アークナイツ



 彼が書類の山を片付けている。やれ報告書だの、やれ資料だのの塊だ。別に溜め込んでいる訳ではない。純粋に彼の情報処理スキルの高さ故に任される仕事量が多いのだ。
 今日は幾日か振りの秘書当番だった。次から次へ訪れる難題を適切に処理しながら、彼の補佐をする。当番制のそれは、彼が信頼の置けると評価した人物にのみ任せるらしく、ロドスに入艦して間もない己に任せても良いのかと疑問に思うが、懐かれていると思えば悪い気はしなかった。何より、あのドクターと言う男は裏も表も無い。ただそこにある、と言う生き方はいっそ清々しいまである。
「ドクター、そろそろ休め」
 彼はやや仕事中毒の気があるから、適度なタイミングで休憩を進言せねばそのまま走り続けてしまう。それは先人の秘書当番達から教わったことであり、そうでもしなければこの男は寝食すら忘れてしまう。
「もう少しでキリが良いとこまで来てるんだ」
「だからこそだ。茶を淹れてくる。大人しく待っていろ」
 以前ユーに差し入れで貰った茶葉がある筈だ。椅子から立ち上がれば、ソファの上で眠っていた雲獣が目を覚ます。そうして腕の中に飛び込んできた。それを抱えて、執務室を後にする。部屋に戻る途中で厨房に寄ると、若いオペレーター達が何やら集まっているのが見える。
「あ、ウァンさん」
「皆で焼き菓子を作ったんだけど、食べる?」
「……丁度ドクターに休憩しろと言った所だ。幾つか包んで貰えるか?」
 林檎の甘い匂いと、シナモン、紅茶の独特な匂いが辺りに香っている。待っている間、椅子の上に飛び降りた雲獣は、若いオペレーターに構われて嬉しそうであった。どうやら今日は気分がいいらしい。
「はい、雲獣ちゃんの分もおまけで入れておきました」
「痛み入る」
「今度囲碁を教えてね」
 会釈をして厨房を去ると、執務室を目指す。部屋に戻れば、出た時と変わらずドクターは書類に埋もれていた。
 備え付けのケトルで湯を沸かし、茶葉を袋に入れるとマグカップに落とし、湯を注ぐ。折角の茶葉だ。本当なら手順に拘りたい所だが、今は手軽さを取った方が良い。それは今度時間がある時にでもしたらいいのだ。そうして、琥珀にも似た色が湯に滲む。辺りに茶のいい香りが漂った。袋を湯から取り出し、テーブルの上へ置くと彼を手招きする。
「ドクター、休憩の時間だ」
「ありがとう。茶請けまであるんだ」
「厨房で分けて貰った物だ。アップルパイと紅茶のクッキーだと言っていた」
 使い捨てのカップに同じように茶を淹れて、ソファに深く腰掛ける。貰ったクッキーを雲獣に差し出せば、そのまま小気味良い音を立てながら食べ始める。
「わ、このお茶美味しいね!」
「ユーに差し入れで貰ったのだ。気に入ったのなら後程詳しく聞いておこう」
「いや、私から聞くよ。アップルパイも美味しい。甘いものって疲れた身体に沁みるね~」
 一枚目をぺろりと平らげた雲獣が、もう一枚無いのかと鼻を鳴らす。微笑んで、もう一枚分けてやった。
「ねぇ、もう少ししたら今日の分……いや、なんだったら明日の分もけりが付きそうなんだけど」
 私の部屋に来て欲しい、なんて。伏し目がちに言われて断れる筈もなかった。どう考えても誘いの一言でしかないその言葉に、思わず頭を抱える。
「ドクターよ、お前は少し休め」
「休むよ、休むけどさぁ……」
 その白い肌に朱が混じる。どうやら、引く気は無いらしい。熱い溜め息混じりに「貴方は嫌?」などと聞かれて。そもそれで嫌がるようなら今までだって抱いていない。
「発散したら寝られるのか?」
