アークナイツ
半ば呆れながら奴を見る。どうしてと言われれば、魔が差したからとしか言いようがない。言い訳の仕様は幾らでもあったが、敢えて言葉を探そうとはしなかった。どちらでも良かった、それが本音か。
奴は部屋に入ってきた段階で様子が可笑しかった。何があったかなんて、知りたくもない。そも、奴が部屋を訪ねてくる事自体が珍しいのだ。そうしてそのまま話し掛ける間もなく寝床に投げられて覆い被さられて、寝間着の隙間に手が入り込んできた辺りで何をしようとしているのか察した。酒臭いこの馬鹿は、どうも何者かにかなり酔わされているようで。酔わされているのも珍しければ、理性を飛ばしているのもかなり珍しい。柔らかい猫毛を掴んでやるが、そのくらいじゃこの身体はびくともしなかった。
「っ、」
「望」
低い唸るような声が鼓膜を揺らす。名を呼ぶと言う事は、今己が誰を抱こうとしているのかを認識していると言う事に他ならない。まぁ、他の誰かでなくここを選んだ事だけは褒めてやるか。
熱い手が肌を撫で回す。ぞわぞわと鳥肌が立って、ただそれが嫌悪感から来る物なのかどうかは分からなかった。
じゅうっと音を立てて首筋を吸われ、ちりっとした痛みに跡を残された事を知る。自分の物だとでも言われているようで、腹が立つ。
「おい、跡を残すな」
声に出してみるが、奴には届かなかった。聞く気が無いのかは知らないが止める気配は無く、胸に、腹にと赤い跡が散らされていく。
力でこの男に適う訳もなく、早々に諦めて脱力する。奴に抱かれるのは、何もこれが初めてではない。今更失う物なんて無いのだから好きにしたらいい。
「望」
縋るように名前を呼ばれる。欲に濡れた瞳と目が合って、何て顔をしているのか、と可笑しくなった。逃がさまいと言わんばかりに腕に絡み付いて来る尾が熱を持っている。
「抱きたい」
「……好きにしろ」
溜め息混じりに吐き捨てる。否定なんてさせる気は無い癖に、何を言っているのか。そも、そんな酔っておいて勃つのか。
「望」
確かめるように再度名前を呼ばれて、触れるだけのキスをする。酒臭い。最悪の気分だ。
舌が入ってこようと唇の割れ目をなぞって、仕方がないから薄く開いて迎え入れてやれば、待ってましたと言わんばかりに熱い舌が入り込んできて、そのまま舌を絡め取られる。同時に肌を撫で回していた手が胸の突起を掠めた。
そんなところ、感じる訳もないのに。それなのにぞわりと神経を逆撫でされているような感覚に思わず背を反らす。
それは間違いなく快感だった。
「っ、う……」
調子に乗った奴が、突起に舌を這わせる。とっとと抱いて仕舞いにすればいいのに。態々柔らかくもない男の身体を撫で回して何が楽しいのか。とてもじゃないが理解出来ない。
「望……すまない」
「謝るくらいなら初めからするな」
ざりざりとした舌が肌を削る。それに合わせるように上擦った声が鼻から抜けていって、その様を見た奴がくつくつと喉を鳴らす。誰のせいでこうなっていると思っているのか。腹が立って睨み付ければ、熱っぽく見つめ返されるのみだった。
「朔」
名を呼べば、へにゃりと緊張感なく微笑まれる。奴の手が股をまさぐって、そうして芯を持ち始めた陰茎に手が絡み付いた。直接的な刺激に、思わず背がしなる。
「ぁ、っ!」
見せ付けるように男の象徴を扱かれて、忘れかけていた気持ち良さにぐるぐると喉が鳴る。至近距離でそれを眺めている奴は、心底楽しそうで。本当に理解に苦しむ。
「気持ち良いか?」
「っ、知らん」
ぢゅくぢゅくと聞くに耐えない音が響いている。羞恥心からぎゅっと目を瞑るが、より感覚が鋭くなっただけに終わった。なるべく声を上げないようにシーツを噛んでなんとか耐える。
「んっ、んぐ……う゛、」
気持ち良さに腰がかくかく揺れる。限界が近付いてきて、奴の腕を掴むが止まってはくれなかった。抵抗も虚しくそのまま奴の手の中で果てる。びゅくびゅくと白濁が吐き出されていって、目の前がチカチカ明滅した。
「~~~~っ!」
