憂鬱への扉
「みみ様、大丈夫ですか?私なんかの事より、みみ様の腕が心配です。」
笑ったつもりの顔で、みみ様に話しかけましたがこちらを向いてはくれませんでした。
当たり前ですよね、元はと言えば許可なく近付いた私が悪いのですから。
頭を打ったみたいで、視界がふわふわとして立ち上がれず、ぼーっとしてしまっていた所、
いきなりふわりと抱き抱えられて吃驚しました。
「皐月先輩。久しぶりです、大丈夫っすか?意識あります?」
「なっ、何故水無月がここに!?降ろしてください!」
水無月は皐月の後輩です。旦那様の身辺警護をしていると聞いていましたが、まさかこんなにすぐ会うなんて…。
「暴れちゃだめっすよ、旦那様に怒られます。ほら。」
水無月の言葉通り、旦那様の方に視線を向けると
「水無月、皐月をよろしくお願いします。皐月も、大人しく水無月の言う事を聞くんですよ。」
と言い、微笑みながら黒いオーラを放っていました。
旦那様に言われたら仕方ありません。
どうして旦那様は後輩の水無月より先輩の皐月の事を子供扱いしてくるのでしょう…。不愉快です。
皐月は言われた通りに大人しく水無月に運ばれていました。
「…みみ様は大丈夫でしょうか?」
ぽつりと呟くと、水無月は呆れた顔をしました。
「旦那様がやってくれるでしょ。こんな時すら人の心配とか馬鹿なんじゃない?」
「先輩に向かって馬鹿ってなに!?そんな事言うとお仕置きなんだから!」
ただでさえ砕けた変な敬語なのに、先輩なのに、皐月の前でだけ敬語使わないのは何なんでしょうか?
嫌われてるのか、下に見られてるのか分かりませんが、先輩として躾はきちんとしなければなりません。
そんなことを考えて上体を起こして文句を言うと、頭に血が上ってしまってふらふらと水無月の腕の中頭が戻っていきました。
「あれー?旦那様に『大人しく』って言われてたのにもうおやくそく、守れないんですか?
ちゃんと『水無月の言う事を聞かないと』だめっすよ、先輩。」
こんな時だけにやにやと馬鹿にしたように敬語を使う水無月。
本当にむかつきます。
皐月が脹れ面をしていると、水無月はくすくすと笑った後真面目な顔をして言いました。
「でも、ほんとに心配したんだよ。皐月先輩が無事で良かった。」
…こういう所が憎めないんです。
皐月は気まずくなって目を逸らしてしまいました。