憂鬱への扉
何だかとてもふわふわとする。宙に浮いている気分だ。
いつものように固く、沈まない泥の上でもなく、
臭く、もわもわと匂いがするあのベッドの上でもなく、
じゃあここは何なのだろう。
まだ夢でも見てるのではなかろうか。
まだ重い瞼を無理矢理開けると、そこには20後半辺りの男性が眠っていた。
ああ…今日はこの人と寝たのか、と二度寝をしようと目を閉じる。
「おはようございます、早起きですね。」
無視。
白々しくすうすうと寝息をさせながら、相手の様子を窺う。
狸寝入りに気付いているはずのそいつは、優しく頭を撫でてきた。
半分夢の中くらいの意識で昨日の事を思い出してきたが、まだ現実味は無い。
私が微睡んでいると、しばらくして水無月が抱き上げて無理矢理起こしてきた。
「おはざーす。今日は入学式っすよー。
はい、お水。」
コップに入った水を渡されたので素直に飲む。
私が飲み終わったのを確認すると、水無月は颯爽と私を抱き上げて「朝ごはん行きましょうねー。」と言った。
大きなまあるいテーブルに添えられたふかふかの椅子に座らせられた私は、向かいに真夏がいる事に気が付いた。
「おはようございます。」
2回目の挨拶に戸惑う。
なるべく目を合わせないように目を擦りながら、何とか
「……おはよ。」
と口にできた。なんか気恥ずかしい。
テーブルの上を見ると、豪華なご飯があって驚いた。こんなに食べられないんだけど。
朝からこんなに食べるなんて富裕層はすごすぎる。
「みみちゃん、いただきますしませんか?」
いただきますって家族とかがみんなで言うやつでしょ?施設ではやってる子供を見た事がある。
でも何か、自分がやるのは…恥ずかしいんだけど。
言わなきゃまた叱られるのかな、それもめんどい。
私が気まずくてウダウダ考えていたら、真夏がやり方を語ってきた。
両手を合わせていただきます、だって。馬鹿にしてる??
…流石にそれくらい分かる。真夏は私のこと幼稚園児だとでも思ってるの?
考えれば考えるほど恥ずかしくなってきて、真夏が「せーの」って言った後に小声で言うのが精一杯だった。
何でも好きな物好きなだけ食べてって言われたけど、胸がいっぱいだったからあんまり食べられなかった。
スイカとメロンとクロワッサンをちょっとずつ食べただけなのに、「ご飯食べれて偉いですね」だって。
子供扱いしすぎ、、。