憂鬱への扉




すぅ…はぁ…。

まずは深呼吸です、自分を落ち着かせなければ。
これからみみ様のお世話をする様に命じられた皐月は、緊張していました。

皐月は戦闘や隠密ばかりしていたので、誰かの…ましてや小さい女の子となんて関わったことがありません…。
大丈夫でしょうか、不安しかありません。

髪は大丈夫でしょうか?服は…ちゃんとしていますね。手鏡を持ち自身を見つめます。
父親譲りのブロンドでくるりとくせっ毛な前髪は頬にかかり、いつものシニヨンも崩れてないみたいでした。
挙動不審にドキドキソワソワとしていると、
がちゃりとドアが開きました。

「皐月、おいで。」

旦那様の包まれるような優しい声に呼ばれ、いざ一歩一歩と踏み出してみみ様の元へ向かいます。


「はじめまして、みみ様。私は皐月と申します。
今日付でみみ様の護衛兼お世話係に着任致しました。よろしくお願い致します。」

緊張が喉から出てしまわないようにご挨拶をしてから、スカートの裾を軽く持ち上げ、膝を深く曲げて頭を下げました。

「上手にご挨拶できましたね、皐月。」

旦那様に頭を撫でられて顔を上げると、みみ様はくりくりのお目目を見開いて皐月を見つめていました。
初めて見るみみ様は桃色でふわふわの髪にくりくりとした色素の薄い目をしていて、お人形さんのように可愛らしく、皐月も固まってしまいました。

双方固まっているのを見かねた旦那様は、

「仲良く…できそうでしょうか?」

と尋ねました。
皐月が

「一所懸命お世話させて頂きます…!」

と答えると、
みみ様は目を泳がせながら

「むり。」

とお答えになりました。



がーん。

ど、どうしてでしょうか!?皐月、もう何かしてしまったのでしょうか??
第一印象が悪かったのでしょうか…。

皐月が泣きそうになりながらみみ様の返答に狼狽えて、みみ様の元へ一歩近付いた途端

がたーーーん!!!!

投げられた大きなテーブルにぶつかって、皐月は吹き飛ばされてしまいました。一瞬の事でしたが、皐月は咄嗟に身体能力を強化し身を守りました。
でも、腕で庇うのを忘れてしまってモロに頭に当たりました。
ぶつかった壁にヒビが入っているのを見るときっと凄く強い力だったはずです。なのにあまり身体が痛くないということは、旦那様もきっと皐月を守ってくれたのでしょう。

旦那様はすぐに皐月の元へと駆けつけて下さり、

「皐月?大丈夫ですか!?…水無月!!」

焦ったような声をなさっていました。
皐月の事なんて心配しなくても大丈夫なのに。
つんと横を向いて、気まずそうに椅子の座り部分の横を掴んで手を震わせているみみ様の様子はとても愛らしく、心配でした。


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