お礼画面

以下🖤を押してくださった素敵な貴方さまへ、細やかなお礼小話です。
宜しければお付き合いくださいませ。








『相談という名の洗脳』




「分からないことがあります」


望んでもいない茶会に誘われた場で、不意にラクスはぽつりと溢した。


暫くアコードとの熾烈な戦いの後始末に奔走していたシンとルナマリアは、やっと取れた休暇をゆっくりと過ごすため、オノゴロ島にあるアスハ家の別荘に遊びに来ていた。まだカガリに対して蟠りの残るシンは内心渋ったが、最終的に「妹と話したい」と主張したルナマリアの意見を汲んだ。カガリは国家元首としての仕事に忙しく、顔を合わすことなど早々ないと考えたからだ。事実その予測は外れることなく、ここへ来てから数日経つが、カガリと会ったのは昨夜の夕食の時だけだった。
因みにキラはそのカガリに拝み倒されて、今朝行政府へと拉致られていった。どうやら何か困り事が起きたようだ。
シンからすればどこかポヤポヤとしているキラが政治的な事柄に精通しているとは思えないのだが、聞く限りではあれで中々穿ったことを発言するらしい。まぁオーブの内情などシンの知ったことではないから、別にその辺はどうでも良かった。問題は隠密的な仕事を任されて普段何処にいるのかさえ秘匿されているメイリンが現在行政府にいると明かされ、ルナマリアも一行に同行して今朝から不在なことだった。
メイリンに会うのはもちろん構わない。構わないのだが──。

この家に残されたのがラクスと二人だけという現実が、ルナマリアを見送った後で、シンに重くのし掛かってきたのだった。


「──分からない、と、仰りますと…?」
しょうがない。聞こえない振りができる距離ではなかった。

シンにとってラクスとは、カガリ以上に馴染みのない存在だ。ラクスの傍には常に誰かしら(主にキラ)がいるし、考えてみればこうして二人きりというのは初めてかもしれない。
彼女の目指す世界や志しには同意できるからコンパスに参加してはいるものの“立派な総裁”の仮面を脱ぎ捨てたラクスは、時折理解の及ばないおかしな発言を繰り出す。

