番外編
・
続きです↓↓↓↓
<div align="center">『女子会』・2</div>
「あんた、レイを知ってんだろ?」
「レイって…レイ・ザ・バレルのこと?うん、知ってるけど」
アッサリと認めたことにシンは微妙に肩透かしを喰らったようだったが、瞬く間に復活するとテーブルを叩き付けた。
「あんた、あいつの気持ちも込みで知ってるんだろ!!なのによく平気で他の男とイチャイチャ出来るよな!!」
「ちょ、変な言い方しないで!イチャイチャなんてしてないでしょ!!」
「今だってわざわざ迎えまで来させといて、しらばっくれんな!つーか、突っ込むの、そこなのかよ!」
「迎えに来てもらったのは、きみが後を付け回したの所為で―――、てか、悪かったね!きみにとってはくだらないことでも、僕にとっては沽券に関わるひっじょーに重要なことなんです!」
「オレはここ一ヶ月ほどあんたを見張ってたんだぞ!!その男と会ってるのは何度も見た!嘘じゃない!」
「へー、じゃ、言ってみてよ!僕が何時アスランとイチャイチャしてたって!?何日の何時何分何秒!?」
「う…!そんなの覚えてる訳ねーだろ!!」
「ほーら!出鱈目だから言えないんだ!」
「ちょっと待て!」
黙って聴いていれば、雲行きは悪くなる一方だ。アスランは大変不本意ながら、放っておけば子供の口喧嘩レベルまっしぐらの罵り合戦を、一旦断ち切った。
このままでは話が全く前に進まない。シンとやらがストーカーまがいでなかったのは幸いだったが、これ以上妙なトラブルに巻き込まれて、キラとの貴重な時間をすり減らすのでは本末転倒である。ここはキッチリ話を聞き、対処する必要があった。
アスランは律儀に口を閉じたシンの顔を改めてじっくりと眺めた。
「…確かに見覚えがある気がする」
「え!?嘘!どこで!?」
シンに噛み付いていた勢いのまま、今度はこちらを責め立てるキラを片手で制し、アスランは記憶の糸を辿った。
「一ヶ月ほど見張っていたと言ったな。…多分あの日の電車で、同じ車両にいたんじゃないかと思う」
「あの日って?」
訊き返したものの、答えなど明白だった。運転手付きの車や、そうでなくとも自分の車を持つアスランが、電車を利用する機会は皆無に等しい。有るとすればキラに付き合ってのものだ。しかしそもそも二人では余り出掛けたりしないようにしているのだから、それらを総合すると該当する日は他になかった。
10月29日。アスランのバースデーにキラが誘ってプラネタリウムへ行った日である。
キラよりまともに話が出来ると判断したのか、シンは会話に入って来た。
「そうだよ。ハッキリした日付は覚えてねーけど、初めてあんたらが一緒にいるのを見たのは電車の中だった。そっちの男に凄い目で睨まれたんで、そん時は様子見に止めた」
「やっぱり」
おそらくキラを狙った痴漢を何人か撃退するため、視線で退けた中にシンは居たのだ。アスランも明確に覚えていた訳ではなかったが、他の変態どもと少しタイプが違っていたので、漠然と記憶に引っ掛かった。
「………あの時、きみも居たんだ」
謂われなき糾弾には一歩も引かない勝ち気なキラが、初めて怯んだ。あの日なら公衆の面前でイチャイチャしやがってと思われても、言い訳出来そうにない。羞恥に頬が熱くなった。
「それからも時々一緒にいるのを見かけるようになって、まぁ電車で見た時以外は仲のいい普通の友人だと言えなくもなかったけど。でも恋人じゃないかって疑いは消えなくて、オレの知らないところでは違うかもって、今日は家を突き止めてもっと探ってやろうと思ってた」
「そうだったの」
生来素直な質なのだろう。動機は何であれ、後をつけ回したことには罪悪感があるらしく、項垂れて白状するシンの言葉に嘘はなさそうだ。
だが肝心な部分が謎のままだった。
何故キラを付け回すに至ったのか。そのきっかけというか、動機である。
その疑問にもシンは正直に答えた。
「興味…っていうと語弊があるかもしれないけど、単純にあのレイが好きになる相手ってどんな奴なんだろうって思った。しかもその相手にはフラれたとか言うから、更に吃驚した。だってレイは優秀で格好良いから、皆にも尊敬されてるし、オレだって一目置いてる。だからひやかすフリでレイ本人から名前と容姿と大学名を聞き出して、後は自分の目で確かめようと…」
