スタレ

アルジェンヒルで現パロその2
ほとんど日常編です
ぶーちゃんにセフレがいる描写があります


 新しい部屋に引っ越しをして早一ヶ月。あんな目にあったと言うのに、僕は彼を嫌いになるどころかますます好きになってしまっていた。
 ちょうど家に帰る頃彼が出ていくのもあって、結構な頻度で顔を合わせるのだ。最初は何処かよそよそしかった彼もあいさつをする回数が十を越えた頃にはだいぶ砕けた様子で話し掛けてくるようになっていた。
 そうなってくると、気になるのは彼の生活習慣である。まず、彼は夜出ていくと帰ってくるのは翌朝。そのくらいではまぁ夜勤職なんだろうで済むのだが、たまたま目に入ったごみ袋は即席麺だのエナジードリンクの缶ばかりで、とてもまともな生活をしている様子ではなかった。それどころか、酷い日は目の下には深いくまが刻まれていて、まともに寝れていないのが丸わかりなのだ。
 最初はただの隣人でしかない僕が何か言ったところでなんて思っていたのだが、こうまで命を削るような生き方をされると、そのうち倒れてしまうのではと心配になる。
 こう言う時は、あれこれ考えず行動するに限る。もし駄目だったらその時に考えればいい。そう思い立ち、会社帰りにスーパーに寄って目についた物を片っ端から買い漁った。
 そうして両手に袋を抱え、彼の部屋のインターホンを押したのだった。
「はいはい、ってアンタかよ。随分と大荷物だな」
 彼は頭を掻きながら何処か気だるげに扉を開けたので、閉められないように足を挟み込む。
「あ?」
「ブートヒルさん!今日、これからご予定はありますか?」
「……予定?なら今日は休みだけどよ」
「それなら良かったです!今から晩御飯を作るので一緒に食べませんか?」
「……」
 彼は一瞬考えた後とても嫌そうな顔をしたが、そこは予想通りだ。そのまま自然な流れで玄関に入り込むと、畳み掛ける。
「駄目ですか?」
「そう言う割にもう入ってきてンじゃねぇか馬鹿野郎」
 追い返すならそうすれば良いのに、彼は頭を抱えた後、しょうがねぇなと一言呟いた。
 よし、一先ずは作戦成功だ。
「で?何を作るって?」
「ピーマンの肉詰めを作ろうかと」
 彼は袋を一つ引ったくるように取ると、がさがさと中身を漁り始める。確認し終えると、もう一つの袋も取られた。
「……それで徳用の合挽き肉?で、これは?」
「じゃがいもですね。ポテトサラダを作ります」
「おうそうか。それならなんでこんな量を買ってきたんだ?」
「足りなかったら困ると思いまして」
 微笑みながらそう言うと、彼はまた頭を抱えてしまった。何か悪いことをしただろうか?首を傾げながら彼を見つめると、ゆっくり口を開く。
「……それにしたって量が多いんだよ!何人前作る気だ?てかそれ以前にピーマン買ってねぇたぁ舐めてンのか?」
「あっ、どうしましょう……忘れました」
「どうしましょうじゃねぇよ、メインディッシュだろうが!あー……これならまだハンバーグに出来るか……たくしょうがねぇな、上がれよ」
 そう言うと、彼は先に廊下を歩いていってしまった。
 とりあえずは作戦成功?だろうか。
「はい!お邪魔します!」
 慌てて靴を脱ぐと、彼の後ろを着いていく。僕の部屋と間取りは同じだからか不思議な感覚のする廊下を抜けリビングへ入ると、そこはなんとも殺風景な部屋だった。
「あんまジロジロ見んなっての。で、アンタ料理は出来るのかよ?」
「ええ!出来ます!」
「なんか不安なんだよなぁ……んじゃ、包丁はここ。後は好きに使っていいからな」
 そのまま必要最低限のものしかないキッチンに通される。はて、何時ものアレがない。
「ブートヒルさん、この家にみじん切り器はありますか?」
「……そんな上等なモン、あるわけねぇだろ!包丁で切れ包丁で!バカか!」
「えっ」
 思わず彼の方を見て動きを止める。僕は包丁で玉ねぎを切ったことがない。どうして良いかわからず彼の方を見ると、ため息混じりに包丁を取り出した。
「……たく、アンタ何しに来たんだよホント。オレがやるからアンタは……いや、やっぱり邪魔だわ。ソファに座ってろ」
「何か手伝わせてください!」
「いいから座ってろって。アンタに任せる方が怖いわ」
 キッチンを追いやられ、しょんぼりしながら言われた通りソファに座る。手持ち無沙汰でそわそわしながら待っていると、彼は手際よく料理を作っていくのが見える。
「すごいです!手際良いですね!」
「あー、慣れてっからな」
