保釈
・
ラクスとの邂逅後、瞬く間に1ヶ月ほどが過ぎた。
勿論ぼんやりと過ごしていたわけではない。寧ろ忙し過ぎて日々が飛ぶように過ぎたといった方がしっくりきた。
幸いデュランダルの手腕が存分に発揮されたため、以前ほど金策に窮することはなくなっていた。それに伴いアスハ領に暮らしていた人々との交渉も進みやすくなったと、任せている弁護士からの報告も貰っている。
まだまだ気の抜けない状況は変わらないが、キラの気持ちも心持ちゆったりしていた。
アスランとはあれから一度しか会っていない。多少の余裕が出来たとはいえ、それはキラの都合の話だ。ザラ家の後継者としてのアスランは月日を重ねれば重ねるほど忙しくなってしまう。自然とキラがアスランのスケジュールに合わせる流れになるのだが、アスランに空きがあっても、今度はキラに外せない用件があったりする。まだラクスと会う都合の方がつけやすいほどだった。
少なくともラクスならアスランほど多忙ではなく、キラを気に入ったという彼女の言葉に嘘はなかったようで、わりと頻繁にお茶や食事に誘ってきた。その全てに応えられなくても、キラとしても吝かではなく、特に理由がなければ息抜きを兼ねて断らないようにしていた。
そうして交流を重ねる内のどの機会にか、うっかりアスランとはあまり会えていないと言ってしまったらしい。
キラにとっては愚痴というより、聞かれたから答えただけだったのだが、何故か憤慨したラクスによって、あれよあれよという間にアスランと会うことになっていた。それが件の一度の会う機会だったのだ。
本当に無理をしていないかと心配したキラに、アスランは苦笑して暴露した。
ラクスに「時間は作るものです」と叱咤されたのだと。
ラクスにまで面倒をかけて手に入れた機会をキラも無碍にするつもりはない。しかもアスランに会って、自分が如何に会えないことを寂しく思っていたのかを自覚させられた。なのでアスランが「キラに会えるなら多少の無理ならできるよ」と言うのに甘えて、つい一夜を共にしてしまった。
(───アスランに誘われたのもあるけど…)
カガリの弟であるキラの方からザラ家を訪れるのは、万が一の時に面倒なことになると、アスランがアスハ家にやって来る形で、その一度の邂逅は実現した。
アスハ家にアスランの顔を知っている使用人は殆どいないが、全く知られていないわけではない。余計な詮索を避けるため、アスランは大きなサングラスをかけ、名前も“アレックス”と偽名を使って現れた。
ところがそれがいけなかったのだろう。アスランの変装(?)は先に打ち合わせ済みだったとはいえ、迎えたキラは不覚にもときめいてしまったのだ。
ただサングラスをかけただけのアスランは、キラの目に妙に大人っぽく映り、色気のようなものまで感じてしまった。
暫くはお互いの近況を語り合って過ごしたものの、どうしてもアスランに触れていたくなるのには本当に困った。気もそぞろなキラにアスランが気付かないわけはなく、結果、予定にはなかった“お泊まり”となった次第である。
(うわ~っ!ナシナシ!!)
うっかり濃厚な夜を具体的に思い出しかけて、キラは手にしていた書類に顔を埋めた。うっかり握り締めた紙がグシャリと音を立てて、同じ部屋で仕事をしていたホムラが驚いて声をかけてきた。
「キラさま?なにか気になる点がありましたか?」
「あ、いえ!そういうわけじゃ──」
慌てて取り繕おうと背筋を伸ばしたタイミングで、ドアからノックの音がする。半ば助かったと思いつつ入室を促すと、覗いたのはアスハ家に長く勤めている初老の男の顔だった。
「失礼致します」
折り目正しく一礼した男は優秀で、空気を読むのに長けている。大抵のことはわざわざ相談せずとも彼の範疇で処理してしまうし、執務中の主人の手を止めるなどしない。
しかしこうして現れたということは、彼の采配では如何ともし難いなにかがあったのだろう。
「どうかしましたか?」
また新たな面倒ごとかと内心で溜め息を吐きながら、要件を尋ねる。すると彼は普段のしかめ面を更にしかめると言った。
「────、カガリさまの保釈が認められました」
反射的に書類を持つ手が震える。
別に驚くことではない。保釈を申し立てていたのはこちらの方なのだから。
しかしいざ戻ってくるとなると、現実味が違う。
「そうですか。でもよく認められましたよね」
「傷害罪ですから弁護士も相当苦労したようです。キラさまは厳刑を望みませんでしたし、結果的にザラ家のご子息が怪我を負いましたが、カガリさまに彼に対する殺意はありません。その辺を突いたのではないかと」
ずっとアスハ家を支えてくれている弁護士が刑事事件に強い同僚を紹介してくれたのだ。保釈申請はその弁護士に一任していた。
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ラクスとの邂逅後、瞬く間に1ヶ月ほどが過ぎた。