「勿論、寝ます」
「……部屋に行けばいいのだな?」
 私はこの男に対して、つくづく甘いと思う。恐らくは家族の次に、会ってそれ程時が経っていないのにそう言う仲になったくらいには。これが惚れた弱みと言う奴なのかもしれなかった  


 その後、彼は宣言通り仕事を粗方片付けると部屋に戻っていった。準備をするからと、30分後に部屋に来るよう言われて時間を持て余す。長い廊下を落ち着きなく動き回り、時折すれ違う者に挨拶なぞされながら丁度30分、部屋の前へと向かい声を掛ければ、中から軽装の彼が出てきた。石鹸の香りに、シャワーを浴びたのだろうことが分かる。
「どうぞ」
 招かれるがまま部屋に入れば、扉が閉まった瞬間彼が抱き付いてきた。受け止めて、シャンプーの匂いがする髪に顔を埋める。
「ふふ、擽ったいよ」
 逃がさない様に身体に尾を絡ませて、薄く開かれた唇にキスを落とす。お気に召したのか、目を閉じて体重を預けてきたのを合図に、口内に舌を滑り込ませた。
 まだベッドにも到達していないと言うのに、求められるのが嬉しくて、そのまま壁に押し付ける。
 辿々しくからめられる舌を愛しく思いながら、耳をなぞれば、彼の身体がぴくりと跳ねた。湿った音が部屋に響く。扉を隔てた向こう側は人が往来しているであろうと言うのに、止まることなど出来なかった。
「っ、ふぅっ……」
 股座に足を差し込んで、緩く揺らしてやる。切ない刺激に眉を八の字に歪めながら腰をかくんと揺らす様が何ともいじらしかった。どうしてだか、彼に対しては加虐心が刺激されてしまっていけない。
 胸を叩かれてゆっくりと離れると、酸欠で潤んだ瞳に睨まれる。身体の細さはそう変わらないが、背丈は此方の方が高い分どうしても上目遣いになってしまうが故に、あまり迫力は無い。寧ろ逆効果ですらあると言うのに、自慢の頭もどうやら働いていないようだった。
「こんな、部屋に入って直ぐに盛るなんて」
「満更でも無い癖に。嫌なら抵抗の一つでもしてみろ」
 無理な事を分かった上で囁いてやれば、彼は悔しそうに顔を歪めた後、黙ってしまった。否定の言葉くらいは吐くと思ったが、それすらも無い。機嫌を損ねてしまったかとも思ったが、ゆるゆると動かされる腰に、声を出さまいと噛み締められる唇に、続行可能と判断して薄いトレーナー越しに身体を撫でる。
「……っ」
 鼻から上擦った声が抜けていく。主張をしている胸の突起を指の先で撫でれば、面白いくらい彼の身体が跳ねた。しがみつくように服を掴んで、胸に顔を埋める。感じている顔を見られたくなかったのだろう。
「ドクター」
「……ここじゃ、やだ。ベッド行こう?」
「……」
 涙ながらに訴えてくる彼を無視して、スラックスに手を滑り込ませる。勃ち上がった陰茎に指を絡ませてゆっくりと扱けば、耐えられないと言わんばかりに顔を歪ませた。
「あ、あぁっ……声っ、出ちゃうからっ」
「どうせ外には聞こえん」
「そう言う問題じゃないっ!」
 かくんかくんと快感を欲して可愛らしく揺れる腰に思わず目を細めながら、その痴態を至近距離で眺める。もぞもぞと身体をくねらせてなんとか快感を逃がそうとしているが、少しずつ追い詰められていく。
 ぱくぱくと開閉を繰り返す尿道口を撫でれば、透明な液体がとぷりと滲み出る。それを指に絡めて擦ってやれば、短い悲鳴を上げて胸に顔を埋めた。
「っ、うぅ!ぐっ、う……あっ!」
「気持ちいいか?」
「いじわるっ!」
「くくっ、意地悪で結構」
 びくりと一際大きく身体を跳ねさせて、彼が果てる。何度かに分けて吹き出す粘り気のある白濁に、余程忙しかった事が窺い知れる。