「望」
耳元で名前を囁かれて、ぞわりと鳥肌が立つ。そうして休む間もなく指が後孔をなぞった。皺を伸ばすように精を塗り込められて、先を知る身体が熱を浅ましくも持つ。
「っ、そんなに酒が入って抱けるんだろうな?」
「勿論」
膝に芯を持ったそれが押し付けられ、杞憂であったかと思う。杞憂であれば良かったのに。そうであったら……いやここまで来ておいてそれは殴っているかもしれない。
ゆっくり指が精の滑りを借りて挿入ってくる。何度されても慣れないその異物感に呻いていると、奴の顔が近付いてきてそのまま触れるだけのキスを落としてきた。
慰めのつもりなんだろう。何の意味もないと言うのにこの男は。
「朔」
手持ち無沙汰で名前を呼ぶ。今は重岳と名乗るこの男は、果たしてどんな気持ちでそれを聞いているのだろうか。まあ、どちらでも良いことだけれども。
ナカを這い回る指がふと前立腺を捉えて、気持ち良さに身体が震える。排泄器官でしかないそこを、少しずつ性器に変えられていく感覚に狂いそうになりながら、のたうつことしか出来ない。
「あ、あっ……」
思考がじわじわと削られていく。快感の前に全てが遠退いていって、結局そこには剥き身の自分達しか残されていなかった。
挿入された指が3本になる頃には、息も絶え絶えに奴の背中に爪を立てるくらいしか出来なくなっていて。キャパオーバーの快感に焼かれ、身動ぎをする。
「っ、うぅ!おい、はやく、しろっ」
「本当にいいのか?」
「いいも、なにもないだろうに」
ここにきて尻込みをすると言うのか。散々好き勝手しておいて、今更何を言っているのか。怒りを込めて目の前の肩に噛みついてやれば、肌を傷付けたのか口の中に鉄の味が広がった。
「っ」
「……ふん」
「悪かった」
そうしてゆっくりと前を寛げると、勃ち上がったそれがまろび出る。己より幾分も立派な陰茎に触れれば、奴は熱い吐息を溢した。
指が引き抜かれた後孔は、早く早くと言わんばかりに口を開いている。腰を掴まれて、後孔に陰茎を押し当てられると、質量のある物が肉を掻き分けて挿入って来た。
「あぁっ……はぁっ」
この感覚は何度味わっても慣れることは無いだろう。心臓を直接掴まれているような、逃れようの無い手詰まり感がある。そも、弱点を晒し出しているような物なのだから今更か。
慰めるように落とされるキスを鬱陶しく思いつつも、悪くないと思っている自分がいる。馬鹿らしい。こんな行為に何の意味もないのに。
無いはずなのに、愛しくて。嗚呼、馬鹿らしい。
「望」
奥まで腰を押し進めた奴が、名を呼ぶ。応えるように己から唇を押し付けて、誘うように腰を揺らせば奴が呻いた。
「煽ってくれるな」
「そちらの方が良いのだろう?」
奴も己も、いかれている。男同士で、同じ物から生まれ出たと言うのに、どうしようもなく惹かれ合って、しょうがないのだ。
「う゛ぅ、あっ!」
ぱん、と肉と肉がぶつかり合う音がする。瞬間、全てを塗り潰してしまうような快感に襲われて反射的に首を振る。前立腺をカリ首が抉る度、目の前がチカチカ明滅して、しがみついた背中にがりがりと爪を立てる。
「あ、あ゛ぁ……朔っ」
奴の名を呼ぶ。繰り返し繰り返し、何度も。快感と罪悪感に焼かれながら、踠く。息継ぎが出来なくて苦しい。その苦しさに、追い詰められていく。
不毛だ。そんなことは頭では分かっている。それでも、この行為そのものに意味がないとしても。共に在りたいと思うのは罪なことなのだろう。
「望、……ウァン」
苦しそうに奴が呻く。お互いに限界が近いのを察して腰を浮かせると、そのまま奥へと導く。汗が肌を伝い流れ落ちていく。生きていると言うことを実感し、その悦びに背をしならせ果てた。
それと殆ど同時に奴が腹の奥で爆ぜる。熱い生命の飛沫をただ受け止めて、多幸感に飛びそうになる意識をなんとか繋ぎ止めたのだった。
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