スタレ
たとえば、ふと髪を掻き分けた時だとか。そう言った何気無い動作に見惚れてしまう時がある。それが恋だと知ったのは暫く後のことなのだけれど、それはそれとして。その力強いとはまた違った輝きのある瞳だとか、つるりと冷たい鋼鉄の奥のぬくもりだとか。彼の良いところを上げようとすれば、キリがない。それだけ素晴らしい人だと僕は思っている。それを会う度に口に出して何度も彼に伝えるが、ちゃんと受け取られたことは恐らくまだない。それは長年の生活で培われた、一種の防衛本能のような物なのだろう。それでも僕は構わないし、伝えることをやめようとも思わなかった。
今日も今日とて、僕は久しぶりに会う彼を賛美する。美しい物は褒められるべきだ。なら、美しい彼には相応しい言葉を贈らなければ。
「そうだな、俺は長ったるしい言葉よりも、ストレートな方が好きだぜ?」
僕の賛美を全て聞き終えた後、彼はそう口にした。
「そうでしょうね。なら、素直に一言。僕は貴方を愛しています」
するとどうだろう。彼はきょとんとした後、下の方に視線を反らし、黙ってしまった。恐らく照れているんだろう。ぎゅうっと抱き締めながら、貴方が言ったんですよ、と笑えば、不服そうな唸り声がした。ストレートな言葉を欲しがる割りに、言われ慣れていないのか恥じらう姿がまたいじらしい。
「アルジェンティ」
「はい、どうしました?」
「その……この後はどうする?」
彼なりの誘いに、口角が上がる。そんなの、決まっているじゃないか。
「今日はこのまま貴方と過ごしたいと思っています。それとも、何かご用事でも?」
「いや、ねぇよ。アンタと会うからしっかり空けてきたっての」
体格的にはそんなに変わらないと言うのに、どうして彼はこんなに可愛らしいのだろうか。たまらなくなって、額にキスを落としソファーから立ち上がると彼を抱き上げた。
「なっ、」
「貴方は知っていたはずですよ?こうなるって」
行き先は勿論ベッドルーム。彼に愛を囁くようになってからと言うもの、会う度に彼を暴きたくって仕方がないのだ。
「嫌なら嫌と言ってください」
「嫌なわけねぇだろ……言わせんな」
それだけで胸が一杯になる。嗚呼、なんて幸せなんだろう。落ちないようにしがみついてくる彼を微笑ましく思いながら、早歩きでベッドルームへ連れ込むと、痛くないように気を付けて優しく下ろし、そのまま覆い被さる。嫌がる様子はなかった。
「アルジェンティ」
彼がすがり付くように僕の名を呼ぶ。その瞳は、微かに欲に濡れている。シーツの海に広がる毛先の黒い髪が砂糖菓子のように美しくて、手で梳くように撫でれば擽ったいのか彼は身動ぎをした。一束持ち上げキスを落とす。すると、かぁっと顔を赤くして黙りこくってしまったのでふっと微笑んだ。
「貴方は何処もかしこも美しいですね」
「……そんなことねぇって」
「嗚呼、貴方の全てが好ましい。ねぇ、ブートヒルさん、好きです」
「っ、」
思ったことがつらつらと、口からそのまま出ていく。どれだけの言葉を囁いたら、貴方に届くのだろう。孤高の星のような、たった一人で巡狩の運命を歩む貴方が僕は好きだった。……それはある種の親近感なのだろう。
「よくそんだけ言葉が出てくるな」
「ふふ、本心ですよ」
「そこは疑ってねぇよ。なぁダーリン、このまま抱いてくれ」
「ええ、仰せのままに」
