アークナイツ
珍しくウァンが朝練に着いてきた。普段ならば寝ているか、起きていても碁盤の前でただ座していると言うのにだ。良い兆候だと喜んだのも束の間、ただ見ているだけで身体を動かそうとしない。呼んでみても部屋の端から動こうとはしなかった。
なら何故着いてきたのだろうか。彼なりに何か考えがあるのだろうからと、一旦頭の隅に追いやって鍛練を続ける。
生徒達の動きを気にかけながら励んでいると、ふと視線を感じて、そちらを向けば視線の主はやはりウァンだった。熱を孕んだ双の瞳が此方を見ている。目が合って、すぐに逸らされてしまったが、あの目は情事の際に彼が良くするものだった。
どうしてそんな目で?疑問に思いつつも集中して、意識を鍛練に戻す。そうして朝練が終わり、生徒からの質疑応答も済んだ後、彼の元に歩み寄ればただ鼻を鳴らすのみだった。
「ウァンよ」
「なんだ」
「……いや、気のせいならいいんだ」
平素となんら変わらない様子の彼に、気のせいであったかと歩きだす。相も変わらず後ろを着いてくる彼と共に食堂へ赴けば、厨房でユーが慌ただしく行き来しているのが見えた。
「あ、兄ちゃん達、お早う」
「嗚呼、お早う」
「朝から精が出るな」
末の弟が可愛いのはウァンも同じらしく、彼にしては柔らかな笑みを湛えていた。作業の手を止め此方に寄ってきたユーは、人懐っこく笑うとウァンの顔を覗き込む。
「ウァン兄ちゃん、最近血色が良くなってきたね。やっぱり、ちゃんと食事を摂って眠っているからかな」
「後は運動さえしてくれたら良いのだがな」
「……煩い」
途端に機嫌が悪くなるのがあまりにも分かりやすくて、ふっと微笑めば睨み付けられた。弟の前で痛いところを突かれたのがよほど嫌だったのだろう。
「ふふ、そうだね。ウァン兄ちゃんは多分肉が付きにくいタイプだろうけど、運動はした方が良いよ!」
「……善処する」
「あ、朝ご飯だよね?どうする?」
「なら私はAセットを」
「ウァン兄ちゃんは?」
「雲獣にも分けてやりたい。持ち帰り出来るものを頼む」
食器を手に、スープを掬っていたユーの手が止まる。そうして少し考えた後、幾つかの料理と肉まんを包んでくれた。
「……そう言って食べなかったら怒るからね?」
「勿論」
「なら、やはり私も同じものを頼む」
「一緒に食べるの?ふふ、なら安心だ」
そう言って、末の弟は手際よく同じものを包むと手渡してきた。まるでそうなるのが分かっていたかのように。
ウァンはと言うと、包みを抱えながら勝手にしろと言わんばかりに溜め息を吐いていた。嫌なら断れば良いものを、断らないと言うことは許されていると言うことに他ならない。この男は中々どうして素直ではない。
「さ、後が支えてるから行った行った!」
「嗚呼、また後でな」
そうして後ろに並んでいた者らに会釈をして、二人で食堂を出たのだった。
それから部屋に戻れば、雲獣が待ってましたと言わんばかりに走り寄ってきた。元は碁笥であったと言うこの獣は、最近ではウァンからだけではなく、様々なオペレーターからおこぼれを貰っているようで、それでも体型は変わらないのだから不思議な物だ。
「待たせたな。何だ、置いていかれた事を怒っているのか?お前が起きなかったのが悪いのだろう?」
そう言って、彼は何やらにゃおにゃおと文句を言っている雲獣を宥めていた。その顔は酷く穏やかで、つい見入ってしまう。
「兄上よ、入り口で突っ立っていたってしょうがないだろうに」
「嗚呼、すまない」
招かれるがままにソファに座り、ユーから持たされた包みを開けた。湯気と共に、食欲をそそる匂いがふわっと香る。割り箸を割って、駄獣の肉と野菜の炒め物を口に運べば優しい、懐かしい味がした。
雲獣は肉まんの欠片と幾つかのおかずを分け与えられてご満悦のようだ。それを目の端で捉えながら、彼に話を振る。
「何だって今日は朝練に着いてきたんだ?」
