スタレ
この世の中にはバース性なるものが存在する。幼い頃より刷り込まされるように何度も説明されるそれ曰く、社会の上に立つヤツらは揃いも揃ってαだなんだってアレだ。細かいことは覚えてなんかねぇ。今じゃそんなゴタゴタとは無縁の機械の身体だしな。ま、このイカれた世界の中で考えることが少ないってのはある種良いことなのかもしれない。
それが嫌で生身の身体を捨てるヤツもいるくらいなんだ、面倒臭いことには関わらねぇに限る。
なんて思っていたのがついこの間。
「ブートヒルさん、どうしました?何か悩み事ですか?」
「あー、強いて言うならアンタのことだな」
「ああ!僕のことを考えてくださっていたのですね!これ程嬉しいことはありません……」
周りにも聞こえるくらいの爆音で、作り物みたいに綺麗な面をした男が声を発する。
「いちいち声がうるせぇんだよ、キューティーが」
こいつは最近ちょっとした縁で何かとご一緒した……いや、する羽目になった純美の騎士、アルジェンティだ。
どういうわけか、この鼻も頭も狂っているαは、機械仕掛けで金属とオイルの匂いしかしないオレに御執心だった。
「あー、もう。アンタが一緒だと目立つったらねぇ」
αだからでは片付けられないくらい、辺りの視線を全部かっさらうような面の良さだ。オレがいる手前声をかけてくる命知らずはいないみたいだが、ジロジロと視線が痛い。
一応指名手配されてんだけど、オレ。まぁ、辺境の星だし、ある種良いカモフラージュになっているのかもしれないと思いながら、オレへの賛美を続けるアルジェンティの腕を掴み歩き出す。
「で?アンタ、いつもの船は?」
「この星は大きな港がありませんからね。街の外れに許可が下りたのでそちらに」
「そうかよ。ならホテルか?」
「ええ、ブートヒルさんがここにいるのは分かっていましたから。二人分お取りしています」
「はー、いつものことながら準備がいいこって」
なんで居んのがわかるんだよ、だとかは聞いてやらない。運命やらなんやら言い出して、時間の無駄だからだ。それに、今日は見せたいものがある。
「貴方がいいと仰るのでしたら是非」
「それ、断ったら後が怖ぇだろ。で、それどこら辺よ」
腕を離しそう問えば、アイツはふっと微笑み案内を買って出た。他人が見ているってのに、手を取りそっとキスを落とす。
「なっ、このウーウーボ!そう言うのは人前で止めろって言ってんだろ!」
「2人っきりなら良いと?」
「だーもう、分かったから早く案内しろよ」
愚かしいことに、自分でも顔が赤くなっているのがわかる。だって、こんな面の良いヤツにそんなことされてみろよ。オレじゃなかったらぶっ倒れてんぜ?
「ふふ、愛らしくてつい。困らせたかった訳ではないのですが……さぁ、こちらです」
エスコートされるようにそのまま歩かされ、つい足元を向く。周りの視線が痛い。どうせサイボーグ相手に何やってんだ、とかそんなところだろう。そりゃそうだ。こんなの狂ってる。
いや、でも自分も変わらないか。見せたいもののことを考えて、おかしくなって笑いが溢れた。
ホテルに着けば、想像通りそこは安宿等ではなく、多分この周辺で一番上等だろうことが見て分かるような所だった。
豪華な内装、裕福そうな客に一瞬ピノコニーでのことを思い出す。
「かぁ、相変わらず良いとこ選ぶな」
「道行く人々に尋ねたらここを案内されたんです」
そりゃそうだろうよ。アンタ、安宿に泊まるようにゃ見えねぇもん。口に出かけた言葉を飲み込み、二人でフロントに声を掛ければ、オレはいつも通り偽名で登録されていた。
「あの時を思い出しますね」
「ぎゃはは、おんなじこと思ってたわ」
こちらとしてはあんまり思い出したくない記憶なんだけどな。
酒片手に何度も運命だと口説いてくるアルジェンティをのらりくらりと軽くかわしていたハズが、気付けばまんまと取って食われちまった何て言うほんのり苦い記憶だからだ。孔もないのに興奮しきっていたのに少し引いたのは内緒の話だが、それは置いておいて。
