友人
・
「ご紹介にあずかりましたラクス・クラインです。本日はご足労頂き、有難うございます」
「で、ラクス嬢。こっちがきみが会ってみたいと興味を持ったキラ・ヤマトだ」
「キ、キラ・ヤマトです!初めまして!」
「…───、ヤマト…」
ラクスの下げたままの口許から、小さな呟きが漏れた。
ラクスにはキラがアスハ家の当主だという知識しかないのだから無理もない。
「あ、僕のヤマト姓には色々と理由がありまして」
「いいだろ?名前なんかどうでも」
アスランが心底面倒くさそうに言うと、ラクスはパッと顔を上げた。繕ったものではない、何故か輝くばかりの笑顔だ。
「そうですわね。わたくしも名前など記号くらいにしか思ってませんもの」
「はぁ」
お嬢さま然とした雰囲気からは意外なほどの快活な言動に、半ば呆然と相槌をうっている内に、アスランがテーブルを回り込んで椅子を引いた。
「どうぞ。立ちっぱなしも落ち着かないんで、座ってください」
「まあ、有難うございます」
「キラ、お前も座れ」
アスランも腰を下ろしたのを見て、キラもオドオドと椅子へ座った。
「あ、あのう…」
と、そこまで居心地悪そうに立っていたもう一人の女性が声をかけて来た。そこでラクスに会う緊張のため殆ど目に入っていなかった彼女をまともに見たキラは、どこかで会ったことがあると気付いた。
「私はこの後、どうすれば」
アスランの促した椅子に座ろうとしていたラクスが再び姿勢を正す。
「これは失礼致しました。お陰で誰にも怪しまれず、キラさまにお会いすることが出来ました。貴重なお時間を頂戴してしまい、申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げたラクスに、女性は泡を食ったように動揺を顕にした。
「そ、そんな頭を上げてください!今日は非番でしたし、予定があったわけでもありませんから!改まって謝罪して頂くようなことはなにも──」
“非番”という単語でキラの記憶が繋がった。
「貴女は──確かあの時の女刑事さん…?」
カガリが起こした傷害事件の時に関わった女刑事だ。身内だから軽い聴取を受けたのだが、事情が事情だっただけに厳しい印象がある。
僅かに身を強ばらせたキラに、女刑事は屈託ない笑顔を向けた。
「覚えててくれました?でも今は仕事中ではありませんから、そう構えないで大丈夫ですよ」
本来の彼女はフレンドリーなタイプらしい。
「改めまして。ミリアリア・ハウといいます。今日は良く分からないまま、ラクスさんの“友人役”を依頼されまして。完全プライベートです」
「と、いうわけですの」
増々意味が分からない、という顔になるキラに、アスランが助け船を出した。
「ラクス嬢と俺が顔を合わすのはなるべく知られたくなかったからな。女友達と遊びに行く体裁にすれば父上たちの目も誤魔化し易いと考えたんだ。とはいえすぐに適当な人材が浮かばなくて、ディアッカを通じて彼女に依頼した」
「え?ディアッカさんと仲がいいんですか?」
キラの直球過ぎる疑問に、ミリアリアは急にオドオドと挙動不審になった。
「べ、別にそういうわけじゃないけど!ほんとに困ってそうだったから!!」
敬語が抜けてしまっている。同年代に見えるしそこは構わないのだが。
困惑して助けを求めるキラの視線を受けて、アスランは小さく笑った。
「まぁその辺は俺たちがとやかく口出すことじゃないだろ。それより悪いが帰りもラクス嬢と共にしてもらいたいんだ。そう時間をかけるつもりはないから、良ければきみも座ってくれないか?」
アスランは手振りでラクスの隣の椅子を示したが、ミリアリアと名乗った彼女は首を左右に振りまくった。
「同席なんてとんでもない!私はあの隅のテーブルで待ってますから!!」
そう言うとあっという間にキラたちのいるテーブルから一番離れたそこに行ってしまう。広くはない店内なので話し声は聞こえてしまうだろうが、聞かれて困る話をするわけでもないので、そこは気にならなかった。
「さて。それでは早速お話し致しましょうか」
「お話し、といわれましても困るんですが…」
「では僭越ながら話題提供はわたくしから。───アスランとの馴れ初めをお聞きしても?」
「なっ!」
いきなりの質問にキラは真っ赤になり、アスランは俯いて額を押さえた。爆弾発言の首謀者のラクスは「あら、可愛らしい」などと言いながらコロコロと笑っている。
「ラクス嬢…。初対面の話題として、それはどうなんだ」
咎めたアスランをラクスはきっぱりと断罪した。
「わたくしとキラさまの対面の場です。アスランは口を挟まないで頂けますか?」
アスランは所謂“おまけ”でしかないと言わんばかりの態度に、キラはなんだか可笑しくなってしまった。
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「ご紹介にあずかりましたラクス・クラインです。本日はご足労頂き、有難うございます」