すると、雲獣を眺めていた彼が此方を向く。表情を変えず、慈悲深い微笑みを湛えたまま。
「何、只の気紛れだ。それとも、何か理由がなければ見てはいけないのか?」
「いや、そのようなことは……」
なら何で、あんな瞳で此方を眺めていたのか。真意が読めず途方に暮れていると、彼がくつくつと喉を鳴らして笑い出す。
「ウァン?」
「いや、聞きたいことがあるのならば、思うままに言葉にすればいいだろうと思ってな」
「……あの目はなんだ?」
聞く気はなかったのだが、そう言うのならば乗ってやろう。思ったことをそのまま口にすれば、彼は少し悩んだ後、言葉を紡いだ。
「見惚れていた」
「……随分素直じゃないか」
「妹達の入れ知恵だと思ってもらって構わない。兄さんの驚いた顔が見たくてな」
これは1本取られた。そんな風に微笑まれては、勝てる訳がない。何かを悟ったのか、雲獣がウァンの膝の上から飛び降りて、そのまま棚に飛び乗り定位置で丸くなる。……後で褒美を与えなければだな。そう思いながら、気付けば吸い寄せられるように彼の唇にキスをしていた。
かさついた唇同士を何度も合わせて、至近距離で見つめ合う。
「にいさ、ん。……食事が冷める」
「後で温めよう。ユーには申し訳ないが……後で詫びるか」
「何と言うつもりだ、たわけが」
それでも、彼は拒絶する様子はなかった。長衣の隙間に手を差し込んで、肌を直接撫でる。ふるりと彼の身体が震えて、服を掴む手に力が入った。
またあの目だ。あの時と同じ欲に濡れた目が此方を見ている。
「にいさん」
甘く解けるように声が消えていく。肉付きの悪い、固い胸を揉みしだいて再度キスを落とせば、薄く口が開かれた。それを合図に、舌を滑り込ませる。歯列をなぞってやれば、上擦った声が鼻から抜けた。
愛おしくて、雲獣にしてやるように喉元を撫でる。ぐるぐると低い唸り声が聞こえ、自然と尾が絡みつく。ぎゅっと、二度と離れないように。まぁ、もう離してやる気もないのだけれど。
「んっ、にいさ」
喋ろうとしている舌を捕まえて、そのまま絡め取る。胸を揉んでいた指が突起に触れて、彼はぴくりと身体を跳ねさせて目を閉じた。
繰り返し触る内に大きくなってしまったそこは、今では立派な性感帯である。摘まみやすく膨らんだそこを指の腹で擦れば、あからさまなくらい悦びの声が上がった。
「んんっ!」
声が聞きたくて唇を離した。そうして両の突起を弄び、至近距離で感じている様を観察する。最初は控え目に上げられていた声も段々と色付いて、艶が増していく。
「あ、あぁっ……はぁっ、にいさんっ」
「ふふ、気持ちいいな」
こくこくと頷く彼に、遠い昔、まだ二人きりだった頃を思い出す。今やこんな爛れた関係になってしまったけれど、ウァンは間違いなく私の弟であった。
その良く熟れた突起にしゃぶりつく。わざとらしくじゅるじゅると音を立ててだ。すると彼は、たまらないと言わんばかりに喘いで、背をしならせた。
嗚呼、全部平らげてしまいたい。暴力的なまでの興奮を往なして、突起を引っ張る。
「あぁ、のびてしまうっ」
蕩けきった声にずくりと腰が重くなる。耳元で「こうされるのが好きな癖に」と囁いてやれば、彼は黙ってしまった。それでも拒絶する様子は見られない。気を良くして、そのまま胸を苛め抜く。突起を甘く食めば、びくりと一際大きく身体を跳ねさせた。どうやら、果ててしまったらしい。ぜえぜえと息を荒げながら、此方を睨み付けている。
そんなもの、此方を煽っている以外の何者でもないのに。
「ウァン、好きだ」
「っ!」
「抱きたい」
真っ赤に色づいた耳を舐りながら直接吹き込む。拒絶させる気など更々ないと言うのに、敢えて問うてやる。彼はほんの一瞬視線を彷徨わせて、やがて小さく頷いた。
「にいさん、すき」
蕩けきった表情で、私にすがり付く弟が愛しくて、ぎゅっと抱き締める。嗚呼、罪の味がする。弟に欲情して、手を出している甘美な罪の味が。