「あ、ぁ……っ、ばかっ」
「でも、良かっただろう?」
 否定の言葉は続かなかった。流石に彼を抱き抱える程の筋力は無いので支えながらベッドへ移動する。部屋には香が焚かれていた。それがお気に入りの物だと言うことは、この部屋に来るようになってすぐに教えて貰った。
「慣らしてるからすぐ挿入ると思うけど……」
「それでは詰まらん。私にも楽しませろ」
 ベッドに仰向けで転がっている彼に覆い被さり、スラックスを脱がせると足を開かせる。明るい部屋故に、全てが晒されていて彼の頬が赤く染まった。手渡された潤滑油を指に絡ませて、ひくつく後孔を、皺を伸ばすように撫でる。
「っ、明かり、消してっ」
「何故だ?」
「恥ずかしいから!」
「今更だろうに」
 柔らかいそこに、ゆっくり指を埋める。確かに直ぐにでも挿入そうなくらい柔らかく、指を拡げれば赤い内蔵が蠢いているのが見えた。
「あぐっ、今日のウァン、何時もより意地悪いっ」
「そう望んだのはお前だ」
 額にキスを落として、中の感覚を楽しむ。分かりやすく膨らんだ前立腺を揺らせば、陰茎から先走りを滲ませながら身動ぎをした。
 気持ちいいのだろう。控えめな喘ぎ声が彼の口から漏れ出す。
「うあっ、あぁっ!それ、きもちよくなっちゃうからぁ、だめっ」
「ここで見ていてやる。好きに果てるといい」
 勃ち上がった陰茎を扱いてやれば、彼は首を横に振り乱れる。同時に刺激されるのが好きなことくらい、もう知れているのだ。可愛らしく震える身体を体重を掛けて押さえつけると、ぐぷぐぷといやらしい音を立てながら指を出し入れする。
 そうして追い詰めていくと、彼の身体がガクガク震え始めた。
「っ、あ゛あ!ぅ、……ウァンっ」
 息も絶え絶えに私の名前を呼び、彼は呆気なく果てる。二度目だと言うのに、出された精液は濃い。手に絡み付いたそれを見せ付ける様に舐めとれば、それをただ見ていた彼は耳まで赤く染め上げた。
「っ、そ、そんな事しなくていいのに」
「好きでやっているのだが?」
「……いじわるい」
「嫌か?」
「嫌なわけ……ないじゃないか!あ、笑ったなぁ!」
 くつくつ喉を鳴らして笑えば、彼はばたばたと足をバタつかせた。そうやって恥ずかしがるのが可愛らしくてやっていると言ったら、彼は怒るだろうか。
「ねぇ……続き、してよ」
 彼は目線を逸らし、言う。それも、自分で後孔を拓きながらだ。無自覚なのだろうが、それがどれだけ此方を煽っているのかを、まるで理解していない。
「ドクター」
「容赦しなくていいから、好きに使ってくれて構わないから」
「誰がそこまで言えと言った」
 溜め息混じりに呟き、前を寛げる。既に芯を持ったそれを取り出すと彼の尻に押し付けた。彼がごくりと生唾を飲み込む音がする。先走りを塗り込むように皺を伸ばせば、辛抱たまらんと言わんばかりに彼が唸った。
「焦らさないで」
「……すまない」
「いいよ」
 腕が背中に回される。それを合図にゆっくり腰を押し進めれば、敏感な先端が温かな肉に包まれた。待ちわびた刺激に、中が搾り取るように蠢く。
「っ、」
「あぅっ、ウァン、加減しないで」
「ドクター」
 ここまで来て、加減なぞ出来る訳もない。中が馴染む前に限界まで引き抜いてそのまま最奥に叩き込むと、彼は目を白黒させながら感じ入った声を上げた。折れそうなくらい細く薄い腰を掴んで、何度も腰を打ち付ける。
 足に尾を絡ませて痛くない程度に締め上げる。それさえ刺激となるのか、彼は愛おしそうに尾に触れた。瞬間、ぞわりと快感が走る。