 彼はてっきり料理が出来ないのだとばかり思っていたが、包丁の扱いを見る限りそんなことないようだ。じゃあなんで即席麺ばかりだったのだろうか。
「ブートヒルさんは普段から料理をされるんですか?」
「いや、オレ一人だしわざわざ作る気にならねぇだろ?……前のバイトが飯屋だったんだよ」
「そうだったんですね!通りで!」
 彼のことを知れたのが嬉しくて彼に微笑みかければ、つられて彼も笑った。最初の計画とはちょっと違うが、これはこれで良かったのかもしれない。
「つかこの時間からポテトサラダも作らなきゃいけないのか……」
「すいません。出来合いの物を買ってくれば良かったですね」
「いや、気にすんなって。電子レンジ使えば少しは時短になんだろ。ま、任せておけよ。アンタは……そうだな、適当に暇でも潰してな」
「じゃあ料理を作っているのを眺めていてもいいですか?」
「何が楽しいんだ、それ。邪魔になんねぇんならいいぜ」
 そう言うと、彼は料理に集中し始めた。
 


 一時間ほど経った頃にはご飯も炊き上がり、机に料理が並び始める。彼の手際のよさは凄まじく、電子レンジを使った時短のテクニックも相まって目から鱗の連続だった。
「こんなもんだろ。はー、久々に何か作ったわ」
「本当に凄かったです!ブートヒルさんは器用なんですね」
「とりあえずわかったのは、アンタまともそうな見た目の割にポンコツなんだなってことだわ」
 そう呟きながらも割り箸を差し出され、ありがたく受けとる。メニューはハンバーグとポテトサラダ。ついでに作られたニンジンのグラッセ。これだけでも十分なくらいだろう。
「二人分作ってもまだ余るくらい買ってきやがって……どうすんだよアレ」
「次は僕がちゃんと料理をしますから。任せてください」
「本当かぁ?つか次も来る気かよ。ぎゃははっ、アンタホント面白いな」
 何気なくそんなやりとりをしながら、手を合わせちゃんといただきますを言ってから料理に手を付ける。
「ああ、美味しいです!ブートヒルさんは料理の才能があるんですね!」
「大袈裟だろ」
 それでも褒め称えていると、段々恥ずかしくなってきたのか彼は視線をそらしてしまった。それさえ愛しくって、ふっと微笑む。
「ブートヒルさん、僕、貴方のことが好きなんです」
「は?オレを?アンタ、オレが何してンのか知ってんだろ?」
「ええ、知っています。ずっと見ていましたから。それでも好きなんです。どんどん大きくなっていく。もう、貴方しか目に入らないくらいだ」
 思いの丈をつらつら口にする。言い始めたら止まらなくなって、言うつもりのなかったことまで飛び出してしまったが、彼はそれを茶化したりせずちゃんと聞いてくれていた。
「だから、心配になったんです。ちゃんとご飯を食べているのか」
「それで押し掛けてきたのかよ」
「結果貴方に作らせてしまいましたが……」
「アンタ結構見きり発車なんだな」
 ハンバーグをつまみながら彼は言う。確かに見きり発車だったかもしれないと、ほんの少しだけ反省しつつ、答えを待った。
「オレはアンタの想いに答えられるほど綺麗じゃねぇからよ」
「貴方は綺麗です」
「なんも知らねぇ癖に」
「知らなくても、僕からすれば貴方は綺麗だ。一瞬を照らす流れ星のように、僕の前に現れたじゃないですか」
「なんだよそれ」
 はたと、彼の手が止まる。彼が何を言おうが僕の気持ちは変わらない。それだけ好きで、それだけ愛していた。この一瞬が永遠になれば良いのに、本気でそう思うくらいには。
「そんな目でオレを見ないでくれ」
「嫌です。貴方が真っ直ぐに僕を見てくれるまで、いくらでも待ちます」
「……」
 これを恋と呼ばずして、なんと呼ぶのか。現実での付き合いはほんの一ヶ月なのに、ずっと恋い焦がれていたような気持ちにさえなる。
「アンタのことだってオレはよく知らねぇ」
「これから知っていけばいい」
「駄目だ、駄目なんだよ」
「どうして?」
 そう聞けば彼はばつが悪そうに視線をそらしてしまった。重い沈黙が僕らにのし掛かる。ああ、言ってしまったと後悔した時には遅かった。
「オレ、まともな付き合いなんてしたことがねぇ」
「構いません。それもこれから知っていけばいい」
 ここまで言ってしまったら、もう止まれはしなかった。……その本音が彼を困らせてしまうとわかっていながらもだ。
「僕の事、お嫌いですか?」
「……嫌いだったらこうして家に上げてねぇよ」
「じゃあどうして」
「……オレにゃ、セフレがいる」
「……は?」
 予想外の言葉に、思わず聞き返す。今、なんと言ったか?セフレ、セフレ?
