部屋から荷物を持ち出し、シアはグランコクマ城を後にする



城を出て2時間程、歩くと大きな豪邸とまではいかないが、それなりに大きな家の前でその足を止めた



そして玄関先まで行き、チャイムを鳴らす



するとすぐに1人の50代後半くらいとおぼしき、男性が出てきた



その男性は一瞬驚いた顔で目を丸くするが、すぐににこやかな顔でシアを迎える



「おかえりなさいませ。お嬢様。連絡を下さればお迎えに上がりましたのに」



「いいのよ。食後の運動で歩きたい気分だったし」



「そういえばディート坊ちゃんとトール坊ちゃんもちょうどお帰りになってますよ」



「⋯⋯⋯⋯うげっ⋯そっちかぁあー」



シアは家の壁に両手をつき、ガックリと項垂れる



そんな様子を見てシアを迎えた男性は理由を知っているのだろう



ククっと苦笑いをしてシアが手放して地面に転がる荷物を拾いあげた



「今夜はご馳走にしませんとね。奥様もお喜びになりますよ」



「あぁ、まぁ、うん。とりあえず先に母さんに挨拶してくるわ。ちなみに今、あの双子はどちらかしら？」



「坊ちゃん達なら恐らくお部屋でお酒を嗜んでらっしゃったかと」



「よし！とりあえず今のところ双子は回避していけそうね！」



「そうですね。今だけではありますがね」



「⋯⋯⋯⋯わ、分かってるわよ！その場しのぎだって事くらい」



シアは気が進まなそうにしながら、意を決して久々に家の中へ一歩踏み出す



心なしか足音はできるだけ抑えて歩く



よっぽど実兄である双子達に会いたくないと見える



そして母親の部屋の前まで来ると小さくノックをする



「はぁい、ディート？それともトール？かしら？どうぞ」



返事をするか悩んだシアだったが、ここでは返事はせずに黙って部屋の扉を開いた



「⋯⋯⋯⋯ただいま、母さん」



「あらっ！やだ！シア！帰ってくるなら連絡くれればいいのに」



シアの視線の先にはシアと同じ薄紫色の長い髪をバレッタで留める女性が驚いた顔でこちらを見ていた



「あー⋯いや、急遽有給取らなきゃいけなくなって⋯遠出する用事もないし、前に父さんが主催パーティ開いた時にも母さん来てなかったでしょ？暫く顔見てないから、一応顔見せに来ただけ」



照れくさいのかシアは視線を少し逸らした



「ありがとシア」



優しくシアに微笑むこの女性は母親のイテール・ハンプティ