スタレ
ついにこの時が来てしまった。
シャワールームから響く水音を聞きながら、頭を抱える。始まりはどんなンだったか。何やかんや話してみたら気が合うじゃねぇの。そんな感想だけだったはずなのに。気付けばあれよあれよと言う間に距離を詰められ、その、恋仲になっていたのだ。
あの「純美の騎士様」アルジェンティと。
「……なんでこうなっちまったんだ」
オレの何処がそんなにお気に召したのかは全く持ってわからない。だって、そもそも好みじゃないだろ?アイツの性格を考えるに、なんだったら全く逆の自覚さえある。気品なんてモンは生憎持ち合わせちゃ居ないし、そう振る舞うのも御免だ。
なんでどうしてなんて……アレ、なんて言うんだっけか。「まな板の上の鯉」?それよろしく、ベッドの上でもだもだ悩む。オレらしくもねぇ、と思うがそれとこれとは別だ。だって、まだ誰にも言ってねぇ秘密がある。それをここまで引き摺って来てしまったのは、オレでさえなんて言ったら良いのか分からなかったからだ。
「お待たせしました、ブートヒルさん。どうかしましたか?」
おっと、時間だ。燃えるような赤い髪を湿らせたバスローブ姿のアイツがシャワールームから出てくる。それならさっきのうちに逃げりゃ良かったとも思うが、それをしなかったのは結局の所オレ自身も、アイツと触れ合うのを願ってしまったからに他ならなかった。
「いや、別になんでもねぇ。それよりホントに良いのかよ」
「何がです?」
「今から寝るんだぜ?オレと」
サイボーグの身体なんて、触っていてもつまんねぇだろ。それは本心から思うことだった。オレの身体は生身のとこなんて数える程度しかないくらいには弄り回されている。それを抱きたいなんて、正直イカれてるとしか思えない。
「貴方だからですよ。貴方だから抱きたいのです。僕に貴方を愛す権利をください」
オレの目の前に跪き、手を取るとアイツはそのまま手の甲にキスを落とす。真っ直ぐとした瞳でそんなことを口走るモンだから、日和って思わず視線を逸らした。なんでそんな乗り気なんだよ。ベイビーが。
アイツが、ゆっくりとした動きで近付いてきて、そのまま俺を押し倒した。ふわっとバラの香りが鼻腔を擽り、軋むベッドの音に慌てて口を開く。
「っ、オレ、言わなきゃならねぇことがあるんだ」
「?なんでしょうか」
「その、オレは知っての通りサイボーグだ。誰かに愛玩されるように作られてねぇ。でも……」
自分からズボンを脱ぎ捨て、股を開く。誰にも言ったことのない秘密が、そこにはあった。
「……陰茎に相当するものが無い所までは想定内でした。けど、これは……」
「な、悪趣味だろ?作ったヤツの気が知れねぇ」
そこには女性器が付いていた。これが、今まで誰にも言えなかった秘密だ。
こんなの狂ってやがるとしか言えない。だって戦闘用の身体には必要のないモンだろ。
「もっと早く言うべきだったんだろうが、事が事なもんで言うのを躊躇っちまった」
アイツの動きが止まる。そりゃそうだ。こんなちぐはぐな身体なんて見せられたら萎えもするか。これも想定通りだ。視線を逸らしながら起き上がろうとすると、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「ブートヒルさん!」
「なっ、」
「貴方が重荷を背負っているのは解っていたのに。それなのにそこまで考えが至りませんでした。貴方を傷付けてしまった。すみません」
「……別に誰も傷付いてなんかねぇよ」
生真面目なヤツ。知ってたけど。そりゃ、こんなことまで想定されていたら正直引くだろ。と笑いが込み上げて来る。
「ぎゃははっ、面白いヤツだな。ほら、気分も萎えちまったろ?とっととこっから出ようぜ、ダーリン?」
「……」
無言のまま、とんと押されてバランスを崩しベッドの海に身を投げだす。へ?とアイツの顔を見れば、心底複雑そうな顔をしていた。ああ、そんな顔も出来たんだな。
「すみません。今すぐにここからは出られそうにありません」
「なっ、」
「例え身体がそうであっても、僕は今貴方を愛したい」
耳元でそう囁かれ、目を見開いた。てっきり萎えたと思っていたのに、どうやらそんな事はなかったようだ。
アイツの綺麗な指が装甲の溝を撫でる。そんな風に触られたことなんて無いから、びくっと身体を跳ねさせればふっと微笑まれた。
「っ、」
「キスをしてもいいですか?」
「……いちいち聞くな」
その答えを待っていたかのように、アイツは唇にキスを落とす。何度も何度も、何かを確かめ合うかのように。
随分と熱烈なそれに、酸欠にでもなったように頭がぼんやりして、口を開ければ舌が割り込んできた。尖った歯に舌が当たれば、きっと怪我をする。でも、そんなことを恐れもしないでアイツの舌はオレの口内を蹂躙する。
「はぁっ、んっ……」
