番外編




続きです↓↓↓↓



『女子会』・5




『あの人たちは将来のきみに有利な人材ってだけじゃないよ。きっときみの貴重な理解者なんだから。もっと大事にしなきゃ』


かつてのアスランはニコルのオーラが白かろうと赤かろうと気にしたこともなかった。誰と会話するにしても気に入らなければ返事もしないし、ただ言いたいことを言うだけの味気ないものだった。相手の反応や自分の評価など興味もなかった。仮に悪い印象を持たれても、アスランには捩じ伏せるだけの力がある。女に至ってはそんなアスランを“クールで格好いい!!”と勝手に持て囃すのだから、冷めていくばかりだった。
それでは駄目だとのキラの主張に一応従ってみたアスランだったが、お陰でニコルの底無しオーラに怯えるなどという無様な自分に成り下がってしまった。当然キラに異議申し立てを行ったものの『そう。で?そんな無様なきみは皆に嫌われてる?』と笑って返され、あえなく撃沈。
嫌われるどころか、彼らとの距離は確実に近くなっていたからだ。
まさかそこまで計算していたわけではないだろうが、アスランの抗議を受けた時のキラが余りに落ち着いていたのは気になるところだ。


(しかしキラ!お前にも読み違ってる部分がある!それはもう決定的に間違っているぞ!!)
アスランは内心でここには居ないキラに向かって、全力で喚いた。
(百歩譲って理解者だと認めても、こんな輩を親友だなんて思わないし、あまつさえ告白なんぞされた日には、確実に俺の心臓は止まる。絶対死ぬ!!)
やはり脳内では何故かイザークが頬を染めて告白してくるシーンが再生され、またもアスランは青ざめた。一度襲った妄想は中々断ち切れないものらしい。




「そういえば」
アスランがそんなことで顔色を無くしているなど露知らず、意外に甘党であるイザークがつまみのチョコレートを口にしながら会話に参加してきた。
「キラ・ヤマトとはお前のバースデーパーティ以来ご無沙汰か。痴話喧嘩じゃないとしたら、今夜はバイトなのか?」
相変わらず的確に痛いところを突いてくるイザークに、アスランは渋い顔になった。一皮剥けばギャアギャア喚くだけの激情家のクセに、普段は取り澄ましているのだから質の悪い男だ。しかし答えないのも色々と負ける気がして、精一杯感情を殺した声で応じた。
「キラは最近出来た“オトモダチ”に夢中でな」
「は!!!?」
途端にディアッカが素っ頓狂な声を上げた。散々茶化してはいたものの、まさか本当にそんな展開が待っているとは思ってもみなかったのだ。無論“オトモダチ”を言葉通りの“友人”と受け取る面々はここには皆無である。
「じゃあ何か!?お前、ほんとに姫さんに捨てられたの!!!?」
「てことは、キラさんは今その人と会ってるってことですか!?こんな遅い時間に!?そんな――キラさんに限って!」
ニコルも普段被っている巨大な猫をか脱ぎ捨ててしまっている。イザークに至っては動揺の余り、酒のグラスを鼻に持って行く始末だ。鼻で酒を飲むつもりか、お前は。あと口からチョコレートが垂れてるぞ。

騒ぎ出した二人(+固まったイザーク)が、めいめいに勝手なことを言い出して、アスランはもう一々否定するのも面倒になってきた。ここはひたすら酒を舐める作戦に切り替えるに限る。
完全にノーコメントの構えだった。


(まぁ確かにただの“オトモダチ”とは違うかもな)






あれからキラは宣言通り、シンの相談を親身になって受けている。言い負かされた格好でレイへの特別な気持ちを認めたシンだったが、自覚してみれば結構本気で好きだったらしい。ありとあらゆる作戦を練ってトライするものの「鈍い」という壁は予想以上に難攻不落のようで、突撃し、あえなく玉砕してはキラに泣き付いて来るのだ。またキラもキラで、頼られて悪い気はしないものだから良くない。
そうこうする内に、二人はすっかり意気投合してしまった。

実はシンがあまりにも頻繁に顔を出す所為で、やはりキラ本人が目的なのではと邪推(なんせ出会いはストーカー疑惑)したアスランは、一度同席したことがある。だが大量のスィーツを前に延々とお互いの相手の愚痴を喋り続けるだけの二人に、これではいつ矛先が向くか分からないと早々に逃げ出したのだった。それからはシンの誘いは大目に見るようにしている。

きっと今夜もいつものファミレスで、飽きることなく喋り続けているのだろう。



ふとそういう光景を他でも見たことがあるのに気付いた。あれは確か少し前に偶然目にした情報番組だ。数人の女ばかりのグループが、コジャレた店で酒を飲みながら延々と話し続けている映像。それを女子アナが紹介していたのだが――――


(そうか…。“女子会”か)


映像とキラたちの姿が完全にシンクロしていた。キラは酒を飲まないし、シンは未成年だから、話の肴に違いはあるものの、やっていることは全く同じなのだ。






未だ煩いニコルたちを横目に、アスランは「どうしてこうなった」と、頭を抱えたい気分だった。







20141226
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