「ブートヒルさん?」
「いや、何でもねぇよ」
チェックインを済ませた様子のアイツに名前を呼ばれ、誤魔化すように欠伸をひとつすると、後に続いた。
エレベーターで上の階に上がり、少し古めかしいが、掃除の行き届いた廊下を抜け目的の客室に辿り着くと、そのまま部屋の中に引き込まれる。
正直アルジェンティ相手だからか少し油断していたんだろう。部屋に入った途端、待ってましたと言わんばかりにぎゅうっと抱き締められ、首筋に顔を埋められた。
「ん、アルジェンティ?おい、大丈夫かよ」
「ブートヒルさん、すみません。貴方からとても良い香りがしてつい」
珍しく息の荒いアルジェンティに、具合でも悪いのかと心配になったが、どうやらそうではないようだ。腰辺りに硬いものを当てられ、はっとする。
「香りだぁ?いつもと変わんねぇと思うが」
「いつも以上に濃い……ねぇブートヒルさん。僕に何か隠していませんか?」
……なんで分かるんだよ。犬か。
しょうがねぇヤツだな。まあ、良く我慢した方か。ふふ、と微笑み、アイツの手を掴むとそのまま股座に押し当てる。
「っ、はぁ……、分かるか?」
「!」
ズボン越しにそこを触って、一瞬にして全てを悟った純美の騎士様は、どろりと欲に溶けきった瞳でこちらを見ていた。
そう、気の狂ったことに、オレはわざわざ股間のパーツをカントに変えたのだった。
何のためにって?ちょっとした気紛れ。それ以外なんでもない。
「ブートヒルさん!」
「うおっ!?」
がばっと抱き抱えられ、そのまま部屋の奥へ連れていかれる。相変わらずとんでもねぇ力だ。腕を背中に回し、落ちないようにしがみつく。あ?どこへって、そりゃベッドルームだろ。
「ああ、こんなに嬉しいことがあるだなんて!」
「喜んでるようで何より、だ。オレみたいなのが良いなんてアンタ本当に変わってんな」
運命だなんだ言おうとも、バース性のないオレとなんか、どうせ真似事にしかならないのに。それなのに喜ぶアイツを見て、思わず微笑む。変わり者のアンタにくれてやるよ。
「っ、オレは逃げねぇから、鎧ちゃんと脱げよ?」
シーツの海に優しく下ろされ、今にも襲いかかってきそうな勢いのアイツに言い付ける。そうすれば、うっと唸りながらもオレの上から退いて鎧を脱ぎ出すアイツに、自然と広角が上がった。
やっぱり、犬みてぇなヤツ。
ごとり、と音を立てて外されていく鎧を眺めながら、こちらもズボンを脱いでやる。拡げるようにそこを見せ付けてやれば、急いで鎧を脱いだアイツが荒い息のままのしかかってくる。
「ブートヒルさん、そんな……はしたないですよ?」
「ははっ、そう言う割にゃ興奮してんじゃん。鼻息荒いぜ?……んんっ、」
されるがままに押し倒され、ちゅっと唇を吸われた。ぶわっとアイツの香りが漂って来て、飲まれそうになる。やっぱり良い匂いだ、嫌いじゃねえ。
「……ほら、早くこっちも触ってくれよ」
言いたかないが、自分でも分かるくらい濡れているそこにアイツの手を導けば、恐る恐る壊れ物にでも触るように優しく膨らみを撫でられた。
「んあっ、♡」
甘く勃ち上がる陰核に指が擦れて気持ちが良い。ねっとりとした粘液を指に絡めると、擦り付けるようにこりこりと押し潰され、甘い声が漏れた。
「痛みはありませんか?」
「んんっ、あっ……痛くねぇっ、良い♡」
問題なく作動しているようで良かったと思う反面、刺激が強すぎてすぐにでもとろけてしまいそうになる。腹ん中がじくじく疼いて、それが切なくてしょうがない。
「っ、ああ、可愛らしい。僕のためにこんなになって……嬉しいです。もっともっと、乱れてください」
耳元でそう囁かれ、身体が強ばる。そうやって囁かれるのすら気持ちが良くって、自然と腰が揺れ動く。でも、はじめてのパーツだからだろうか、上手くイケない。助けを求めるようにアルジェンティにすがり付けば、ぶわっとバラの香りが漂った。
「っ、!」
瞬間、びりびりと背筋を電気が駆け抜けるような刺激に襲われる。
