アークナイツ
ロドスの朝は早い。早くから鍛練に励む者、朝食の準備をする者、仕事中毒、そもそもが寝ていない者等、沢山の人間が動く音がする。部屋は居心地が良く、防音がしっかりしている為直接は聞こえないが、それでも何となく感じる。奴はもう行ったのだろう。隣を見れば、部屋の主である重岳は既にいなかった。
どうして彼の寝台に転がっているのかは敢えて言う必要もないだろう。寝返りを打てば、最早見慣れつつある天井が目に入る。
また今日と言う日が始まった。そうして数多の命が当たり前の如く動き、交わり、そうして今日を終えていくのだろう。それが酷く愛おしい。
ズキリと胸の奥が痛む。これから長い時間共に在ることになる痛み。生きている痛み。重ねた罪の痛み。慣れることのないそれを飲み込んで、身体を起こした。
水が飲みたい。気だるい身体を引き摺るように歩いて、備え付けのウォーターサーバーから水を汲んで飲み干せば、乾いた身体に水が染み込んでいく。一息付いて綺麗に畳まれた服に袖を通すと、部屋を出ようとした。
「望、起きたのか?」
丁度そのタイミングで、奴が戻ってきた。朝の鍛練から戻ったのだろう。そのまま腰を掴まれて、部屋に連れ戻される。
「今日は当番もなければ出撃もないのだろう?ゆっくりしていくと良い」
「そうだが……いや、なんでもない」
どうせこうなったら奴は聞かない。溜め息を付いて、そのままベッドサイドに座って私を呼ぶ奴の元へ歩く。大の男が膝に座る等、妹や弟に見られたらなんと言われるか。思い浮かべるだけで頭が痛い。
「身体は大丈夫か?」
「問題ない」
言われるがまま膝の上に座れば、そのまま強く抱き締められた。殆ど無意識に胸にすり寄って、すんと匂いを嗅ぐ。微かな汗の匂いと、安心する嗅ぎ慣れた香の匂いが香る。もたれ掛かり、温かい体温に沈んでいく。ここは心地が良い。本体のいるあの場所とは大違いで、思わず笑いがこぼれた。
「望?」
「なんでもない。それより、今日はどうするんだ」
「そうだな、もう少ししたら朝食を摂りにいこう。その後は……一局どうだ?」
「悪くない。……だが」
穏やかだ。どうしようもないくらいに。尾を動かして、奴の尾に絡める。精一杯の誘いだが、どうやら奴には届いたようだ。良いのかと言わんばかりに奴が顔を覗き込んでくる。その顔に触れるだけのキスをして、胸にすり寄った。とくんとくんと心臓の音がする。生きている。その喜びを噛みしめながら、寝台に押し倒された。
肌を撫でられて、途端に身体が熱を帯びる。浅ましい。そう思いながらも、止めることが出来ない。
「望は甘えたがりだな」
「誰のせいだと思っている」
「私か?」
否定はしない。しようもない。顔が近付いてきて、至近距離で視線を絡める。そうしてほんの少し見詰めあった後、キスをする。舌でノックをするように叩かれて、口を開ければ奴の舌が侵入してきた。それを受け止めて、舌を絡める。湿っぽい音が不釣り合いな明るい部屋に響いて、その湿度を上げていく。
ぴりっと鋭い感覚が走って、思わずびくりと身体を跳ねさせる。胸の突起を撫でられたのだ。
触られる内に快感を拾うようになってしまったそこは、今ではすっかり弱点の一つで。押し潰される度、腹の奥に響いて泣きそうになる。
「あ、ぁっ……あっ」
媚びるような声が漏れていく。昨日の残り香なのか、何時もより気持ち良い気がして。それから逃れようと首を横に振る。
「望」
微かに掠れた低い声が私を呼ぶ。慈しむように細められた、暁のような淡い光を放つ両の目に思わず見惚れてしまった。
「朔、シュオ……」
すがり付くように何度も名前を呼ぶ。呼ぶ度に苦しくて、言いようもない感情に押し潰されそうになる。
早く抱いて欲しくて、足を絡めると耳元で囁く
「昨日の今日だ。恐らく慣らさなくても挿入る」
「……それは駄目だ」
直ぐにでも楽になりたくて言った事だったが、奴は首を振ると棚から香油を取り出した。
嗚呼、長くなる。言わなくても分かる。これは己が仕損じた。笑顔で此方を見ては居るが、確実に怒っている。
「ゆっくり準備をしような」
死刑宣告にも似た言葉に後悔するが、時既に遅し。言った事は取り消せない。
手に香油を絡めているのを眺めながら覚悟を決めたのだった。
それからどれくらいの時が経っただろうか。時計を見る余裕なんてあるわけもなく、寝台に身体を預けのたうつ。