許可が下りたので、無防備に晒された喉元に噛みつくように跡を残す。だからと言って、鋼で出来た身体には跡は残らないのだけど。それでもそうせずにはいられなかった。何度も何度も、わざとらしく音を立てながら首筋に吸い付く。その度に身体を震わせ吐息を吐く彼が可愛くて、次は唇に啄むようなキスを落とす。
「はっ、んんっ、アルジェンティ」
嗚呼、名を呼ばれるのがこれ程嬉しいなんて思ってもみなかった。薄く開かれた唇に舌を差し込み歯列をなぞるように擽れば、吐息が漏れる。もっと、と催促されているような気がして手を頭の後ろに回し、逃げられないように固定をすると舌を捕まえ吸い付いた。
飲みきれなかった唾液が流れ落ちていく。それさえ惜しい。全部食べてしまいたい。
「っ、うぅ……んっ」
悩ましげな声が隙間から漏れ出て、僕を煽る。夢中で彼を味わっていると、胸を叩かれた。そろそろ限界か。名残惜しいと思いながらもゆっくり離れると、彼はぜえぜえと肩で息をしていた。
「はっ、はぁっ……、このっ、ラブリーがっ」
「ふふっ、気持ちいいですね」
「っ、」
彼の瞳が欲に揺れる。その瞬間を見逃さず、畳み掛けるようにまた唇に吸い付く。それと一緒に、脇腹を擽るように撫でてやれば、大袈裟なくらい彼の身体が跳ねた。
「んんっ、ふ……っ!」
装甲の間をなぞる。何度も何度も、しつこいくらい繰り返せば、それを抱く合図だと覚えた彼の身体は、可愛らしく震えた。
「はぁっ、あっ……うぅ」
「気持ち良さそうな声、もっと聞かせてください」
脚を開かせると、腰を掴み股に勃ち上がったそれを布越しに擦り付ける。どちらとも知れないため息が漏れ、衣擦れの音が妙に大きく感じた。
「っ、あうっ!それ、やだぁっ」
嫌と言う割りに、その目は早くも蕩け始めている。頬を赤く染めながらすがり付くように服を掴まれ、思わず口角が上がるのを抑えられない。
腰を擦り付けながら、服の上からでもわかるくらい勃ち上がった陰核を押し潰せば甲高い声が漏れ出た。
「ひあっ!……アルジェンティ、やだっ、擦れるっ」
「ふふ、嫌なんですか?良さそうなのに」
「っ、あ゛っ、腹の奥っ、切ない」
冷却水の滲む瞳が僕を捉える。それに酷く煽られ唇にキスを落とせば、今度は彼から舌を入れてきた。根負けしそうになるのをなんとか耐え、舌を迎え入れると柔く食む。
「んんっ、ぁ……、うう~っ」
「っ、はぁっ……可愛いらしい」
もっと僕に溺れて欲しくて、かくかく揺れる彼の腰を掴み、挿入ってしまうくらい押し付ければ彼は喉を晒して喘いだ。
「やっ、あ゛っ」
その白い肌にかぶり付く。嗚呼、彼がもっと乱れるところが見たい。
「ねぇブートヒルさん。もっと気持ち良くなりたいですか?」
耳元で囁いてやれば彼ははっと目を見開いた後、今にも消え入りそうな声で「なりたい」と答えた。
「ふふ、良いですよ」
頬にキスを落とし、ズボンを寛げるとぬかるんだそこに手を滑らせる。分泌液を指に絡ませ、健気に勃ち上がった陰核を弾けば、びくんと身体が大きく跳ねた。
「ぐあっ、ん゛ん゛っ!」
直接的な快感に、彼の口から堪らず喘ぎ声が漏れる。目をぎゅっと瞑り、眉間に皺を寄せ感じ入る彼を特等席で眺めながら、にゅるにゅる逃げたがる陰核を苛め抜く。
「や゛ぁっ、あっ……イく、う゛~~っ!」
