アークナイツ



 それが兄弟の絆とやらを超えていることは、もうすでに痛いくらい分かっていた。ただ、認めるのも癪に障るので、見ないふりを決め込んでいただけだ。あまり顔を会わせない頃はそれで良かった。だが、このロドスに流れ着いて、寝食を共にする機会に恵まれてしまったが為に、なあなあになっていた間柄に決着を付けねばならなくなってしまったのである。
 妹、弟達には既に察されていたのだが、ついにはドクターまで「貴方達は早くくっ付いた方がいい」とまで言い出したのだ。
 どうして、等とは言うまい。奴の過保護さは、あの一件からより酷くなり、一時は四六時中付き纏う有り様であったし、少しばかりましになった今でも空き時間には必ず顔を見せるのだ。そんなの、端から見て気にならない訳がない。
 そもそもの話、恋とも言っていいのか分からないこの感情を、己は千年持て余している。この生が始まったあの日、双の暁に見詰められたあの時から、ずっと答えは決まっていたのだ。
 ただ、それをすぐに認められる程、己は物事に素直にはなれない。千年噛み砕きに噛み砕いて、漸く振り切れたくらいなのだ。
「本当に、貴方達はちゃんと話し合った方がいい」とは呆れたドクターが良く口にする言葉なのだが、まさか彼も私達が肉体関係から入ってしまったとは思うまい。


