番外編




続きです↓↓↓↓



『女子会』・4




◇◇◇◇


シンを無罪放免(?)し、キラのアパートへ戻った途端、アスランは有無を言わさずキラをベッドへと押し倒した。
「ちょっと、いきなり何するの!」
「んー?何って、俺を風景にしてくれた礼?」
「意味が分からない!!」
ムードもへったくれもなく、しかも意味不明なまま雪崩れ込まれるのが業腹で、力一杯の抵抗を諦めないキラに、アスランはまさぐり始めていた手を渋々止めた。
「可愛いシンくんに夢中で、俺を蔑ろにしただろ?」
その感情がプライドから来るものだと誤解しているアスランは、臆面もなく真っ直ぐにキラを見下ろしてくる。だが言われたキラの方は、ポカンとするしかなかった。
「…………それって‥嫉妬?」
「な!?」
今まで嫉妬などしたことがなかったアスランだ。胸に湧いたどす黒い感情の正体を俄に気付かずとも無理はない。その上無自覚の本心を暴かれて動揺する、などという解りやすい失態を犯してしまった。どう取り繕っても揶揄かわれるのは避けられない事態だ。それでも被害を最小限に止めようと、多方面から明晰と唱われる頭脳を無駄にフル回転させていると、何故かキラはアスランを弄ることなく、プイと横を向いてしまった。
「いっつもきみはそうだ。責めるのは僕ばっか。なんだよ、きみだってシンくんのこと、気に入ったクセに」
常にアスランの予想の斜め上を行くキラの不貞腐れた呟きは、まさに青天の霹靂で、一体どういう回路を通ったものか、却って冷静になれた。
「待て。お前の脳内で俺は一体どんなことになってるんだ?詳しく話せ」
一方アスランと違って、キラの方にはハッキリと嫉妬している自覚があった。敢えて話さなくても察してくれと唇を引き結んでみたものの、一向にアスランから思い至ってくれる気配は得られない。よくこれで多くの女性と浮き名を流せたものだと、とうとうキラの方が匙を投げた。
「だって……理解出来るとか‥言っちゃって、さ」
ボソボソと白状された内容に、そういえば、とアスランは思い出す。

親友の枠を破るのは色んな意味で難しいと訴えた、シンの気持ちが解ると言った時、キラはあからさまに不機嫌にならなかっただろうか?一瞬のことでうっかり見落としていたが、確かにその後も妙に突っ慳貪だった。


(あれって俺がシンを気に入ったと勘違いしたからなのか?)




「…………………キラ」
「――――?なに?」
静かになったと思ったら、急に何かを押し殺したような声で名を呼ばれ、キラが僅かに視線を戻す。しかし暗い部屋の中で、顔を伏せてしまっているアスランの表情までは分からない。
ただ、彼の周囲の空気が、異様な熱を帯びていることに気付いたキラは、本能的に身の危険を感じた。少しでも距離を取りたくて後退ろうとするが、ベッドの上で組み敷かれている体勢ではそれも上手く行かない。もがいて振り回した腕もアッサリと空中で捕らえられ、さっきよりも強い力でベッドへと縫い留められてしまった。

「今夜は手加減しないからな」

死刑宣告に等しい言葉と、荒い呼吸を耳に吹き込まれて、キラの全身が止めようもなく粟立った。
「ぃやだっ!待って、アス――!!っひゃ!」
そのままゆっくりと首筋を舐め上げられれば、馴らされた身体はもう歯止めは効かない。
どんどんと抵抗の力は弱まり、やがてキラの全てはアスランの腕の中へと堕ちたのだった。




◇◇◇◇


「おーや、珍しい」

馴れ親しんだ扉を潜るなり、ディアッカの軽い声がアスランを出迎えた。こいつは真面目に話すことなどあるのだろうかと、アスランはジロリと睨むだけに止めた。
珍しいと言われたことに異論はない。確かにこの店に来るのは久し振りだと自分でも思う。

キラに出会うまではくだらない連中と、よくここで屯ろしたものだ。今も見回せば見知った顔が、あの頃と何一つ変わることなく集っている。自分もかつてはこんなつまらなそうな表情をしていたのかと些かゾッとしながらも、空けられたソファに腰を下ろした。馴染んだ感触は以前のアスランの定位置である。
「いいんですか?キラさん放っておいて」
ディアッカがウェイターに適当に酒を注文するのを横目に、キラ贔屓のニコルがやや尖った口調で早速探りを入れてきた。喧嘩でもしてキラを放置しているのではと危惧しているのだ。
「寧ろ放っておかれてるのは俺の方なんだが」
素っ気なく答えたアスランは、差し出された酒をやけくそ気味に一息で煽った。
それを聞いたディアッカが向かいの席から大爆笑を寄越す。久々の強い酒が喉を焼く余韻も台無しだった。
「なに!?お前、ついに姫さんに愛想尽かされちゃったわけ!?おっもしれー!」
文字通り腹を抱えて笑うディアッカを睨み付けたところで、効果など有りはしない。かつては最も親しい彼らでもアスランの機嫌を伺っていた節があったが、現在ではそんな素振りはまるでない。おそらくはキラの影響なのだろうが、それを喜んでいいのかは正直微妙だった。
「なんだ、キラさんが放置されてるんじゃないんですね。なら安心しました」
ニコルまでがつられてクスクス笑っている。
「ニコル…。お前、キラに甘過ぎないか?」
「おや、アスランも僕に甘やかしてもらいたいんですか?」
何だかニコルの背後に触れてはいけない底なしの闇が見えた気がして、アスランは早々に「遠慮する」とお断り申し上げたのだった。






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