「ほら、だから綺麗じゃねぇって言ったろ」
「その人の事が好きなんですか?」
「好きなもんか、反吐が出る」
 そう言う彼の顔は嫌悪感と憎悪に染まっていた。そんな相手と、なんで?何か深い理由があるのだろう。きっと、僕が想像している以上に深い理由が。
「オレ、誰かが側にいねぇと眠れないんだ」
「だから好きでもない相手と寝ているのですか?」
「それだけじゃねぇよ。それだけじゃねぇけど!」
 箸を置き、彼の手を取る。こちらを向いた彼の目には少しの怯えがあった。そんな思いをさせている、知らない誰かが憎くてしょうがない。
「僕では駄目なんですか?」
「っ、……そんな風に言われんのわかんねぇ、から」
「ごめんなさい。貴方を苦しめたいわけではないのです」
「わかってるって、わかってるから」
 重い沈黙が部屋に漂う。これ以上は、彼をもっと苦しめてしまう。それは嫌だ。
 二人して黙りこくっていると、その雰囲気を吹き飛ばすようにスマホの通知音が部屋に響き渡った。
 ビクッと彼が身体を震わせる。なんだろうそう思っていると、彼がスマホを取った。瞬間、眉間にシワを寄せる。
「……」
「どうされました?」
「……いや、空気悪くしちまったし良いもん見せてやるよ」
 顔色の悪い彼はそう言うと、立ち上がった。



「ブートヒルさん?」
「飯、途中で悪い。とりあえずラップしとくわ」
 彼はそう言ってキッチンへ行くとラップを手に持って戻ってきた。ふんわりと最低限隠れるようにラップをし、そのまま手を取られる。
「どうしたんですか」
「……特等席で見せてやるよ」
「?」
 状況が飲み込めず、ただ慌てていると手を引かれる。連れていかれたのはバスルーム。配信で何時も映るあの場所だった。
「いいか、喋んなよ?」
 ごそごそと何かを用意しながら彼が言う。それがなんなのかわからない程察しが悪くはなかった。
 今から配信をするのだろう。どうして今なのかはわからない。スマホを手にした瞬間から顔色が悪くなっていたから、誰かしらに命令されているのかもしれない。
「喋ったら二度と話し聞いてやんねぇからな」
 こくり、と頷く。すると彼は下だけ脱ぎしゃがみこむと、袋からローションを取り出した。
「何時も先に慣らしてから配信してんだ」
 彼はそう呟き、指にローションを垂らす。とろとろとしたそれに、バスルームの光が反射する。彼はそのままローションまみれの指をゆっくりと後孔に差し込んだ。
「うくっ、あっ」
 指を飲み込んだ後孔を見せ付けるように開脚すると妖艶に微笑み、慣らすように出し入れを繰り返した。
「っ、」
 目に毒というのはこの事をいうのだろう。好きな人の乱れた姿なんて、興奮するに決まっている。
「はぁっ、んあっ……」
 そんな気持ちを知った上で、弄ぶかのように振る舞う彼に目眩がした。その肌に触れたくて、でも見てなと言われた手前手を出すわけにも行かずその様を見守るしか出来ない。
 いつの間にか増やされた指を、ぐぱぐぱと拡げながら彼は気持ち良さそうに喘ぐ。
「あっ、ぅ……んうっ」
 こんな近くで眺めていていいのだろうか。いや、良いと言ったのは彼なのだから、動きさえしなければいいのだろう。
「……っ、はぁっ、こんなもんだろ。んじゃ配信するから。喋ったらぶっ殺すからな」
 少し赤らんだ顔の彼はそう言って脅してきたのでこくりと頷き手をあげる。ここからは一切喋れない。彼の活動の邪魔はしたくない自分と、そんなことは止めてほしい自分がせめぎ合う。