「そんな理由でキラを付け回したのか?」
アスランの口調に咎めの色が混じった。元々大いに機嫌を損ねていたのだ。
「すいません!」
レイを惚れさせたキラを見てみたいと思った。そんな軽い気持ちで一ヶ月ほど前、シンはレイに内緒でキラの大学を訪れた。だが大学は想像より大きく、当然学生数も半端ではない。
浅はかな自分を詰りながら、諦めて踵を返した時、シンの耳に「ヤマト!」という声が届いたのは、運命なのか偶然か。
声に立ち止まった華奢な青年は、聞いた特徴と一致していて、シンは彼が探していたキラ・ヤマトだと確信した。
レイとシンは同じ年だから、当然シンもキラを見たことくらいはあるのかもしれないが、生憎全く記憶になかった。だが聞いた通り、男にしておくのが勿体ないほど可愛らしい容姿をしている。
同時にキラを語るレイの切なげな、しかし幸せそうな顔を思い出し、シンは正体不明のショックに襲われた。
衝撃は強烈な胸の痛みを伴っていて、暫くそれを堪えて遣り過ごしたシンは、やがてあることに気付いた。学友らしき男と遣り取りするキラの笑顔に、奇妙な印象を受けたのだ。
なんだろう。確かに笑ってはいるのだが、それは表面上のことだけで、心がまるで感じられない―――
(そうだ、作り笑顔だ)
きっとレイはこの作り笑顔に騙されているのだ。それを証拠に学友らしき男も変に浮かれているように見える。
根拠などこの直感で充分だった。
本当のキラを暴いてやれば、レイの痛手も緩和するに違いない。
そうして始まったキラの尾行で、やがてアスランの存在も知ることになる。しかもレイを誑かして傷付けておきながら、臆面もなくイチャつく姿に、猛烈に腹が立った。
いつしかキラにいい感情が持てなくなっていたと、頭を下げたまま白状する内に、顔が上げられなくなった。
洗い浚いを話し終え、三人の間に数秒の沈黙が降りる。
それを破ったのはキラだった。
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「あんた、レイを知ってんだろ?」
「レイって…レイ・ザ・バレルのこと?うん、知ってるけど」
アッサリと認めたことにシンは微妙に肩透かしを喰らったようだったが、瞬く間に復活するとテーブルを叩き付けた。
「あんた、あいつの気持ちも込みで知ってるんだろ!!なのによく平気で他の男とイチャイチャ出来るよな!!」
「ちょ、変な言い方しないで!イチャイチャなんてしてないでしょ!!」
「今だってわざわざ迎えまで来させといて、しらばっくれんな!つーか、突っ込むの、そこなのかよ!」
「迎えに来てもらったのは、きみが後を付け回したの所為で―――、てか、悪かったね!きみにとってはくだらないことでも、僕にとっては沽券に関わるひっじょーに重要なことなんです!」
「オレはここ一ヶ月ほどあんたを見張ってたんだぞ!!その男と会ってるのは何度も見た!嘘じゃない!」
「へー、じゃ、言ってみてよ!僕が何時アスランとイチャイチャしてたって!?何日の何時何分何秒!?」
「う…!そんなの覚えてる訳ねーだろ!!」
「ほーら!出鱈目だから言えないんだ!」
「ちょっと待て!」
黙って聴いていれば、雲行きは悪くなる一方だ。アスランは大変不本意ながら、放っておけば子供の口喧嘩レベルまっしぐらの罵り合戦を、一旦断ち切った。
このままでは話が全く前に進まない。シンとやらがストーカーまがいでなかったのは幸いだったが、これ以上妙なトラブルに巻き込まれて、キラとの貴重な時間をすり減らすのでは本末転倒である。ここはキッチリ話を聞き、対処する必要があった。
アスランは律儀に口を閉じたシンの顔を改めてじっくりと眺めた。
「…確かに見覚えがある気がする」
「え!?嘘!どこで!?」
シンに噛み付いていた勢いのまま、今度はこちらを責め立てるキラを片手で制し、アスランは記憶の糸を辿った。
「一ヶ月ほど見張っていたと言ったな。…多分あの日の電車で、同じ車両にいたんじゃないかと思う」
「あの日って?」