勿論ぼんやりと過ごしていたわけではない。寧ろ忙し過ぎて日々が飛ぶように過ぎたといった方がしっくりきた。
幸いデュランダルの手腕が存分に発揮されたため、以前ほど金策に窮することはなくなっていた。それに伴いアスハ領に暮らしていた人々との交渉も進みやすくなったと、任せている弁護士からの報告も貰っている。
まだまだ気の抜けない状況は変わらないが、キラの気持ちも心持ちゆったりしていた。
アスランとはあれから一度しか会っていない。多少の余裕が出来たとはいえ、それはキラの都合の話だ。ザラ家の後継者としてのアスランは月日を重ねれば重ねるほど忙しくなってしまう。自然とキラがアスランのスケジュールに合わせる流れになるのだが、アスランに空きがあっても、今度はキラに外せない用件があったりする。まだラクスと会う都合の方がつけやすいほどだった。
少なくともラクスならアスランほど多忙ではなく、キラを気に入ったという彼女の言葉に嘘はなかったようで、わりと頻繁にお茶や食事に誘ってきた。その全てに応えられなくても、キラとしても吝かではなく、特に理由がなければ息抜きを兼ねて断らないようにしていた。
そうして交流を重ねる内のどの機会にか、うっかりアスランとはあまり会えていないと言ってしまったらしい。
キラにとっては愚痴というより、聞かれたから答えただけだったのだが、何故か憤慨したラクスによって、あれよあれよという間にアスランと会うことになっていた。それが件の一度の会う機会だったのだ。
本当に無理をしていないかと心配したキラに、アスランは苦笑して暴露した。
ラクスに「時間は作るものです」と叱咤されたのだと。
ラクスにまで面倒をかけて手に入れた機会をキラも無碍にするつもりはない。しかもアスランに会って、自分が如何に会えないことを寂しく思っていたのかを自覚させられた。なのでアスランが「キラに会えるなら多少の無理ならできるよ」と言うのに甘えて、つい一夜を共にしてしまった。
(───アスランに誘われたのもあるけど…)
カガリの弟であるキラの方からザラ家を訪れるのは、万が一の時に面倒なことになると、アスランがアスハ家にやって来る形で、その一度の邂逅は実現した。
アスハ家にアスランの顔を知っている使用人は殆どいないが、全く知られていないわけではない。余計な詮索を避けるため、アスランは大きなサングラスをかけ、名前も“アレックス”と偽名を使って現れた。
ところがそれがいけなかったのだろう。アスランの変装(?)は先に打ち合わせ済みだったとはいえ、迎えたキラは不覚にもときめいてしまったのだ。
ただサングラスをかけただけのアスランは、キラの目に妙に大人っぽく映り、色気のようなものまで感じてしまった。
暫くはお互いの近況を語り合って過ごしたものの、どうしてもアスランに触れていたくなるのには本当に困った。気もそぞろなキラにアスランが気付かないわけはなく、結果、予定にはなかった“お泊まり”となった次第である。
(うわ~っ!ナシナシ!!)
うっかり濃厚な夜を具体的に思い出しかけて、キラは手にしていた書類に顔を埋めた。うっかり握り締めた紙がグシャリと音を立てて、同じ部屋で仕事をしていたホムラが驚いて声をかけてきた。
「キラさま?なにか気になる点がありましたか?」
「あ、いえ!そういうわけじゃ──」
慌てて取り繕おうと背筋を伸ばしたタイミングで、ドアからノックの音がする。半ば助かったと思いつつ入室を促すと、覗いたのはアスハ家に長く勤めている初老の男の顔だった。
「失礼致します」
折り目正しく一礼した男は優秀で、空気を読むのに長けている。大抵のことはわざわざ相談せずとも彼の範疇で処理してしまうし、執務中の主人の手を止めるなどしない。
しかしこうして現れたということは、彼の采配では如何ともし難いなにかがあったのだろう。
「どうかしましたか?」
また新たな面倒ごとかと内心で溜め息を吐きながら、要件を尋ねる。すると彼は普段のしかめ面を更にしかめると言った。
「────、カガリさまの保釈が認められました」
反射的に書類を持つ手が震える。
別に驚くことではない。保釈を申し立てていたのはこちらの方なのだから。
しかしいざ戻ってくるとなると、現実味が違う。
「そうですか。でもよく認められましたよね」
「傷害罪ですから弁護士も相当苦労したようです。キラさまは厳刑を望みませんでしたし、結果的にザラ家のご子息が怪我を負いましたが、カガリさまに彼に対する殺意はありません。その辺を突いたのではないかと」
ずっとアスハ家を支えてくれている弁護士が刑事事件に強い同僚を紹介してくれたのだ。保釈申請はその弁護士に一任していた。
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