今もラクスの一言に、シンは大いに困惑した。
「これだけ尽くしておりますのに、何故キラはわたくしに靡かないのでしょうか」
「っ!ゴホッ!」
「まあ、シン。大丈夫ですか?」
気管に紅茶を流し込んで噎せてしまった。一応心配する声をかけたラクスだが、シンに手を貸す様子は皆無。ただ頬に手をあてて残念なものを見るような目を向けてきただけだった。
「~~~~!そういうこと、聞きます!?」
一頻り咳き込んで落ち着いたシンは顔を真っ赤にして喚いた。
「聞きますとも」
(それは流石の総裁さまでもムリゲーだろ…)
キラとアスランの間には誰にも入れない空気がある。幼馴染みとしてのツーカーな意志疎通は言わずもがな、所謂“恋人”としての関係性も揺らぐことなど考えられない。いや、寧ろ揺らいで欲しくない。彼らが拗れれば甚大な被害を被るのは、真実に裏打ちされた“歴史”である(そして歴史は繰り返す)。
しかしラクスはそこのところがどうも納得行かない様子だった。
「キラさんにはアスランが…」
「アスランなど常にキラを放ったらかしではないですか!」
全部言わせてもらえなかった。
なるほど、そういうことを言いたいんだなとシンは察した。
キラが自分の能力に圧倒され、精神的に不調をきたした時、傍にいて彼を支えたのは他でもないラクスだったのだと聞いた。つい最近のアコード連中との戦いでも、最初の頃は見ていられないほどキラは追い詰められていた。それでも忙しい総裁の業務の間を縫って、彼女がキラに寄り添い続けたのは記憶にも新しい。
「…………貴女は、キラさんの恋人になりたいんですか?」
思わず出た言葉に、ラクスがきょとんとした目を向けてくる。慌てて手で口を押さえても、出てしまったものは取り消せない。
(コイバナとかオレ相手にしようとするから!!)
余計な一言でラクスを傷付けないよう、ひたすら聞き役に徹しようとしていたのに、ラクスの横顔が妙に思い詰めたものに見えてしまった。
「わたくしが、キラの?」
猛省するシンに返ってきたのは、答えではなく疑問だった。おそるおそる目を向けると、ラクスは何故か瞳を眇めてシンを見ている。
「どうしてそんな結論に?」
「いや、だって“キラさんが靡かない”って──」
「そういう意味ではありませんわ。わたくしが言いたいのは、そんなこと……あればどんなに世界は輝くでしょう」
何を想像したのか、途中からラクスの周りに花が飛んだ気がしたが、すぐに綺麗に消し去ったので、シンも気にしないことにして清聴する。
「わたくしはただ……あんなに可愛がっているキラが、どうして願いを叶えてくださらないのか、という意味で言ったのです」
「は?」
いかん、また総裁さまが宇宙語を話し始めている。
キラがラクスを蔑ろにしている?それはちょっと想像できない絵面だ。カガリの困り事には文句を言いながらも付き合ってやるキラが、ラクスに対しては意外と冷たい態度を取るとか?いやいやそれとも──
「────例えば?」
踏み込むことの恐怖と興味を秤にかけて、興味の方が勝ってしまった。
シンはこの後“好奇心は身を滅ぼす”という言葉の意味を噛み締めることになる。
「例えば…そうですわね。わたくし、キラにはミニスカが似合うと常々思っておりますの」
「ん?」
キラとミニスカが上手く噛み合わず、シンの頭上にクエスチョンマークが盛大に飛ぶ。ラクスはさももどかしそうに繰り返した。
「ミ・ニ・ス・カ!所謂ミニスカートのことです。ルナマリアさんも好んで着用なさってるというのに、ご存知ありませんの?」
いや、ミニスカは知っている。知っているが──
「あとあのサラサラのネコ毛と同じ髪質のロングウィッグを被って、それをハーフアップにし、白のレースをふんだんに使ったリボンで飾る!」
「──────」
「…そうですわね。ピンクやオレンジの女の子らしい色も捨てがたいですけどキラにはやはり白が似合うと思うのです清順を体現する純白のドレスなんかもいいですわその時はあの細い身体のラインを惜しげもなく晒すマーメイドラインなどいかがでしょうああでもありったけのフリルをあしらったプリンセスラインも捨てがたい」
シンが絶句しているのを“同意”と受け取ったのか、最早シンの意見など必要としていないのか。ラクスはどこか虚空を見詰めながらノンブレスで呟き続けた。
「待ってください」
漸く半分意識を飛ばしていたシンに思考力が戻ってきた。
「貴女はキラさんを女装させたくてそんなに悩んでるんですか…?」
楽し過ぎる妄想を邪魔されたからか、ラクスがやや険のある視線を向けてくる。
「これ以上の悩みごとがございまして?キラは手強いですわよ」
頭が痛い。物理的に。
この人はあのMSに乗せたら鬼のように強いキラに、一体何をさせようとしているのか。
「あのですね、中にはそういう男がいることは否定しません。そこは個人の趣味ですから。でも考えてもみてください。そもそも20才にもなる男にそんな服を着せて似合うかと言うと──」
「あら。似合いませんか?」
言葉の途中で遮られて、うっかり、本当にうっかり、シンの脳裏で白いミニスカ姿のキラがクルリと回った。

なんということだろう。

懸念(?)した不気味さなど微塵も感じられない。
それどころか短いスカートの裾が翻って、更に上の方まで見えてしま──


「う!うわああああっ!!」


いたたまれなくなったシンは、奇声をあげて茶会をしていたサンルームを飛び出すしかなかった。だから残されたラクスが「これで味方が増えましたわね」と黒い笑顔で小さくガッツポーズをしたのを、見たものは誰もいなかったという。




「くしゅん!」
すぐ隣の恋人が発した小さなくしゃみに、アスランが心配して声をかけた。
「寒いのか?」
「あ、ううん。なんか背筋に冷たいものが走ったっていうか、誰かが良からぬ噂をしてるんじゃないかっていうか…」
「?」
要領を得ないキラの言葉を疑問に思いながらも、そっと背中に手を回して引き寄せてくれる。実際常時暖かいこのオーブで寒いなんてことはないのだが、アスランの気遣いが嬉しくて、キラは一瞬過った嫌な感覚を振り払い、自分から身を寄せて思う存分甘えることにした。


それはそう遠くない未来に、ラクスだけではなくシンにまでヨコシマな目で見られるようになるキラの、束の間の幸せな時間だった。





おしまい
20241031



誕生日にとカッコいいアスランを書きたかったのですか、ただのラクスさま最強シリーズになってしまいました。
何故なのか…。

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