もうすぐレナスは居住地である貧民街に着こうとしていた



そこはメルトキオの片隅に位置しており、廃れた家々が建ち並んでいる場所だ



レナスは歌姫の仕事も終わり、ゆっくり家で過ごそうと心弾ませながら歩いていると⋯



「ちょっと待ちなさい」




背後から耳障りな甲高い声が聞こえ、レナスは渋々、足を止めた



瞬間、腕を掴まれ狭い路地へ引っ張られた



掴まれた腕に相手の手の爪がくい込んでいたが、抵抗することなくレナスは黙ってついていった



しばらく進むと行き止まりでそこでようやく掴まれていた腕を離してもらえた



「わざわざこんなところまでご足労頂いて⋯。何のご用ですか？」



爪がくい込んだ腕を擦りながら、口調はやや挑発的に相手の感情を逆撫でするように自分を連れ込んだ相手に言い放った



「あら、最近の貴族の令嬢達というのはみんなこんな野蛮なコトなさるのかしら？それともこれが貴族の方の礼儀なの？」



やんわり笑いながら言っているが、その言動は挑発的だ



路地に連れ込んだのは豪奢なドレス、宝石に身を固めた貴族の若い令嬢達3人



そのうちの一人が前に出てきて、手に持っていた扇子をレナスの顎の下に当て、僅かに上に押し上げた



「あなたちょっと調子に乗りすぎてるんじゃなくて？身の丈を知りなさい！」



令嬢の手に力がこもり、レナスの顎に当てていた扇子を更にグッと上に押し上げる



だが、レナスはそんなこと気にもとめず冷笑を浮かべる



「さぁ？何をおっしゃってるのか、分かりかねます」



刹那



パンっ



乾いた音が響いたのと同時にレナスの持っていた荷物が地面に落ち、無残にも中の物が辺りに散らばる



「ーーｯｯｯツーー ！！」



「あなたもあなたの妹君も図々しいことこの上ないですわね」



レナスは叩かれた右頬を手で押さえ、叩いた令嬢を睨み付け、自身の感情を剥き出しにした



「はっ！ほんっと！野蛮!!さいってーね！貧民街の人だってそんな事しないわ。大体、レオーネの文句は本人に言いなさいよ！それともこんな野蛮なところ、ゼロス“様”に知られて嫌われるのが怖いのかしら？」



「っ！貧民街の卑しい人間が！生意気なのよ！」



そういい貴族の女達3人に罵られ、髪を掴まれ、また頬をぶたれる