 今回使うであろう物を用意すると、音を立ててカメラが回り、何時もの調子で彼がアダルトグッズのレビューをし始める。
 カメラの向こう側には沢山の人がいて、ついこの間まで僕もそちら側の人間だった。今、この場にいるのが嘘みたいで、でも紛れもない真実で感情がぐちゃぐちゃになる。
「ははっ、今回のもヤバそうだな♡んじゃ、使ってみるか」
 凸凹が沢山あるディルドにローションを振りかけ、ゆっくり腰を沈めていく。その動きに躊躇いはない。気持ち良さそうにとろける顔も、ディルドを咥え混む後孔も、全てが美味しそうで仕方がなかった。
「はぁっ♡♡あ゛、あっ!♡♡すごっ、なかごりごり削られるっ♡♡くぅっ、ああっ!♡♡♡」
 バスルームに、彼の声が反響する。髪を振り、まるで踊るように己を追い詰めていく姿は綺麗だった。
「っ、いくっ♡♡うあっ!♡♡んんっ、あ♡♡まっ、あ♡♡」
「っ、」
 思わずごくりと息を飲む。自分が誘われていると錯覚してしまうくらい、甘い甘い空間が広がっていて、でも喋ってはいけない。今この場にいる僕でなく、不特定多数に向けられたそれは、前までなら喉から手が出る程欲しかったものだった。
「う~~~~っ!♡♡あぁんっ!♡♡いってるっ、いぐっ♡♡」
 力なく揺れる陰茎からとろとろと白濁を吹き出し、彼は果てた。びくんと身体が大きく揺れ、気持ち良さを物語っている。
 とろける瞳がカメラではなく僕を捉えて、声にならない声で叫ぶ。
「~~~っ♡♡♡」
 はぁはぁと肩で息をしながら、それが落ち着くまで待つ。ゆっくりとディルドを抜いた彼は、淡々とレビューを述べていく。それが終わって挨拶をした後、彼はカメラをオフにした瞬間、ふっとこちらに向かって微笑んだ。
「っ!」
 今すぐにでも押し倒してしまいたい衝動をすんでのところで耐え、思わず駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「はぁっ、てっきり襲ってくるかと思ったけど、アンタすげぇな」
「そんなことしません!ほら……」
 風邪を引く前に早く、そう言いかけていた口を塞がれた。触れるようなキスはあまりに一瞬で、何をされたのかわからなかったが、そのまま床に倒れ込んだ彼に血の気が引く。
「大丈夫ですか!」
「……悪ぃ、腰抜けた」
 脱衣所にあったタオルを取りお湯に濡らすと、ローションやら精液やらを拭き取る。そしてそのまま彼を持ち上げると寝室へ急いだ。抱き上げてわかったが、思った通り成人男性にしては軽い。
「寝室、入りますよ」
「ああ、悪ぃ」
 やはりこちらも必要最低限の物しかない。そのまま彼をそっとベッドの上に置くと、顔を覗き込む。
「水が飲みたいだとか、何かありますか?」
「大丈夫……なぁ」
「はい、なんですか?」
「……このまま抱いてくれよ」
 一瞬時が止まったように錯覚する。今にも泣いてしまいそうな顔で、彼は僕を誘った。
「……良いのですか?」
「良い、アンタになら抱かれてもいい」
「っ、」
 ストレートな誘い文句に、思わず息を飲む。そっと頬にキスを落とせば、擽ったそうに彼は笑った。ぎしっとベッドのスプリングが軋む。彼の上にゆっくり覆い被さると、目を閉じ唇にキスを落とした。
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