「あ、あぁ!ひっ、うっ……!」
「……煽るな」
 ぐるぐると喉が鳴る。目の前の色素の薄い肌に噛みつくように跡を散らしながら、その肉を夢中で頬張る。一際大きな声を上げて、彼が先に果てた様だが気遣うだけの理性なぞ残っていなかった。
 結合部はぐぽぐぽと水っぽい、いやらしい音を立てている。健気に締め付けている後孔を人差し指でなぞれば、連動するようにきゅうっと中が締まった。
「あ゛、う!う゛ぅーーーっ、きもちい、っ……~~~~っ!」
「はぁっ!」
 がくんと彼の身体が強く跳ねる。突き出された舌にしゃぶりついて、甘く食めば中が甘えるように絡み付いてくる。カリ首で前立腺を抉れば、背中にがりがりと爪が立てられた。
「うあ、まって、なんかっ……出そう!」
「っ、待てると思うのか?」
「ひっ、あ゛!だめっ、だめ、止まって」
 制止の声を無視して腰を打ち付ければ、涙をぼろぼろ流しながら彼は果てた。そうしてびくりと身体を跳ねさせた後、声にならない声を上げながら、身体をしならせる。何やらぷしゃと聞き慣れない音がして。音の方に視線を向ければ、彼は陰茎から透明な液体を吹き出していた。
「見ないれっ、やぁ、やだっ!」
「……潮か」
 何が起こっているのか分かっていない彼は、手で私の両目を隠そうと躍起になっていた。その手に舌を這わせれば、くしゃっと顔を歪ませる。
 そも、加減をするなと言い出したのはそちらの方だ。ならば叶えてやる他ない。ふっと微笑んで、晒された首筋に噛みつく。滲み出た血を舐め取って、そのまま最奥に精を吐き出したのだった。



「貴方を初めて見た時、思ったことがあるんだ」
 腕の中に収まって、私の髪を撫でる彼の手が心地好くて目を伏せる。彼はと言うと、眠たそうに瞬きを繰り返していた。
「昔の人は、虹を龍だと言ったらしい」
「それがなんだと言うのだ」
「まあ聞いてよ。月光でも虹って掛かるんだけれどね?月の虹って、肉眼では淡い白なんだ。だから貴方を初めて見た時、望月の名に相応しいなって、見惚れてしまった」
「……そうか」
 きっと名を褒められて嬉しいんだろう。彼の月が細められる。ぎゅうっと強く抱き締められて、彼の吐息が首筋に当たって擽ったい。
「でも、接してみて思ったけれど太陽のような側面もあるね」
「……」
「それを心地好いと思うよ。……ねぇ」
「……」
 答えは返ってこない。うとうとと瞬きを繰り返した後、彼は眠りに落ちていった。彼にとって、眠ると言うことは現実に戻ることを意味する。現実とは、言うまでもなく遠いかの地で今も苦しんでいる彼本体の事だ。
「いってらっしゃい」
 その額にキスを落として、その身体を抱き締める。それで起きてくれれば良かったけれど、呼び止めたところで、人間は睡眠を取らなければ生きていけないから。
「貴方の気持ちは分からないけれど、きっと今の私の気持ちと同じだったのかもしれないね」
 代われる物なら代わってしまいたい。でも、その苦しみを分かった上で貴方は全てを受け入れたのだろうから、私に何かを言う資格はない。本当なら、こうして懐へ入ることだって許されないだろうに。それなのに、こうして今日も招かれている。それが嬉しくて、同じくらい悲しい。
「願わくば、私が居なくなっても貴方の夢が続きますように」
 呟いた言葉は闇に溶けるように消えていった。嗚呼、水に浮かぶ月が欲しい。私はそう願わずにはいられないのだ。

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