「ブートヒルさん?」
「んっ♡♡あ、ぅ~~~~っ?♡ある、じぇんてぃ♡♡なんかおかしいっ♡♡」
甘い香りにどうにかなってしまいそうだった。わけもわからず?マークを頭いっぱいに浮かべながらしがみつくと、アイツが興奮しきった様子で首筋にかじりついてきた。
「んんっ♡♡」
「ああっ、貴方を堕としてしまった。やっぱり、貴方は僕のΩだ」
「あぇ?♡♡そんなわけっ♡♡やっ、あ゛♡♡なんかの間違いっ♡♡♡」
気持ち良すぎて溶ける。こんなの知らない。くちゅくちゅと音を立ててそこを愛撫され、ぼろぼろと涙を溢す。こちらも首筋に歯を立てれば、一層甘い匂いが濃くなって、思考がどろりと溶け出す。
「ぎゃ、ぅ♡♡またいくっ♡♡や゛、こんなのきいてないっ♡♡♡」
「ふふっ、まだ触っているだけなのにこんなに濡らして……いやらしいですね」
「うっせっ、はぁっ♡♡う゛~~~~っ!♡♡」
まだ外を触っているだけなのに、何度も絶頂させられ頭が霧がかかったかのようにぼんやりしてくる。でも、このままナカに指を挿入されたら壊れちまうかもしれない。それが怖くなって、アイツにしがみつくとがりがりと背中を引っ掻いた。
「あるじぇ、ん゛っ、♡♡♡アルジェンティ、そこばっかっ♡♡おかしくなるっ♡♡」
「おかしくなんてないですよ、大丈夫です。ほら、ゆっくり挿入れてみましょうね♡」
アイツの指がゆっくり挿入ってくる。くぷくぷ音を立てながら、優しく慣らすように指を出し入れされ、気持ち良さに口の端しから唾液が溢れた。
「ひあっ、♡♡それ♡♡だめんなるっ、ぅ♡♡」
サイボーグはバース性から解放されたなんて誰が言ったんだ。嘘つき、全然解放なんてされてねぇじゃん!そも、オレは元々βだ。Ωじゃねぇ。
それなのに、αのアルジェンティの匂いを嗅ぐと腹の奥がきゅんきゅん疼く。辛くて、自分からキスをねだれば、アイツはふっと微笑みキスの雨を降らせた。
「すぐにでももう1本挿入ってしまいそうだ……。ねぇブートヒルさん、好きって言ってくださいっ」
「はぁっ♡♡すきだっ、♡♡あるじぇんてぃ、すき♡♡」
言われるがままに何度も好きだと繰り返す。何度もそうしていると、本当に好きになってしまったように錯覚をしてしまう。身も心も堕ちる。堕とされる。
――でも、アルジェンティにならそれも良いかもしれない、なんて。
「ゆびっ、ふやすなぁっ♡♡」
「だって、このままじゃ僕の、挿入れられませんよ?」
「やだぁ♡♡いれてほしっ♡♡」
認めてしまったら、あとはもうなし崩しだ。初めてとはいえはなからアイツ用に作られたそれにそもそも前戯は必要ないし、そのままでも挿入できるのに。ぐちぐちとしつこいくらい苛められて、びくびくと身体を跳ねさせた。
徐に指を引き抜かれ、思わず声が裏返る。
「んんっ、ひぃ♡♡♡」
「ブートヒルさんっ、後ろ、向けますか?」
「うえ?♡♡♡」
ずるりと立派な陰茎を引き摺り出され、腹の上にずしりと乗せられる。それだけで、犬のようにはぁはぁと浅い呼吸を繰り返した。
「わかった、」
言うことを聞かない身体をゆっくりと起こし、後ろを向く。何をされるのか、すぐにわかった。
「ブートヒルさん、項を噛んでもいいですか?噛ませてください。僕にすべて委ねて……」
「っ!」
すがり付くような、今にも泣きそうな声音に、溶けきっていた思考が少しクリアになった。なんでそんな声出すんだよ。
「どうか、許して」
「……、アルジェンティ」
心なんて、とっくに決まってんだっつーの。
「いいぜ、噛めよ」
「いいんですか?」
「いいから、全部許すから」
噛んで?そう呟きながら髪の毛を掻き分け項を差し出せば、アルジェンティは嬉しそうに微笑むとちゅっとキスを落とした。
「いきますよ」
そうして、人工的に作られた皮膚にゆっくり歯が食い込む。
「あ゛ぁ♡♡」
瞬間、とてつもない多幸感にふるりと身体を震わせる。ああ、満たされている。終わりのない快感の中、蜜壺に熱いものを当てられ、思わずきゅっとナカを締め付けた。