訪問
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中でも直接の部下であろうミリアリアにまで驚かれるのは、些か気の毒だなとキラは苦笑した。
「だってあの人、少なくともカガリの身を案じてくれてたでしょ?保釈中だっていうのにね。別にフォローするわけじゃないけど、大事なところは分かってる人なんじゃないかと思う」
「そうですね。優しい人ではあります」
うんうんと頷くミリアリアだったが、それだけではやはりアスランとラクスの二人には納得し切れないらしい。
「だからといって、彼が頼りないことには代わりないぞ」
「ええ。ただ待っているだけというわけには参りません」
口調から既にザラ家とクライン家の配下の人間が動き出しているのが分かる。キラは申し訳なさそうに眉を下げた。
「アスランもラクスさんも有難う。情けないかもだけどちょっと心細かったから助かったよ」
改めて頭を下げたキラを見て、ミリアリアはこういうキラだからみんなが助けてやりたくなるのだと、一人勝手に納得したのだった。
「キラさまは人が善すぎます」
「そうかな。どっちかというと疑り深いタイプだと思うけど」
キラは他人を遠ざけて生きてきた。全てはアスハ家との繋がりを知られたくなかったからだ。バレたら煩わしいことになると決めつけていた。ならば最初から友人など作らなければよいのだと。
「あ、でも、アスランと出会ってからは考え方が変わったかな」
ニコルやイザーク、ディアッカたちは、アスランを介して知り合った関係ではあるにも関わらず、損得なしにキラに協力してくれた。彼らと接していく内にいつの間にかキラの中で他人を信じる気持ちが育っていったと認めざるを得ない。
しかしラクスは増々苦虫を噛み潰したような表情になった。
「それってまさかジュール家のご子息たちのことを仰ってますの?」
「うん、そうだけど」
根本的に間違っているとラクスが思ったのも無理はなかった。なぜなら彼らは自分と同類だ。他人を信用し、委ねるなどあり得ない。それでも今自分がしているように、キラ相手だとそんな信条など忘れてしまったかのような行動に出てしまう。
そうだ。これはキラ限定で発揮される感情なのだ。
困っていれば無条件で手を差し伸べたくなる。
そしてキラ自身は自分の価値に全く気付いていないというオマケつきで。
「───な?分かるだろ」
盛大に肩を落としたラクスにアスランがどこか同情めいた声をかけた。
「羨ましいというか……いっそ貴方が妬ましくもあります」
アスランとラクスの間に突如起こったある種“険悪”な空気に、キラが目を丸くする。
「ああ、お構いなく。キラさまのせいではございませんから」
「そうなの?」
「俺としてはもう少し自覚を持って欲しいものだがな」
「自覚?」
「それは流石にあざといのでは!」
思わず口出ししてしまったミリアリアを、ラクスが手を挙げて制した。
「いいのです、ミリアリアさん。これを天然で出来てしまうキラさまだからこそ、わたくしたちの癒しになるのですから」
深く頷くアスランに、やっぱりこの二人は同類なのだなとキラが思ったのは内緒である。
「おーい!ハウ!」
暫くそんな話をしていると、アーサーが大声でミリアリアを呼んだ。手招きしている彼の表情から察するに、何か進展があったようだ。
「行ってきますね」
小さく断りを入れてミリアリアが駆け出す。さっと顔色を変えたキラに、ラクスが緊張を解すようにふんわりと微笑んだ。
「きっと良い報せですわ。こんなに多くの人たちが力を尽くしてくれているのですもの。心配いりません。それに──」
「ラクスさん?」
「そんなキラさまだからこそ、皆さまが協力をしたくなるのです」
「え?」
「だからもう少し自覚をだなぁ」
「あとこの人の言うことは一々気にしなくてもいいです」
「貴女という人は!」
「あら。ミリアリアさんが戻って来られるようですね。お話を聞きましょうか」
相変わらずラクスのアスランをスルーするスキルには目を見張るものがある。もうこの二人はこれでいいのかもなとキラが納得していると、ラクスがなにかを思い付いたように振り返った。
「先ほどアスランさまに邪魔されて話の腰を折られたので、続きを申し上げておきます」
「は、はい」
一体何事かと身構えたキラに、ラクスが鮮やかな笑顔を見せた。
「わたくしも貴方に無条件で協力したくなった人間の一人です。それから…お忘れですか?わたくしたちは“友人”でしょう?敬称は不要になったはすですよ、キラ」
「なるほど、その俺に対するわざとらしい敬称付けは距離の現れだったというわけですね」
「あら、察しがよくて助かりますわ」
キラに向けるそれとは違う笑顔で言いきられて、女性にこんな扱いを受けた経験などなかっただろうアスランが口許を引きつらせた。