上擦った声が隙間から勝手に漏れ出ていく。聞こえる水音に、かあっと身体が熱くなっていくのを感じて、恥ずかしくなる。キス、気持ち良いな。
「っ、前に言ってましたよね?性欲が無いって」
「はっ……そんな前の事よく覚えてんな」
「でも貴方の今の顔、とてもそうとは思えない」
ああ、見透かされている。俺だって、まさかこんな機能が残っているなんて思わなかったっつーの。照れ隠しに再び唇を重ね、舌を擦り合わせる。するとその間も腹を撫でていた手が、すーっと上がってきた。
「っ、ぅ」
人の身体なら丁度突起があるであろう場所は、金属に置き換わっていて何もない。付いた傷をなぞるように触れられ、何とも言えない感覚に身を震わせる。擽ったいような、久方ぶりの懐かしい感覚に、感動さえ覚えながら、アイツの好きなようにさせる。
「ぁっ、それ、やめろっ、擽ってぇから」
「ふふ、ゆっくり慣れていきましょうね」
ぞわぞわと鳥肌が立つような感覚に、どうしようもなく焦れる。かりかりと指先で金具を引っ掻かれ、びくんと身体が跳ねた。
「んんっ、ぅ……」
「貴方の声、もっと聞かせてください」
「っ、はぁ、誰が聞かすかよっ」
そう絞り出すように言えば、アイツは心底楽しそうに笑った。随分ラブリーな趣味してやがるじゃねぇか。軽口を叩こうと開いた口からは上擦った甘ったるい声が溢れていく。
「んっ、うあっ……ぁっ、」
「ああ、可愛らしい。気持ちが良さそうで安心しました」
「っ、うるせぇっ、アホっ」
こんなの知らない。性欲なんて機能、とっくに無くなったとばかり思っていたから自分で触ったことなどなかったんだ。困惑していると金具を擦られた。その度に何とも言えない感覚が背筋を駆け抜けていく。
「下も触ってみて良いですか?」
「はぁっ、んな事聞んじゃねぇ!」
「……嫌ですか?」
「っ、言わせんな」
そう吐き出せば、アイツはふっと笑うと女性器のようなそこへ優しく触れた。感触を確かめるように縁をなぞられ、思わず身体を身を捩らせる。
「あっ!んんっ、」
女で言うとこの陰核をそっと撫でられ、嬌声が漏れ出た。奥がきゅんきゅん疼いてしょうがない。なんでこんな機能があるんだ、と作ったヤツを恨みながら思わずアイツにしがみついた。
「ん゛っ、そこっ、ビリビリす、あっ!」
「良さそうですね。ここ、気に入りました?」
首筋に吸い付きながら、アイツが言う。もうどれくらい振りかもわからない快感に、どうして良いのか分からず目から涙が流れ落ちていく。
「あ゛っ、ああっ!来るっ、来ちまうっ!」
「イッて良いですよ」
「や゛っ、あ゛!〜〜〜〜っ!」
陰核を円を描くようにこりこりと刺激され、言われるがまま足をピンと伸ばして果てた。強すぎる快感に、びくんびくんと身体が勝手に跳ねる。
「っ、はぁ、はぁ!」
「ふふ、お疲れ様です」
そう言って、アイツはまた唇にキスを落とした。それにさえ身体が反応して、うざったるいったらない。でもそのうざったるささえ、良いと思えるのだから惚れた弱みか。
「大丈夫ですか?」
「はぁっ、……なんとかな」
なんとか受け答えをし、アイツのまだ少し湿った髪を撫でる。気持ち良さそうに目を細めたのに思わず見惚れていると、美しい顔がまた近付いてきた。
「ならよかった。続けても?」
耳元で蕩けるような声で囁かれ、腰が震える。恐る恐る小さく頷けば、アイツの手が股に伸ばされた。
潤滑油が滲み出ているのか、そこはしっとりと濡れている。マジで女みてぇだな、なんて鼻で笑いながら、アイツがどう動くか見ていると、潤滑油を指に絡ませゆっくりとナカに挿し込んだ。
「っ、はぁ、んあっ!」
急な刺激に、びくりと身体が震える。指をぐちぐちと音を立てて出し入れされ、嬌声が口から漏れ出た。
「ちゃんと気持ち良よく出来ていますか?」
「見たらっ、わかんだろっ!」
「貴方の口から聞きたいんですよ」
指が出ていく度、ぞくぞくと背筋を快感が走る。記憶の中の快楽とはまた違った感覚に困惑していると、責め立てるように陰核を押し潰され、目の前がチカチカ明滅した。
「っ、あ゛っ!きもちい、からっ!ん゛っ、う!」
「ああ、良かった。ほら、もっと気持ち良くなってください」
「ぐっ、う゛!んんっ、ひあっ!」
首筋に優しく噛み付かれ、声が漏れる。こんなの知らない。狂っちまう。
いつの間にか増やされた指に揺さぶら、溺れるようなその感覚に、怖くなって必死でアイツにしがみつく。
「んあ゛っ、ぅっ、はぁ!あっ!」
身を捩るだけではどうにもならない快感に、まるで焼かれてでもいるようだった。指では届かない奥がきゅうきゅう切なくて、縋るようにキスを強請りながら言う。
「ひっ、う!……なぁっ、も、アルジェンティ!そっちも限界だろっ!……はぁっ、もうオレは大丈夫だからっ、アンタのも気持ち良くさせてくれよ」
息も絶え絶えにそう呟けば、アイツは目を見開いた。そんな驚くなよ。だって、こう言うのってお互いに気持ち良くなってこそだろ?
