番外編




続きです↓↓↓↓



許婚者シリーズ番外『偽りの星空』・4




しかしずっと抱えているキラのひそかなコンプレックスなど知らないアスランは、ある意味最も彼らしい明後日の発言を展開した。
「だからつい疑ってしまうんだ。キラの告白も、俺を喜ばせるためのリップサービスだったんじゃないかって」
「はぁ!?きみ、馬鹿?僕にとってきみやきみのお父さんのお金や権力は全然魅力のないものなんだよ?つまり僕がきみにお世辞を並べる必要性なんてないってこと!」
(かかった!)
こういう手練手管はアスランが一枚も二枚も上だ。ちょっと鈍い男のフリをするだけで、案の定、キラはあっけなく挑発に乗ってきた。
内心でほくそ笑んだアスランだったが、お首にも出さずに気弱そうな演技を続ける。
「勿論キラを疑ってるわけじゃない。ただ俺の育った環境も考えてくれ。もうこれは癖のようなものなんだ」
まるっと騙されたキラが明らかに動揺したのを気配で察知する。
「じゃ・じゃあどうやったらリップサービスなんかじゃないって信じられるの?」
「そうだなぁ」
アスランは被っていた猫を脱ぎ捨てると、座っていた窓枠から腰を上げ、片膝をベッドへと乗り上げた。ギシリとスプリングの軋む音に、引き倒されるのを警戒したキラが、僅かに後退する。今更なその反応が可笑しくてアスランはクスクスと肩を揺らした。
「ちょっと―――」
「まず、電車には出来るだけ一人では乗るな」
「―――――は?」
結局こういうことがしたかっただけなのか、と言いかけたキラを遮った台詞は予想外で、頭の中が一瞬真っ白になった。思考停止状態になったキラに構わず、アスランは勝手に言いたいことを言う。
「キラが交通手段の殆どを公共のものに頼るのは分かる。だから乗るなとは言わない。ただ気を付けろ」
「…………えーと‥。気を付けろって?」
「行きだけで三人、帰りは一人だ」
「うん。何が?」
「お前にちょっかい出そうとした男を撃退した数。因みに睨み付けただけで退散した奴は数に入ってない」
しかしここまで言っても、キラはひたすら首を傾げるだけだった。変人だの鈍感だの人のことは散々に罵るクセに、キラだって相当だ。自分の評価が低過ぎる。ストーカーじみた男に付き纏われたことも忘れてしまったというのだろうか。そんなだから無防備なんだと、アスランは苛立った。
「自分のものに他人が勝手に触るのを許せるほど、俺は寛大じゃないぞ」
「ちょ、意味が分からない!」
「じゃあ訊くが。今まで心当たりはないって?一度もか?」
「う…」
至近距離から探るように見詰められ、キラは視線を逸らせた。アスランの言う通り、人混みの中で気分の悪い思いをしたことは、一度や二度ではない。だがまさか男の自分が痴漢に合うなんて、と言い聞かせてきた。
微妙に強張った表情が、白状しなくてもビンゴだったと物語っている。
「そういうことだ。だから気を付けろ。いいな?」
「あーもう!分かった!分かりましたよ!」
一体なんの心配をしてるんだか。呆れて呟くキラだったが、言質を取った以上、アスランもそれ以上の追及は敢えて止めておく。
「それとだ」
「まだあるの!?」
「当たり前だ。そう簡単に信じられるほど、俺の頭はおめでたくないぞ」
何故か胸を張るアスランに、次は一体なにを言い出すのかとうんざりするが、今日ばかりは仕方ない。
「あの言葉に嘘はないって誓ってもらおうか」
「なにに?」
「なんでもいい」
嘘つけ。なんでもいい筈がない。
アスランは敢えてキラに選ばせて、想いの深さ計ろうとしているのだ。

(ほんとに‥狡い)


諦めの溜息を吐いて視線を戻すと、間近に憎たらしい笑みを浮かべた端正な美貌。キラは僅かに思案してポツリと答えた。
「じゃあ…星に誓う」
「星?」
意外な答えに今度はアスランが目を丸くする番だった。
「星って……あのプラネタリウムのか?偽りの星座に誓われても、尚更疑わしいな」
星と言われて、アスランはプラネタリウムの映像を思い出したのだろう。さっきの今なのだから無理はない。
「うん。プラネタリウムはアスランの大事な思い出の場所だもんね。それでもいいよ」
「なんだそれ。じゃ違うのか?」

惜し気もなく見開かれる翡翠の瞳に、キラは束の間魅入られる。
(この碧の星に惹かれたのか、運の尽きだったよねぇ)


でもキラはこの星に嘘は吐けない。
絶対に。



自分を見つめたまま答えようとしないキラに、焦れたアスランが急かして来る。
「おい、キラ?」
代わりにキラの唇が綺麗に弧を描いた。
これで信じられないなら、ただの馬鹿だ。



「誕生日おめでとう、アスラン。大好きだよ」




僕のたったひとつの星に誓って。






20141121
























→次ページに蛇足会話文あり。気が向いた方だけどうぞ。
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