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中でも直接の部下であろうミリアリアにまで驚かれるのは、些か気の毒だなとキラは苦笑した。
「だってあの人、少なくともカガリの身を案じてくれてたでしょ?保釈中だっていうのにね。別にフォローするわけじゃないけど、大事なところは分かってる人なんじゃないかと思う」
「そうですね。優しい人ではあります」
うんうんと頷くミリアリアだったが、それだけではやはりアスランとラクスの二人には納得し切れないらしい。
「だからといって、彼が頼りないことには代わりないぞ」
「ええ。ただ待っているだけというわけには参りません」
口調から既にザラ家とクライン家の配下の人間が動き出しているのが分かる。キラは申し訳なさそうに眉を下げた。
「アスランもラクスさんも有難う。情けないかもだけどちょっと心細かったから助かったよ」
改めて頭を下げたキラを見て、ミリアリアはこういうキラだからみんなが助けてやりたくなるのだと、一人勝手に納得したのだった。
「キラさまは人が善すぎます」
「そうかな。どっちかというと疑り深いタイプだと思うけど」
キラは他人を遠ざけて生きてきた。全てはアスハ家との繋がりを知られたくなかったからだ。バレたら煩わしいことになると決めつけていた。ならば最初から友人など作らなければよいのだと。
「あ、でも、アスランと出会ってからは考え方が変わったかな」
ニコルやイザーク、ディアッカたちは、アスランを介して知り合った関係ではあるにも関わらず、損得なしにキラに協力してくれた。彼らと接していく内にいつの間にかキラの中で他人を信じる気持ちが育っていったと認めざるを得ない。
しかしラクスは増々苦虫を噛み潰したような表情になった。
「それってまさかジュール家のご子息たちのことを仰ってますの?」
「うん、そうだけど」
根本的に間違っているとラクスが思ったのも無理はなかった。なぜなら彼らは自分と同類だ。他人を信用し、委ねるなどあり得ない。それでも今自分がしているように、キラ相手だとそんな信条など忘れてしまったかのような行動に出てしまう。
そうだ。これはキラ限定で発揮される感情なのだ。
困っていれば無条件で手を差し伸べたくなる。
そしてキラ自身は自分の価値に全く気付いていないというオマケつきで。
「───な?分かるだろ」
盛大に肩を落としたラクスにアスランがどこか同情めいた声をかけた。
「羨ましいというか……いっそ貴方が妬ましくもあります」
アスランとラクスの間に突如起こったある種“険悪”な空気に、キラが目を丸くする。
「ああ、お構いなく。キラさまのせいではございませんから」
「そうなの?」
「俺としてはもう少し自覚を持って欲しいものだがな」
「自覚?」
「それは流石にあざといのでは!」
思わず口出ししてしまったミリアリアを、ラクスが手を挙げて制した。
「いいのです、ミリアリアさん。これを天然で出来てしまうキラさまだからこそ、わたくしたちの癒しになるのですから」
深く頷くアスランに、やっぱりこの二人は同類なのだなとキラが思ったのは内緒である。
「おーい!ハウ!」
暫くそんな話をしていると、アーサーが大声でミリアリアを呼んだ。手招きしている彼の表情から察するに、何か進展があったようだ。
「行ってきますね」
小さく断りを入れてミリアリアが駆け出す。さっと顔色を変えたキラに、ラクスが緊張を解すようにふんわりと微笑んだ。
「きっと良い報せですわ。こんなに多くの人たちが力を尽くしてくれているのですもの。心配いりません。それに──」
「ラクスさん?」
「そんなキラさまだからこそ、皆さまが協力をしたくなるのです」
「え?」
「だからもう少し自覚をだなぁ」
「あとこの人の言うことは一々気にしなくてもいいです」
「貴女という人は!」
「あら。ミリアリアさんが戻って来られるようですね。お話を聞きましょうか」
相変わらずラクスのアスランをスルーするスキルには目を見張るものがある。もうこの二人はこれでいいのかもなとキラが納得していると、ラクスがなにかを思い付いたように振り返った。
「先ほどアスランさまに邪魔されて話の腰を折られたので、続きを申し上げておきます」
「は、はい」
一体何事かと身構えたキラに、ラクスが鮮やかな笑顔を見せた。
「わたくしも貴方に無条件で協力したくなった人間の一人です。それから…お忘れですか?わたくしたちは“友人”でしょう?敬称は不要になったはすですよ、キラ」
「なるほど、その俺に対するわざとらしい敬称付けは距離の現れだったというわけですね」
「あら、察しがよくて助かりますわ」
キラに向けるそれとは違う笑顔で言いきられて、女性にこんな扱いを受けた経験などなかっただろうアスランが口許を引きつらせた。
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