「あ、あ゛~~~っ、ぅ、ぐっ」
酷い声を上げながら、何度目かも分からない絶頂を決める。奴はその剛直を反り勃たせておきながら、指で後孔を苛め抜いていた。陰茎に触れるでもなく、ただ後孔だけで、だ。
「ふふ、良さそうだな」
良いなんて物ではない。善意と怒りでそうしているのだろうが、何度も果てているのに奥が疼いてしょうがない。既に4本も指を咥え込んでいると言うのに、奴はその剛直を挿入する様子すらなかった。
「あぐっ、う゛ぅーーーーっ!も、もう挿入れてくれっ!」
「言っただろう?ゆっくり、と」
確かに言ったけれど、何事にも限度がある。辛くてボロボロと涙を溢しながら懇願するが、そらでも奴は動かない。
ふっくらと痛いくらいに膨らんだ前立腺を抉られて、舌を突き出し震える。己の陰茎からぷしゅっと聞き慣れない音がしたが、とてもじゃないが構っていられない。
「潮を吹くくらい良かったのか」
「むりだ、あっ……あ゛、くぅ……」
こんなの暴力とさして変わらない。ぐずぐずに溶けきった頭でどうすれば許されるか考えるが、答えなぞ出る訳もなく。再び前立腺を押し潰され、目の前に火花が飛び散った。
「あ、~~~っ!しゅお、もっ、許して」
舌足らずに名前を呼びながら許しを乞う。何で怒らせたのかももう分からないのに。頭を振り乱して、何度も何度も許してと叫べば、奴は仕方がないと言わんばかりに指を引き抜くと、香油でぐずぐずになった蜜壺に陰茎の先を押し付ける。
「にいさ、んっ!」
「望は可愛いな」
様々な液体に濡れた私の顔を見て、奴はうっとりと呟く。そんな訳ないのに、こんなにも痩せ細った身体を見て、奴は興奮している。それが嬉しくて、奴の唇に触れるだけのキスをして笑って見せた。
ゆっくり、剛直が肉を掻き分けて挿入ってくる。期待に身体が震えて可笑しくなってしまったみたいだった。
「あ、あ……!」
「望、お前が少しでも心安らげるのなら、私は何だってしてやりたいんだ」
今言うことか、と思う。それと同時に、お前がそう思うのなら、私も同じ事を思うだろうとも。
熱い杭に穿たれながら、再度果てる。意識を失いかけて、それでも飛ばないように何とか保つと奴の肩に噛みついた。深い意味は無い。少しでも仕返しとなればと思い立ってした行動だった。
でも、奴を煽るには十分だったようだ。
「望」
ギラ付いた目で此方を見る奴に、思わず身震いをする。じくりじくりと熱を持った腹の奥が痛いくらいだ。そうして奴が腰を押し進めて、あっと思った時には奥深くまで貫かれていた。
「ーーーーっ!」
声にならない叫びが口から漏れる。どうしようもないくらいの快感が脳をバチバチ音を立てて焼き尽くす。背をしならせてそれを受け止めようとして、すぐに決壊した。
「う゛ぅ~~~っ、ぐっ!あ゛、あぁっ」
気持ちいい。あまりに焦らされた身体には、その快楽はあまりに毒で。揺さぶられては潮を吹き、尾を強く締め付けられただけでも絶頂する始末で。腹の奥に切っ先を突き立てられては、もうどうなっているのかさえ分からなくなっていた。
それでも不思議と苦しみは無くなっていて、ただ多幸感だけがそこにある。
「望、もう何処にもいかないでくれ」
何と言われたかまでは理解出来ず、濁流の様な快感に流されていく。そうしてそのまま目の前が爆ぜて、私は意識を手放したのだった。
ずるり、身動ぎをすれば、身体の節々が痛んだ。酷く幸せな夢を見ていた気がする。暗い暗い奥底で、私であったものは眠っていたようだ。
末端の意識を間借りする形で、私は辛うじて私を保っている。それが私であるかと言われれば、分からない。
それでも私は私であるのだから、考える必要はないのだろう。
どちらが夢なのか、と言われると、どちらも夢であり現実であるとしか言い様がない。そこにあって、そこにいないもの。それが今の私の全てだ。
鋭い痛みが走る。私を蝕む原石は、容赦など知らんとばかりに己が身体を苛む。これは罪だ。それさえ受け入れて、私は生きる事を選んだ。
あの時聞こえた声は、ただ生きろと言った。
「そうだな」
誰にでもなく吐いた言葉は闇に消えていく。私の本体はここに居るけれど、私は私としてあの場所で生きている。それは救いなのだろうか。分からないけれど、この永劫にも等しい闇の中で、私はきっと生き続けるのだろう。
あの優しい暁を想って。