「気持ち良くしてくれるんですか?」
「ああ、っ、……任せな」
喋っている途中でゆっくり指を引き抜かれて、ぶるりと身体が震えた。起き上がり、四つんばいになりながらアイツを見上げる。バスローブの結び目を解き、それに手を伸ばす。
目の前に現れたそれの大きさに、思わず目を見開く。
「……そんなまじまじと見ないでください」
「っ、いやだって、これデカいなんてもんじゃねぇだろ……」
立派すぎる。いや、体格から薄々分かってはいたけども。バキバキに割れた腹筋も見事としか言いようがない。美しい身体だ、と素直に思う。
「舐めてくれるんです?」
「なっ、別に良いけどよ」
でも、これだぜ?と尖った歯を見せるが、特に気にする様子もなくバキバキに勃ち上がった陰茎を差し出され、マジかよとアイツを見上げる。
「噛み千切られるとか思わねぇの?」
「貴方がそんなことをする訳が無い」
しょうがねぇか、自分で言い始めた事だし。と先走りの滲むそれを口に含む。歯で傷付けないように気をつけながら、舌で舐め取れば、独特の臭みが鼻に抜けた。
ああ、こんな綺麗なのに、ちゃんと人間なのか。
「んんっ、苦ぇ……」
でも、不思議と嫌じゃない。先端に吸い付き、口に入り切らないとこはとにかく傷付けないように気を付けながら指で刺激してやる。
「気持ちいいか?」
「はい、上手ですよ」
「そっか、ははっ」
褒められて嬉しいなんて、照れ隠しに先端に吸い付き舌で刺激してやれば、先走りが溢れ出した。ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が部屋に響き、オレを追い詰めていく。自分で言った手前アレなんだが、羞恥でおかしくなりそうだ。
「んんっ、ふっ、」
唾液だか先走りだかももうわからないそれをこくりと飲み込みながら、何とか出し入れすれば、アイツの息が上がってきた。
「っ、はぁ、そろそろ離して貰えますか?」
「……やだ」
いっその事出しちまえよ、なんて思いながら吸い付けば、その時は来た。アイツは小さく呻くと、びゅくびゅくと精を吐き出した。驚いて咄嗟に離してしまって、白濁のそれが顔に掛かる。
「ばっ、ゲホッゲホッ!」
「すみません!大丈夫ですか?」
サイドチェストにあったティッシュを差し出され、有り難く使わせて貰う。口ン中が粘ついて気持ち悪ぃ。何度も咳き込むと、背中を擦られ少し楽になった。
「っ、ゲホッ、大丈夫だぜ」
「良かった。つい興奮してしまって……」
「アンタも人間なんだな」
「?そうですよ」
だって、彫刻みたいに綺麗だから。そう呟けば、アイツは嬉しそうに笑いながら、ありがとうございますとだけ呟いた。
「で、続きまだすんのか?」
「良いんですか?」
「何度も言わせんな」
自分からベッドに寝転がり、股を開く。誘うように視線を向ければ、アイツがのしかかってきた。至近距離で目が合って、それで……。
「ちょっと待ってください。今ゴムを付けますから」
「そんなのいらねぇから……早くくれよ」
一瞬さえ惜しくて腰を擦りつけるように揺らせば、アイツが小さく呻く。
「っ、後悔しても知りませんよ」
「しねぇから、早くっ」
もう限界だ。身体の何処もかしこもがアイツを求めて疼いている。早くめちゃくちゃにされたくて仕方がない。ホントはこんなはずじゃなかったのに、なんて今更ながら思いつつ、ゆっくりと挿入される肉の感触を味わう。
「はぁ、あっ……、うっ、んん!」
ゆっくりゆっくり、時間を掛けて陰茎が蜜壺に飲み込まれていく。殆ど無意識に腰を揺らしながら、アイツの頬にキスをした。
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