あまりの身勝手な主張に沸騰する思考とは真逆の冷えきった声。ここにきて初めてキラの顔をまともに見てしまったカガリがはっとしたように口を噤んだ。
余程、自分は酷い顔をしているらしい。
「私だって…アスランを傷つけるつもりなんかなかった……」
「ふーん。そう。でも僕を狙った結果はあれだよね」
項垂れたカガリを容赦なく追撃する。

最初から同情してやるつもりなどなかった。これが深窓の令嬢として蝶よ花よと育てられたカガリの初恋だったとしても、例外は認めない。自分が傷つけられていても、きっとキラはここまで怒ったりしなかった。

カガリはやり方を間違ったのだ。

「……それも、お前が私を変な罠に嵌めようとしたからじゃないか!」
「確かに僕にも責任の一端はあるね」
そこは率直に認めるしかない。
「あの時は本当に申し訳なかった」
真摯に謝罪する。
ニコルたちに協力してもらう形でカガリを奸計に嵌めた。それが尾を引いて今に至っていることは否定できない。彼らの言動に流された感は拭えずとも、止めることくらいならできたはずだ。キラはそれさえしなかった。
頭を下げたキラに、何故かカガリが勢いづいた。
「そうだろう!お前さえ余計にでしゃばらなければ、全て上手く行っていたんだ!!」
ここで勝ち誇れるカガリとは、一生分かり合えないと悟る。
「まだそんなことを言うんだ…。もういいよ。それで?結局のところ、僕になにが言いたいの?」
「今すぐ私に家督を譲れ!お前に任せてたらアスハ家は崩壊してしまう!!」
「当たり前だろ。断絶させようとしてるんだから」
「それが間違ってるって言ってるんだ!私が立て直す!」
「はぁ…」
まだ縋るのか。こんな腐りきっている“名家”とやらの権威に。
「最近似たような絶望を感じたけど、ほんと、話しても分かり合えない人間っているんだね…。それが半分とはいえ、血を分けたきみの意見だとは到底思えないよ。あ、でも──」
なにかを思い付いたかのように、キラがそぐわない笑みを浮かべた。
「当主の座をきみに譲るのは意外といいアイデアかもね。この家の解体もあと少しのところまで来てるから、精々頑張ってみる?尤もきみの力じゃ持ち直すなんて無理だろうから、この家が潰れる未来は変わらないと思うけど」
「なんだと!?」
「必死で頑張っても叶わない絶望を抱えて、大事な大事なアスハ家が潰れていくのを、なす術もなく指を咥えて見ていればいいよ。その方が僕も楽だし、きみに今とは比べようもないくらいの屈辱を味わわせることができる」
「っ!!」
絶句したのは、カガリが漸くキラの深い怒りに気付いたからだ。
「やっと分かった?僕はアスランを傷付けたきみを絶対に許さない。たった一人の姉弟きょうだいだからって思ってたこともあったけど、そもそも姉らしいことなんかされてないどころか、赤の他人より酷い仕打ちしかされてないもんね。そんな相手にかける情けはないかな」
キラは口許に浮かべた笑みを更に口角をつり上げることで深くする。静かな口調がより一層、キラの怒りを表しているようだった。
「僕はきみのことを“敵”だと認識してるから」
出てきた言葉は一切の妥協が許されないもの。もうどれだけ追い縋っても無駄なのだと悟ったカガリは相変わらず口もきけない有り様だ。
「言っとくけど僕は元々こんな好戦的な人間じゃなかったんだよ?」
知っている。知っていたからこそ、そこに甘えていた。

キラならなにをしても、結局は許してくれるだろうと。

だがこんなに無邪気に笑っているのに、目が全く笑ってない。キラにむき出しの敵意をぶつけられて、背中を冷たい汗が滑り落ちた。
「こんなところで怨み節を唱えている暇があったら、このアスハ家を解体した後に住む場所の確保にでも勤しんだら?僕の温情に期待とかしないでよ。きみに渡すお金があったらこの土地に住んでいた人たちに渡すつもりだから。ああ、ウズミさまの家は用意する予定だから、今から一緒に住まわせてもらうようにお願いするとか。とにかく目障りなんだよね。これ以上酷いとこと言いたくないから、今すぐこの部屋から出て行ってくれないかな」
最後通牒に近い言葉を一方的に投げつけて、キラはカガリでは到底理解できないような難しげな書類に視線を落としてしまった。まるでカガリなどそこに存在しないかのような、取りつく島もない様子だ。
それでも何かを言いかけて開いた口は、暫くパクパクと音を発せずに開閉されていたが、キラが一切気にした素振りを見せなかったため、やがてカガリは背を向けて憔悴した姿で部屋を出るしかなかった。




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