訪問




急ぎ足で遠ざかるミリアリアを見送ったラクスは、キラの側で通話内容を聞いていたアスランに尋ねた。
「こちらはどんなお話になってますか」
「運転手と話しをして、今は件の使用人を探しているところらしい。どうも若い男のようだが───」
「え!?いないってどういうことですか!?」
説明するアスランの声を遮って、キラが大きな声を出した。アスランとラクスがキラに一層身を寄せる。気付いたキラがスピーカーに変えた。
『すぐに探しましたが、半日ほどその使用人を屋敷内で見かけた者がいないようです。申し訳ございません』
謝るところをみると通話相手は使用人を統括する立場の人物らしい。アスハ家の屋敷は広大だが、その彼が言うのなら信憑性がある。引き続き探して見つかり次第連絡しますと言って、通話は切れた。
「アスランさま。貴方がいながら使用人の確保には気が回らなかったのですか」
「尤もだ。すまない」
ラクスに咎められて、アスランは素直に認めるしかなかった。動揺していて、などと言い訳にもならない。ただ、謝罪を向けた先は、責めたラクスではなくキラだったが。
「アスランが謝ることじゃないよ。すぐに僕が気付けてれば…」
「いいえ。言いにくいですが保釈中の身の上であるカガリさまが戻らなければ、身元引き受け人であるキラさまが真っ先に考えるのは、彼女の逃亡ではないでしょうか。家族としての心配は論外ですが、今のキラさまには社会的な立場もあります。それこそ色々なものが一度に押し寄せて、混乱するのは当然ですわ」
「おい。俺に対する態度と随分違うんじゃないか」
最早苦言を呈するアスランをスルーするのはラクスの定番になりつつあった。相変わらずキラを見たままで、ラクスは頬に手を当てて残念そうに呟く。
「ですが悔しいですわね」
「悔しい、とは?」
突然美女に見つめられて、免疫のないキラは顔に熱が集中するのを感じた。内心で悶えながら、ラクスは人差し指を立てた。
「キラさまが相談事を一番にアスランに持ち込んだことですわ。わたくしを頼ってくださっても宜しかったですのに」
「安心しろ、それはない。あとあんまり見ないでくれませんかね」
どこか勝ち誇った口調で当たり前のように大きな手でキラの顔を隠したアスランに、反発しないラクスではなかった。
「狭量な男ですわね」
ぷい、と横を向いて、今度は瞳を眇めてキラを見る。
「キラさま。本当にこんな男でよろしいのですか?」
一連の会話に付いていけてないキラは、アスランに隠されつつも、ことんと首を傾げた。
「え?あ、はい」
普通に返事をしたキラに「よし!」とばかりに拳を握ったアスランだが、自分を巡る二人の鍔迫り合いに、視界を塞がれたキラが気付くことはなかった。
「えーと……ていうか、逆にどうしてラクスさんは僕にそんなに協力的なんですか?」
などと言い出す始末である。力が抜けたように肩を落としたラクスに流石にアスランが同情した。
「そういうの、キラに期待しない方がいいぞ」
「それってどういう意味?」
「別に。分からないならそれでいい」
やや鼻白んだキラをあっさりといなし、アスランはミリアリアの方へ視線を移した。
「少しは本腰を入れてくれるようだな」
ミリアリア曰く“上司”たちの動きが激しくなっている。周囲の捜査員に指示を飛ばし、自分たちよりも年上だとおぼしき男がこちらへとやって来た。
「皆さま揃い踏みで、知らなかったもので挨拶もせず失礼しました。私は指揮を任されているアーサー・トラインと申します」
あからさまにおもねる態度の男に、アスランとラクスは辟易としたが、キラはぺこりと頭を下げた。
「キラ・ヤマトです。こちらこそ身内がご迷惑をおかけして申し訳ございません。そもそも僕がちゃんと監視してれば…」
「ああ。その辺りの話しはハウから聞いてデータも取り寄せました。確かに保釈中の身のようですね。しかしそれはさておき、今は彼女が無事に戻って来られるよう尽力するのみです」
「…………宜しくお願いします」
再度深々と頭を下げたキラにおおげさなほど恐縮して、アーサーは元の場所へ戻って行った。
「指揮を取るのがあの男で大丈夫なのか?」
一応彼が充分に遠ざかってから、アスランがぼそりと呟いた。
「ですわね。少々頼りない気がいたします」
同意したラクスにミリアリアも天を仰いだ。
「あー……確かにちょっと頼りなく見えるかもですけど」
擁護しきれないミリアリアだったが、キラの感想は正反対のものだった。
「でもあの人。悪い人じゃないと思うよ」
あくまでも楽観的なキラの言葉に、驚愕を隠しもしない他三人の視線が集中する。




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