訊き返したものの、答えなど明白だった。運転手付きの車や、そうでなくとも自分の車を持つアスランが、電車を利用する機会は皆無に等しい。有るとすればキラに付き合ってのものだ。しかしそもそも二人では余り出掛けたりしないようにしているのだから、それらを総合すると該当する日は他になかった。
10月29日。アスランのバースデーにキラが誘ってプラネタリウムへ行った日である。
キラよりまともに話が出来ると判断したのか、シンは会話に入って来た。
「そうだよ。ハッキリした日付は覚えてねーけど、初めてあんたらが一緒にいるのを見たのは電車の中だった。そっちの男に凄い目で睨まれたんで、そん時は様子見に止めた」
「やっぱり」
おそらくキラを狙った痴漢を何人か撃退するため、視線で退けた中にシンは居たのだ。アスランも明確に覚えていた訳ではなかったが、他の変態どもと少しタイプが違っていたので、漠然と記憶に引っ掛かった。
「………あの時、きみも居たんだ」
謂われなき糾弾には一歩も引かない勝ち気なキラが、初めて怯んだ。あの日なら公衆の面前でイチャイチャしやがってと思われても、言い訳出来そうにない。羞恥に頬が熱くなった。
「それからも時々一緒にいるのを見かけるようになって、まぁ電車で見た時以外は仲のいい普通の友人だと言えなくもなかったけど。でも恋人じゃないかって疑いは消えなくて、オレの知らないところでは違うかもって、今日は家を突き止めてもっと探ってやろうと思ってた」
「そうだったの」
生来素直な質なのだろう。動機は何であれ、後をつけ回したことには罪悪感があるらしく、項垂れて白状するシンの言葉に嘘はなさそうだ。
だが肝心な部分が謎のままだった。
何故キラを付け回すに至ったのか。そのきっかけというか、動機である。
その疑問にもシンは正直に答えた。
「興味…っていうと語弊があるかもしれないけど、単純にあのレイが好きになる相手ってどんな奴なんだろうって思った。しかもその相手にはフラれたとか言うから、更に吃驚した。だってレイは優秀で格好良いから、皆にも尊敬されてるし、オレだって一目置いてる。だからひやかすフリでレイ本人から名前と容姿と大学名を聞き出して、後は自分の目で確かめようと…」
「そんな理由でキラを付け回したのか?」
アスランの口調に咎めの色が混じった。元々大いに機嫌を損ねていたのだ。
「すいません!」
レイを惚れさせたキラを見てみたいと思った。そんな軽い気持ちで一ヶ月ほど前、シンはレイに内緒でキラの大学を訪れた。だが大学は想像より大きく、当然学生数も半端ではない。
浅はかな自分を詰りながら、諦めて踵を返した時、シンの耳に「ヤマト!」という声が届いたのは、運命なのか偶然か。
声に立ち止まった華奢な青年は、聞いた特徴と一致していて、シンは彼が探していたキラ・ヤマトだと確信した。
レイとシンは同じ年だから、当然シンもキラを見たことくらいはあるのかもしれないが、生憎全く記憶になかった。だが聞いた通り、男にしておくのが勿体ないほど可愛らしい容姿をしている。
同時にキラを語るレイの切なげな、しかし幸せそうな顔を思い出し、シンは正体不明のショックに襲われた。
衝撃は強烈な胸の痛みを伴っていて、暫くそれを堪えて遣り過ごしたシンは、やがてあることに気付いた。学友らしき男と遣り取りするキラの笑顔に、奇妙な印象を受けたのだ。
なんだろう。確かに笑ってはいるのだが、それは表面上のことだけで、心がまるで感じられない―――
(そうだ、作り笑顔だ)
きっとレイはこの作り笑顔に騙されているのだ。それを証拠に学友らしき男も変に浮かれているように見える。
根拠などこの直感で充分だった。
本当のキラを暴いてやれば、レイの痛手も緩和するに違いない。
そうして始まったキラの尾行で、やがてアスランの存在も知ることになる。しかもレイを誑かして傷付けておきながら、臆面もなくイチャつく姿に、猛烈に腹が立った。
いつしかキラにいい感情が持てなくなっていたと、頭を下げたまま白状する内に、顔が上げられなくなった。
洗い浚いを話し終え、三人の間に数秒の沈黙が降りる。
それを破ったのはキラだった。
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