友人




「で。キラさんとラクス嬢を会わせるとして、具体的にはどういう流れでいきます?」
アスランの複雑な感情などどこ吹く風で、ニコルが話を進めてきた。扱いが雑過ぎやしないかと思ったアスランだが、これも自身の保全のために飲み込んでおく。
「そうだなー、本来ならアスランが動けば手っ取り早いとは思うけど」
ディアッカの意見は否定されることが前提のもので、意を汲んだイザークが後を引き継いだ。
「アスランの相手探しのパーティとか、他の令嬢も視野に入れてる素振りだが、本命がラクス嬢であることに代わりない。そんな状況でアスランからラクス嬢にコンタクトを取れば、パトリック氏に妙な勢いを出させるだけだから、俺が彼女との連絡係を引き受ける。アスランはキラに話を通してくれ」
「イザークがそこまで骨を折るなんて珍しいですね」
「言っとくがアスランのためじゃないぞ」
目を丸くしたニコルだったが、それで納得させられた。彼もキラのこととなればそのくらいの労力は厭わないのだ。
嬉しくなったニコルが満面の笑顔で次の提案をする。
「新しく画廊を開く同じ建物に丁度良さそうなカフェがありますよ。あまり大きくはないですが、寧ろそこが好都合でしょう。貸し切りも可能だと思いますので、場所の心配はいりません」
次々と決まっていく段取りに、アスランの方が付いていけない。半ば思考停止状態でだらしなく口を半開きにしていたアスランに向け、ニコルが「領収書は回しますからね」と釘を刺してくる。カフェとやらの貸し切り代金の話だろう。まったく抜け目ないことだと思う。
しかしこの通常運転に助けられて我を取り戻したアスランは腹を括った。
「分かった。先にラクス嬢の予定を聞いてくれ。キラの方が都合を合わせ易いと思う」
「了解」
「じゃ僕はカフェへ根回ししておきます。交渉はお任せください」
「なんか面白くなりそうだな!」
今回は出番のなさそうなディアッカが茶々を入れる。完全に他人事だ。しかしそんな気楽そうなディアッカに、ニコルが黒い笑顔を向けた。この笑顔のニコルが食えないと知っているディアッカは縮み上がった。
「なに言ってんですか。ディアッカには“カノジョさん”に協力を仰いでもらいますよ」
「は?」
「知らないとでも思ってるんですか?貴方アスランが刺された時に知り合った女刑事さんと付き合ってるんでしょ?」
「そうなのか?」
初耳だったアスランの疑問を受けて、せっかく身を起こしていたディアッカの肩が再び前屈みに落ちた。
「勘弁してくれよ…。中々落ちなくて手を焼いてるんだからよー」
「へーえ。女の子を追いかけることしか能のない貴方が、攻めあぐねる相手なんて興味深いですね。増々会ってみたくなっちゃいました」
「どっかの誰かさんの相手と同じだよ。金で釣れる女じゃないんだ」
とはいえディアッカも誇れるものがエルスマン家の資産だけという男ではない。傲り高ぶる姿勢は少なく、4人の中では一番フランクで親しみ易い(フランク過ぎるという説もあるが)。
アスランと比較すれば劣るかもしれないが、ディアッカだって魅力はそこらの男の比ではないのだ。
「お前もアスランも何でそんなに難しい相手を選びたがるのか…俺には理解出来んな」
と、イザークは酒を口へと運んだ。
彼にはとある女性との縁談が持ち上がっていて、現ジュール家当主の母親も乗り気であった。その女性はイザークの秘書のような仕事をしていて、つまるところ、一緒にジュール家の発展を目指せる相手である。
「ま、イザークのようなお相手の選び方がこれまでの慣例ですからね。間違いではないんでしょうけど」
「結婚などただの法律上の契約だ。揉めることなく家の発展が付いてくるなら、万事上手く行く」
「そうだな」
それについてはアスランも反論する気は皆無だ。自分もキラと出会わなければ、同じ選択をしただろうから。
「俺はまだ姫さんを選んだ誰かさんほど、決意を固めてるわけじゃねーけどよ」
あまり彼女との仲を触れられたくないのか、ディアッカが言い訳のようにボソリと呟いた。
「で?あの子に何をさせようって?」
「イザークがラクス嬢に接触してキラさんに会う日が決まったら、当日は“カノジョさん”に迎えに行ってもらおうかと。女性同士の外出なら、皆さん油断するでしょ?」
「それはいいな」
即座に同意したイザークに対して、ディアッカは大慌てだ。
「ち、ちょっと待ってくれ!そんなの頼めねーよ!だってミリアリアとラクス嬢、面識すらないんだぜ!!」
しかしあくまでも気楽な調子を崩さないのがニコルである。




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