THANK YOU FOR YOUR LOVE♡

僕が初めて選んだ君へのプレゼント(岸本ver.)

オカンは学校に行く前に髪をセットしている俺を見て必ず「鬱陶しいから早よ切りや」と言う。鬱陶しいかどうかはこっちが決めることやろうと思いつつ、言い返すのが面倒なため空返事をしておく。

そんな俺が、最近自分ではない奴の髪を見て鬱陶しいと思うようになった。

同じ委員会にいる名前も知らない女だ。

やりたくも無い委員会に行って話なんてマトモに聞くはずもなく周りを見渡すと、議事担当の女が机に顔がくっつくのではないかというくらい近付いて懸命に文字を書いている。

肩にかかるくらいの黒くて真っ直ぐなサラサラの髪は耳に掛けてもすぐに落ちてきてしまい、カーテンのように顔を隠してしまう。髪が落ちては耳にかけ、を繰り返す姿が何だか面白くてつい見入ってしまった。

それが少し楽しみになっていたある日の委員会で、俺の視線に気付いたのかその子が一瞬顔を上げ、バチンと目が合ってしまった。

今まで気付かなかったが、その子はめちゃくちゃ可愛かった。直球ど真ん中、所謂一目惚れってやつだ。


それからどうしてもあの子の顔が見たくて仕方が無かった俺は、数ヶ月に一度の委員会まで待てず、持ち前のコミュ力を駆使してクラスを突き止めた。どうやらアホボンの板倉と同じクラスらしい。板倉に用なんて一万パーセントないが、接点がこれしかないのだからやむを得ないだろう。

教室のドアから少し覗くと、すぐにあの子を見つけた。なぜなら委員会の時と同じように机に近付いて何かを書いていたからだ。

よし、今がチャンスや。

何の断りも無くズンズンと教室に入り、途中板倉の声が聞こえた気もしたが脇目も振らずあの子の席に向かった。そして渡すと決めていた物をポケットから出し、顔の近くに差し出した。

気付いて顔を上げ、目が見えただけで心臓が痛い。いや、もう後戻りは出来ない。言うんや…!


「コレやるわ」

『え…ヘアピン…?』

「いっつも髪落ちてきよるやろ」


嗚呼…何でこんな言い方すんねん…。自分をコントロール出来ないのが情けない…。

なんて考えていると、手から袋が離れていった。そして彼女は真っ直ぐ俺を見上げて言った。


『ふふっ。ありがとうございます』


その控えめな笑顔が俺にとってのプレゼントになった。

もっともっと知りたくなった。



おわり

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