「で、ラクス嬢。こっちがきみが会ってみたいと興味を持ったキラ・ヤマトだ」
「キ、キラ・ヤマトです!初めまして!」
「…───、ヤマト…」
ラクスの下げたままの口許から、小さな呟きが漏れた。
ラクスにはキラがアスハ家の当主だという知識しかないのだから無理もない。
「あ、僕のヤマト姓には色々と理由がありまして」
「いいだろ?名前なんかどうでも」
アスランが心底面倒くさそうに言うと、ラクスはパッと顔を上げた。繕ったものではない、何故か輝くばかりの笑顔だ。
「そうですわね。わたくしも名前など記号くらいにしか思ってませんもの」
「はぁ」
お嬢さま然とした雰囲気からは意外なほどの快活な言動に、半ば呆然と相槌をうっている内に、アスランがテーブルを回り込んで椅子を引いた。
「どうぞ。立ちっぱなしも落ち着かないんで、座ってください」
「まあ、有難うございます」
「キラ、お前も座れ」
アスランも腰を下ろしたのを見て、キラもオドオドと椅子へ座った。
「あ、あのう…」
と、そこまで居心地悪そうに立っていたもう一人の女性が声をかけて来た。そこでラクスに会う緊張のため殆ど目に入っていなかった彼女をまともに見たキラは、どこかで会ったことがあると気付いた。
「私はこの後、どうすれば」
アスランの促した椅子に座ろうとしていたラクスが再び姿勢を正す。
「これは失礼致しました。お陰で誰にも怪しまれず、キラさまにお会いすることが出来ました。貴重なお時間を頂戴してしまい、申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げたラクスに、女性は泡を食ったように動揺を顕にした。
「そ、そんな頭を上げてください!今日は非番でしたし、予定があったわけでもありませんから!改まって謝罪して頂くようなことはなにも──」
“非番”という単語でキラの記憶が繋がった。
「貴女は──確かあの時の女刑事さん…?」
カガリが起こした傷害事件の時に関わった女刑事だ。身内だから軽い聴取を受けたのだが、事情が事情だっただけに厳しい印象がある。
僅かに身を強ばらせたキラに、女刑事は屈託ない笑顔を向けた。
「覚えててくれました?でも今は仕事中ではありませんから、そう構えないで大丈夫ですよ」
本来の彼女はフレンドリーなタイプらしい。
「改めまして。ミリアリア・ハウといいます。今日は良く分からないまま、ラクスさんの“友人役”を依頼されまして。完全プライベートです」
「と、いうわけですの」
増々意味が分からない、という顔になるキラに、アスランが助け船を出した。
「ラクス嬢と俺が顔を合わすのはなるべく知られたくなかったからな。女友達と遊びに行く体裁にすれば父上たちの目も誤魔化し易いと考えたんだ。とはいえすぐに適当な人材が浮かばなくて、ディアッカを通じて彼女に依頼した」
「え?ディアッカさんと仲がいいんですか?」
キラの直球過ぎる疑問に、ミリアリアは急にオドオドと挙動不審になった。
「べ、別にそういうわけじゃないけど!ほんとに困ってそうだったから!!」
敬語が抜けてしまっている。同年代に見えるしそこは構わないのだが。
困惑して助けを求めるキラの視線を受けて、アスランは小さく笑った。
「まぁその辺は俺たちがとやかく口出すことじゃないだろ。それより悪いが帰りもラクス嬢と共にしてもらいたいんだ。そう時間をかけるつもりはないから、良ければきみも座ってくれないか?」
アスランは手振りでラクスの隣の椅子を示したが、ミリアリアと名乗った彼女は首を左右に振りまくった。
「同席なんてとんでもない!私はあの隅のテーブルで待ってますから!!」
そう言うとあっという間にキラたちのいるテーブルから一番離れたそこに行ってしまう。広くはない店内なので話し声は聞こえてしまうだろうが、聞かれて困る話をするわけでもないので、そこは気にならなかった。
「さて。それでは早速お話し致しましょうか」
「お話し、といわれましても困るんですが…」
「では僭越ながら話題提供はわたくしから。───アスランとの馴れ初めをお聞きしても?」
「なっ!」
いきなりの質問にキラは真っ赤になり、アスランは俯いて額を押さえた。爆弾発言の首謀者のラクスは「あら、可愛らしい」などと言いながらコロコロと笑っている。
「ラクス嬢…。初対面の話題として、それはどうなんだ」
咎めたアスランをラクスはきっぱりと断罪した。
「わたくしとキラさまの対面の場です。アスランは口を挟まないで頂けますか?」
アスランは所謂“おまけ”でしかないと言わんばかりの態度に、キラはなんだか可笑しくなってしまった。
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