きいですし、持ちますよ」
ショップのロゴが描かれたシンプルな白い紙袋。重さはそれほどではないが、冬物のコートが入っているためどうしても嵩張ってしまう。
「でも、私の荷物だし……」
亜美はオロオロと良の顔と手許を交互に見た。気にしないでください、でも、というやりとりが数度往復したところで、助け舟が出される。
「こういう時はね、相手を立てて持たせてあげればいいの」
うちの男共にも見習わせたいくらいだわ、と言って麗夜は片目を瞑った。
「……そう、なの?」
「そうよ。だから早くカフェに行きましょう。もう足が棒みたい」
わざとらしく言う麗夜に亜美は笑みを溢した。良も思わず口角が上がる。
「……じゃあ、荷物お願いしてもいいかしら?」
「はい! 勿論です」
はにかんだ恋人からそんな風にお願いをされて否と答える男がいるものか。ついつい返事に力が入ってしまったことに対して恥ずかしさはあるが、頬が弛むのは止められそうになかった。
「幸せそうな顔しちゃって……」
ふふふ、と笑顔を浮かべる麗夜はやけに楽しそうだ。けれどそれは決して揶揄うような表情ではなく、見守るような優しい微笑みに見える。
ああ、この人にとって自分達は友人であり、被保護者なのか。
そう考えるとなんだか感情がすとんと心に落ちてきた。同時に少し腹立たしくも思う。
前世で初めて会った時、良は確かに子供だった。一方でゾイサイトもそう変わらぬ歳ではあったが、政にも関われる立場の戦士だった。既に王子の側近としての地位があり、守る側の大人として扱われていた。
成長後とて良は戦士ではなかった。故に彼の中ではあの頃から印象がさほど変わらないのだろう。
……不服に思った。
前世は揺らがない。過去は変わらない。けれど現世は現世だ。
今の良と麗夜はただの高校生なのだから。
かつては産まれも立場も違った。しかし今は国すらも違った亜美と3人で並んで歩いている。
もっと麗夜を知ろう。
今の麗夜を。ただ同い年の友人として。
……正直に言って相性はよくないのでは、とも思うのだが。せめて、クラスメイトに接するように自然な態度で居られるようにしよう。
そう決意したことに気付いたのか否か、麗夜は面白そうに笑って良を見ていた。
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