友人




おや、とラクスは思った。先ほどまでとはミリアリアの表情がガラリと変わったのだ。
ほんの子供の頃から感情を出さないよう教育を受けているラクスに湧いた疑問には気付かず、ミリアリアはなおも続けた。
「被疑者であるカガリ・ユラ・アスハの尋問の後でしたから、余計に彼がそんな風に見えたのかもしれません。でも、すぐにそれだけではないんだな、と分かりました。彼は抜群に頭が良くて、ちゃんと譲れない一線を持っていた。それが表に現れないのは、彼の過去に原因があるようでしたが、一介の刑事の私がそこまで踏み込むことはありませんし…。まぁ興味深い人物、と思いましたね」
そしてミリアリアはハタと口を閉じた。
ラクスに凝視されていると気付いたからだ。
「あ!いえ、つい語っちゃいました。ごめんなさい!」
深々と頭を下げる。顔を伏せていても赤面しているのが、耳まで真っ赤になっていることからも分かる。

ミリアリアは刑事だ。仕事柄洞察力には長けているはずで、彼女もそこには自信を持っている。だから表情が変わったのだろうし、そんな彼女が語る人物像なら信頼も出来る。

ラクスの想像通りあの腹黒いアスランたちまでも虜にするキラという人物は、周囲を惹き付ける魅力を持っているのだ。
(増々お会いするのが楽しみになってきましたわ)
このチャンスを生かしたい。幸いラクスも洞察力には自信がある。おそらくあまり長い時間ではないだろうが、その短時間で少しでもキラという人間を理解したい。
そして出来れば自分もキラを好きになりたいとラクスは思った。




◇◇◇◇


キラに事情を話そうとアスランはキラの携帯番号をタップした。
本当は顔を見て話したかったが、現段階で自分とキラの交流をパトリックたちに知られるのは悪手でしかないし、忙しくしていて中々体が空かないのも現実だ。早めにキラに話しを通す必要があったため、渋々選んだツールだった。
しかし聞こえるのは虚しいコール音だけで、メッセージで伝えるしかないかと諦めかけていたところに、すぐに折り返しの電話がかかってきた。
声が聞けると喜んだのは内緒である。


『僕がクライン家のご令嬢と?え?会うの?何で?』
まぁキラにとってみれば寝耳に水だろう。この微妙なニュアンスを文面で伝える自信はなかったから、通話出来て良かったとアスランは改めて思った。
「何でかは会ってから直接ラクスに聞いたらどうだ?そもそも彼女が言い出したことだから、俺には正確なところは分からない。それにニコルたちが乗り気になった」
『…僕を見定めようとしてるってわけ?』
「そうかもな」
『そうかもなって…。気楽に言わないでくれる?僕は僕でしかないんだから、期待してるようなことは出来ないよ』
「別に良く見せろなんて言ってないぞ」
『仮に本当に見定めが目的だったとしたら、何で知らない人に僕を評価されなきゃいけないのかって思う。女の人にこういう表現は使いたくないんだけど、正直いい気はしないんだけど』
言ってることは一々尤もで、もし自分がキラの立場なら同じ感想を抱くだろう。しかしそもそもラクスの興味を引いたのはアスランのせいでもあるのだ。
「そう深く考えるなよ。単にお前と仲良くなりたいだけかもしれないし」
『わざわざディアッカさんの友達まで巻き込んだお膳立てまでしておいて?』
「ご想像通りもう動き出してるんだよな、既に」
『はぁ…』
小さな機械越しに盛大な溜め息が聞こえた。それは諦めの溜め息に他ならなかった。そこまで周りに動いてもらって断れるキラでないのは折り込み済みだ。
「で?会ってくれるのか?」
『最初から僕に拒否権はないんでしょ。会いますよ』
「悪いな」
『軽い!そんな軽い謝罪の言葉、初めて聞きましたよ!』
「ラクスの都合は聞いてる。合わせられるか?」
『やっぱり僕に拒否権なんかなかったんだね…』
用意周到過ぎるアスランに全身の力が抜けたようだ。


その後はキラも特別悪態をつくことなく、予定は淡々と決まっていったのだった。




◇◇◇◇


そして迎えたラクスに会う日。
女性を待たせるわけにもいかず、キラは約束した時間より早く、ニコルが用意したというカフェへと到着した。


「お久し振りです。お元気そうで何よりです」
満面の笑みでニコルに迎えられ、慌てつつも挨拶を返す。こっそり見渡したがアスランはまだ来てないようで姿はなかった。
「大丈夫ですよ。僕はセッティングしただけなんで、すぐに帰りますから。さ、こちらの席へどうぞ」
まさかニコルも同席するのかと警戒心が露骨に出てしまったらしい。心情を正確に見破られ、増々焦ってしまった。
「は、はい!!」
必要以上に元気良く返事をしたキラが微笑ましくて、上がってしまった口角を隠すため、ニコルはテーブルに案内する風を装って先に立って歩き出したのだった。




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