友人




アスラン・ザラといえば世の女性全てが放っておかないほどハイスペックな男だ。本人もそれを良く知っていて、キラと出会う前はかなり遊んでいたことが伺われる。尤も女性の方もアスランをブランド物と同様に認識していたのだから、そこはお互い様と言えなくもないが、少なくともアスランにとって女性は“思い通りに扱える都合のいい道具”でしかないだろう。
なのにラクスは違うらしい。
彼女自身がザラ家と肩を並べるクライン家の娘であり、本人も眉目秀麗であくまでも印象であるが頭の回転も悪くなさそうだ。アスランに媚を売る必要はないのだろう。またアスランもそれを受け入れている。
二人がとてもいい関係に思えて、キラの胸にチクリと痛みが走った。
「誤解をしないで頂きたいんですが、わたくしとアスランの間に特別な感情はありません」
複雑な心境を見透かされたキラの心臓が大きく脈打った。
「い、いえ、別に僕は──」
「余計な気を回させてしまったのでしたらごめんなさい。ですが弁解ではなく、わたくしの立場を明確にしておくために申し上げました」
しどろもどろになったキラにラクスは難解な言葉で持論を引っ込めてしまった。なんとなくきまりが悪くなったが、そこにアスランがさらりとラクスに同意した。
「失礼ながら俺も貴女にそういった感情を持ったことはありませんね。これからも湧かないと断言できる。そうだな…ニコルたちに対するものに似ている、というか。無論全く一緒ではありませんが」
「言うまでもないでしょう」
ラクスが何を馬鹿なことを、とばかりにばっさりと切り捨てた。
「少なくともわたくしは女ですから、彼らと同じ存在になれと言われても無理な注文ですわ。でも違うからこそ彼らに出来ないことが出来てしまうのです。腹立たしいのはアスランがそれをよく分かっている事実。聞いてくださいませ、キラさま!この男はわたくしを他の女性たちの風避けに使っていたのです!」
突然アスランを行儀悪く指差して声を荒げたラクスに、キラは目を白黒させるしかない。
「えーと…、風避け、ですか?」
辛うじて耳に残った言葉を繰り返すと、ラクスは大きく頷いた。
「そうですわ。所謂“名家”の方々が定期的に集まってパーティをなさるように、わたくしどもにも情報交換を目的とした集まりがありますの。そういった場には各家の子息や令嬢の縁談相手を見繕うという側面もありまして、当然アスランは各令嬢の注目の的となります。そういったアスランにとっては煩わしいであろう視線やアプローチから逃れるために、わざとわたくしをエスコートしているふりをするのですわ。過大評価するつもりはありませんが、クライン家の令嬢であるわたくしと親しげに話していれば、中々他家のご令嬢方が割り込むのは難しいでしょうから」
「ああ…そういうことですか……」
キラはいつか目にしたアスランとラクスが並び立つ姿を思い出した。確かにあの時の二人の雰囲気に割り込む度胸のある女性はいないだろう。
他でもないキラも彼らの仲睦まじい様子に胸を痛めた人間のひとりだ。

でもそれが牽制だったのだと知ってしまえば───

キラは冷めた視線をアスランに向けた。
「アスラン。女の人にそれはあんまり酷いんじゃない?」
「それをお前が言うか」
「キラさまもそう思いますわよね!だからわたくしもこれまで黙って盾役をしてきた見返りを求めた、というわけなのです」
それが今回のキラとの“会合”の内幕かと頭の中で繋がった気がする。本当にノリがニコルたちと似ているんだな、と可笑しくなったが、それならそれで心配になってきた。
「でも…その“見返り”が僕の紹介なんかで良かったんですか?」
見返りを求める相手は他でもないアスランなのだから、大抵の希望は通ったはずだ。何が彼女の興味を引いたか知らないが、その見返りを投げ売って会ったのが面白味など欠片もない自分では、さぞや落胆させるのではないか。

しかしそんな不安もラクスは一笑に付した。
「わたくしは大抵の望みは自力で叶えられます。でもキラさまに会ってみたいという願いは、残念ながらアスランたちの協力が必要不可欠でしたから。───あとキラさまは自己評価が低過ぎだと思いますわ」
「え?」
意味が分からず小さく首を傾げたキラに、ラクスは何故か拳を固めて何かに耐えるように俯いて肩を震わせ始めた。
「ラ・ラクスさま?」
ただならぬ雰囲気にアタフタしたキラだが、察したらしいアスランが口を挟んだ。
「おい、まさかおかしなことを言い出すつもりじゃ──」
突如ラクスが勢い良く顔を上げて、驚いたアスランが言葉を切る。座っている位置の関係で真正面から見てしまった彼女は、頬を真っ赤に高揚させて瞳を潤ませてさえいた。





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