一際大きく身体を跳ねさせると、仰け反りながら絶頂したようだ。快楽に蕩けた瞳からは冷却水がぼろぼろ溢れている。目尻にキスを落としそれを舐めとるが、人のように塩気のある味はしなかった。それでも、彼から出たものだと思うと甘美に感じるのだから不思議だ。
「はぁ、っ……んっ、アルジェンティ」
ねだられるままに、彼の唇にキスを落せば、へにゃりと気の抜けた笑みを返され心臓が高鳴る。狡い人だ。そんな風に笑まれたら、もっと甘やかしてしまいたくなる。
「ブートヒルさん、指を挿入してもいいですか?」
「だー、もう……一々聞いてくんなっ……早くしろよ」
貴方に言わせたくてわざと聞いているんですよ。そう思いながら、分泌液を掬い取り指に絡めると指を沈みこませる。
温かいそこは挿入された指を味わう様にぐにぐにと蠢いて、酷く興奮した。早く暴いてしまいたい衝動をぐっと抑え、親指の腹で陰核を刺激しながら動かせば、悲鳴のような声が彼の口から漏れる。
「ひゃっ、あ゛っ……、ぐっ、んんっ!」
「ブートヒルさん、可愛いです……」
「うっせぇ、あぁっ……ん゛っ」
引っ掛かることなく根元まで飲まれた指で、ナカを拡げるように動かす。確かこの辺りだったかと、記憶を頼りにざらついた肉壁を撫でれば彼の身体が面白いくらい跳ねた。
「あ゛っ!うぅっ、そこっ、頭駄目になるっ」
「ふふ、良いですよ。貴方が駄目になるところ、僕にもっと見せてください」
「ぎゃっ、ん゛~~~っ!」
また絶頂したのか、顔を真っ赤に染めながらぎゅっと服を握り締められ、思わず口角が上がる。指を動かす度、じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てるそこに然り気無く二本目の指を増やすが、難なく受け入れてくれたので安心しつつ、責めを継続した。
「ひうっ!あるじぇんてぃっ、奥切ないっ」
「まだ駄目です。もう少し拡げないと……」
「大丈夫だからっ、あ゛っ!もっ、待てねぇっ……、」
そんな風に煽らないで欲しい。こちらとて、限界ではあるのだ。それでも、もし万が一何かあったら申し訳が立たない。
「なぁっ……早くアンタが欲しい」
えらく直球な誘いに、己の中で何かが千切れた音がした。これ以上は僕も耐えられそうにない。そっと指を引き抜き、ズボンを脱がせると、陰茎を取り出しぴたりと蜜壺に押し付ける。キスをしているみたいにそこが吸い付いてきて、腰が溶けそうだ。
「ブートヒルさんっ」
「っ、う……あ゛っ、」
先端がナカにゆっくり飲み込まれていく。汗がぽたりと彼の義体に落ちて、そのままシーツに流れた。名前を呼べば、ナカがきゅうきゅう絡み付いてくる。
嗚呼、愛くるしい。
「ふふ、好きです。愛しています」
「はぁっ……、あ、俺だってっ」
息も絶え絶えにそう言われ、胸が一杯になって思わずぎゅっと抱き締める。なんて幸せなんだろう。首筋に何度も吸い付きながら、少しずつ腰を進めていけば奥にこつんと当たった感触があった。
「あ゛、ぐっ!そこっ」
「ここが良いんですか?」
「や゛ぁっ、うぅっ!おかしくなるっ」
「っ、僕に全部見せてください」
ゆっくり陰茎を引き抜いていけば、出ていって欲しくないかのように肉壁が絡み付いてきて、思わず吐息が漏れる。気持ちいい、溶けてしまったみたいに。
引き抜いた分、腰を打ち付ければ彼から悲鳴が聞こえた。
「あぁっ!ん゛ん゛っ、♡♡あ゛~~~っ!♡♡」