 熱い息を吐く。ずるり、と音を立てて奴の剛直が腹から出ていき、散々苛め抜かれた後孔がぱくぱくと口を開いているのが分かる。蓋を無くしたそこからどろりとしたものが流れ落ち、シーツを汚すが気だるくて構っていられなかった。
「ウァン」
 奴の声が鼓膜を揺らす。労るように頬にキスを落とされて、その心地よさに目を瞑る。何時もならこのまま後処理をされて、奴の腕の中で眠りに落ちるのだが、今日はどうも動く気配がない。不思議に思って目を開けると、私に覆い被さったままの奴は、ぎらついた目でこちらを見ていた。足りないと言わんばかりに。
「……」
 ぞわりと鳥肌が立つ。散々抱かれて鳴かされたのに、先程まで奴を咥え込んでいた腹の奥が疼いてしょうがない。浅ましい。こんなこと。ほんの一瞬だけ悩んで、腹這いになると尾を持ち上げる。
「ん……」
 そうして、未だ白濁を垂れ流す後孔を指で拡げるように見せつければ、奴が生唾を飲み込む音が聞こえた。
 もう少し、もう少しだけなら、きっと許される。……誰に許しを請うというのか。自分の事ながら可笑しくて笑いがこぼれる。
「お前に無理をさせたくない」
「……そんな顔で見ておいて何を今更」
 本当に今更何を言っているのか。抱かれている時点で無理も何も無いのにこの男は。早く理性なんぞ手放してしまえばいいのに。
「それとも、言わねば分からんのか?」
「……すまん」
 そう言うと、奴は観念したのか覆い被さってきた。そうして後孔に硬いものが押し当てられる。嗚呼、これで楽になれる。そう思ったのも束の間、一向に挿入ってくる気配がない。
「おい」
「たまにはお前の言葉で聞きたい」
 耳元でそう囁かれて、あろうことかそのまま耳を舐られてぞわりと鳥肌が立つ。行動で見せたと言うのに、まだ満足しないのか。奴を睨み付けるが、何処吹く風であった。
 焦れてしょうがないが、それでも欲を口にするのは憚られる。迷って黙りこくっていると、追撃と言わんばかりに腰を押し付けられ、先端がめり込んできた。嗚呼、挿入ってくる。そう思った矢先、引き抜かれて、また押し付けられてを繰り返される。こんなの、奴だって辛かろうに。そんなに言葉にして欲しいのかと思う。
「はぁっ、あぁ……」
 勝ち目の無い勝負だった。こんなの、耐えられる訳がない。悩みに悩んで、顔を寝具に沈み込ませると、呟く。
「っ、抱いて……くれ。酷くして欲しい」
 見えずとも、肌が色付くのが分かる。自分の口で言わされたのが恥ずかしくて仕方がない。奴は懇願がお気に召したのか「わかった」と言うと後孔に剛直を押し付ける。
 ゆっくり先端が飲み込まれていく。その質量に目を白黒させながら、なんとか耐える。何時もとは違う、より交尾らしい体勢にくらりと目眩がした。
「ウァン」
「っ、はあ!あぐっ、うぅっ!」
 ぎゅうっと痛いくらいシーツを掴む。慣らすように揺さぶられて、抑えようとしても情けない声が漏れてしまう。腰を両手で掴まれて、カリ首で前立腺をごりごりと抉られて目の前に火花が散った。気持ちがいい。肌に触れるありとあらゆるものに身体が反応を示す。伝い落ちていく汗も、絡んで、緩く締め付けられている尾も。擦れるシーツでさえ。全てが刺激となって襲いかかってくる。
「にいさ、あ゛ぁっ!」
 絶頂の気配がして、寝具に頭を擦り付ける。もう何度も果てているからか、絶頂までの感覚が短い。そんなことを知らない奴は、獣の様にぐるぐると喉を鳴らしながら私を貪る。そうして、どうしようもない快感の中に放り出されて、陰茎から精を吐き出すこと無く果てた。
「~~~~っ!」
 焼き尽くすような快感に頭が馬鹿になる。考えられるのは気持ち良いと愛しいだけで。口の端から唾液が流れ落ちるのさえ制御出来ない。私が果てた事に気付いていないのだろう。止まる気配の無い奴は、そのまま最奥を抉じ開けるような動きを見せる。
 それ以上、挿入る訳がない。そんなことをされたら、戻れなくなってしまう。
「あ、あぁっ!う゛、にいさんっ!い゛あ゛っ、あ゛ぁっ……!こわれ、るっ!」
 駄々を捏ねる童子が如く、嫌々と首を横に振る。それでも奴は止まらない。それどころか、腰を掴む手に力が籠る。離す気など無いと言わんばかりにだ。もう、理性なぞ飛んでしまっているのかも知れない。それを望んだのは他でもない己だ。
「ウァン」
 欲に濡れた声がする。そうして、項にゆっくり歯が立てられた。鋭い痛みと共に、それすらも快楽へと変換される。
「にいさん、にいさ、あ゛っ!」
 それ以上挿入らないと思っていた最奥が緩んでいく。本能的に、そこに挿入られてはいけないと悟るが、時既に遅し、身体の奥でごちゅっと嫌な音がして、先端がそこにめり込んだ。
「お゛っ、ぐぅ……う゛ぅ!」
 瞬間目の前が真っ白になって、出したこともない酷い声が口から飛び出す。全身の毛穴が逆立っているような感覚。それが快感だと気付く前に決壊した。
 しょろしょろと音がして、しらじむ視界のままそちらを見れば、勢いのない液体が陰茎からこぼれ落ちている。色の付いたそれはどう考えても尿で。でも、とてもじゃないが構っていられない。今だって、酷い音を立てて剛直を穿たれている。
「あ、がぁっ……!」
 待ってくれとも声にする事が出来ないでいた。暴力的な快感は精神を汚染していく。まともな思考なんて何処かへ行ってしまって、その身を焦がすばかりである。
「ん゛、きす、して」
 泣きながらの懇願に、奴ははっとしたように目を見開いた。この期に及んで正気に戻る辺り、長兄らしいと言えばらしいのだろう。
「すまない」
 そうして剛直を引き抜こうとするものだから、自分から強く締め付けて、腰を動かす。奴は情けなく呻いた後、腹の中で精をぶちまけた。それが脈打つのをありありと感じながら、言う。
「やめなくていい、っ、う゛ぅ……ぜんぶ寄越せ」
「っ」
 伸ばされた手にすり寄って甘えてやれば、奴は顔を歪める。心配そうにしているが、その瞳には確かに興奮があった。
「すきだ」
 叫びすぎてがさがさの声で、何百年も欲しかったであろう言葉を言ってやる。答えのように降らされたキスに、目を閉じたのだった。

 それから丸2日ほど解放されないことを、この時の私は知るよしもなかった。


 
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