結合部からぷしゅっと液体が勢い良く吹き出す。嗚呼、良かった。気持ち良さそうだ。もっと乱れて欲しくて、ごりごりと削るように気持ち良い場所を押し潰してやる。
「いっ、♡イ゛って゛る゛♡♡やっ、ぐ~~っ!♡♡」
「はぁっ、ふふ、ナカをこんなに締め付けて……気持ちいいですね」
「お゛っ♡♡フーッ、フーッ♡♡」
ちゅっと頬にキスを落とせば、ねだるように唇を吸われ、そのままなし崩しに舌を絡ませ合う。
熱い、何処もかしこも。
「はぁっ♡♡アルジェンティ、♡♡あるじぇんてぃ、すきっ、♡♡」
蕩けきった表情で、うわごとのように僕の名を呼ぶ彼に答えるように手を取り、何度もキスを落とす。
「ブートヒルさんっ!」
「またいくっ、いっ♡♡♡あ゛~~っ!♡♡」
ぎゅっとナカを締め付けられ、耐えきれずびゅくびゅくと奥にマーキングをするかのように精を吐き掛けた。
「っあ、う……ブートヒルさん」
「ぅ、♡♡~~~っ♡♡」
余韻に震える身体を抱き締め、喋ることすらできなくなっている彼の唇にキスを落とす。一先ず抜いた方が良いかと、ぎゅうぎゅうとこちらを締め付けてくる蜜壺から陰茎を引き抜こうとすると、容赦なく足が絡み付いてきた。
「なっ、」
「いま、抜くなっ♡♡」
彼の蕩けきった顔が至近距離にある。焦点の合っていない瞳と目があって、胸が高鳴る。余裕なんてないはずの彼は意地悪げににんまり笑うと、
自分から腰を揺らし始める。
「ははっ、まだまだこれからだろ?」
そんな風に誘われたら、断れないのなんてわかっているだろうに。くねる腰を掴み直し、奥をごりごりと抉れば、彼が可愛らしい鳴き声を上げた。
「あ゛ぁ゛っ!♡♡♡きもちいっ、い゛♡♡♡」
逃さないように本能的に喉元に噛み付き、腰を打ち付ければ、奥に当たる度ぷしゅっと音を立てて液体が吹き出し、シーツを汚す。その様に酷く興奮して、それこそ鼻血でも出してしまいそうなくらいだった。
「ぐっ、う゛、♡♡アルジェンティ、♡♡もっと♡♡」
「っはぁ、貴方って人はまったく!」
口の端しから漏れる唾液を舐めとりそのまま舌を口内に差し込むと、素直に差し出された舌を絡めとる。見慣れたはずの部屋に、肌がぶつかる音と、獣のような荒い吐息だけが響いていた。
意識が落ちそうになっている彼を労りつつ、タオルで身体を拭く。それすら刺激なのか小さく喘ぐ彼にキスを贈りながら、身体を持ち上げソファーに寝かせると、分泌物だのなんだのに濡れたシーツを取り代えていく。その様子を彼はぼんやりと眺めていた。
「身体は大丈夫ですか?」
「あ?止めろっていっても止めねぇで何度も抱きやがったヤツが何言ってんだ」
「っ、それはすみません……」
「ハッ、怒ってねぇよ別に……その、オレも煽ったし」
彼に水の入ったボトルを手渡しながら、飲めますか?と問えば少し遅れて「飲ませろよ」と返ってきたので思わず微笑む。
「ふふ、良いですよ」
水を口に含み唇にキスを落とす。こくこくと音を立てながら水を飲み下す彼が可愛くてついいたずらしたくなったが、ここは止めておこう。無理はさせたくない。
「……もう大丈夫ですか?」
「はぁっ、悪ぃ……後、充電」
「こちらで全部やっておきますから、そのまま休んでいてください」
うつらうつらしている彼に微笑みかければ、そのまま意識が落ちてしまったのか反応がなくなった。抱き上げて、充電用のアダプターを挿すとそのままベッドに寝転がらせ、布団を掛ける。
「おやすみなさい」