友人




自分で言った台詞が如何に恥ずかしいものなのかに気付くと、キラの頬に一気に熱が集中した。それはもう火が出るのではないかと疑うほどだ。
「「~~~~っ!」」
テーブルに突っ伏してしまったキラに、悶え苦しむ(?)約二名。中々にカオスな状況だ。
やがて伏したままのキラの、力ない声が聞こえた。
「なに、この公開処刑…」
アスランの甚だ余計過ぎる介入に、ラクスとの初対面での緊張も大分解れてきたのだろう。敬語が消え、口調が普段のものに近くなっている。何が幸いするか分からないものだ。


因みになるべく話を聞かないように気を付けていたミリアリアは、遠目に眺めながら「一体なにをやってるんだ」と半ば呆れていた。
“件の傷害事件”に関与したため、アスランとキラの背景は知っている。だからそこにクライン家ご令嬢のラクスが向かう手助けを頼まれて、てっきりキラがラクスに横恋慕していて、諦めるよう説得するための会合だと思っていた。だが見るとは無しに聞くとは無しにしていても、これは自分が考えていた関係性とは違ったようだ。
(でも面白そう…)
ミリアリアが知る限り、キラは派手に主張をするタイプではないが、譲れない信念を曲げないしっかりした人間だった。少なくとも他人の言葉に一喜一憂し、動揺するところなど想像もつかず、そんなので周囲との軋轢は大丈夫なのだろうかと心配になったほどだ。
しかしアスランを前にしたキラは、ちゃんと年相応だった。詳しい内容までは分からないが、普通に感情の赴くままに様々な表情を晒している。
特別な感情など持たなかったミリアリアだが、今のキラは大変興味を唆られた。洞察力にはそれなりに自信があったが、やはりほんの一瞬の接触などでは、人物像など計り知れないものなのだと改めて思い知る。
(───と、いうか、あの子が可愛過ぎるのがいけないよね)
アスランやラクスほどではないが、ミリアリアもキラに魅了された内の一人なのは間違いない。


キラが羞恥の海から生還するより、ラクスの方が先に煩悩の沼から浮上を果たした。
「良く分かりましたわ、キラ。話してくださって有難うございます」
穏やかな声に、羞恥に身体を震わせながら俯いていたキラが顔を上げた。
「僕、感謝されるようなこと、言いましたか?」
ぱちくりと目を見開く無防備な様子に、何故かラクスは口許に拳を当てて「んんっ」と咳払いをしてから、気を取り直したように言った。
「勿論です。背景ばかりを評するのではなく、その人そのものを見る。当たり前のようで忘れがちなことを仰っていただきました。考えてみればわたくしの方も、何かしらのメリットを計算に入れた婚約になるのでしょうから、そこに愛情が介在しないのはお互い様ですものね。仮にわたくしがお相手の方を理解しようと努めれば、その方もそうしてくださるでしょうか」
「はい。きっと」
「残念ながらわたくしはキラのように純粋ではありませんけれど」
「僕は純粋とかじゃないですよ。確かに策を巡らせたりするのは不得手ですから、そういう意味で純粋だと感じるだけだと思います。でも…そうですね。最初は身近な人を信じることから始めてはどうでしょうか。信頼して、少しずつ素直な心を打ち明けてみる。アドバイスなんて偉そうなことは言えませんが、僕もそうやって今があると思ってますから」

そこでラクスは少し恥ずかしそうな仕草を見せた。

「その上で、わたくしに好意を持っていただけたら……こんなに嬉しいことはないのでしょうね」


アスランは迂闊にも、そんなラクスを“可愛い”と思ってしまった。決して恋愛的な感情ではないが、短くない付き合いの中でも、初めて見る表情だったのだ。ラクスにこんな可愛らしい一面があるとは知らなかった。
自分では引き出せなかったラクスの一面を、キラはたった数十分で詳らかにさせた。そういうところも本当に敵わないと思う。


その後も三人(アスランは主にラクスに蛇足扱いを受けていたが)の楽しそうな会話は続き、まるで旧知の友人のように存分に打ち解けた様子だった。






「あの…そろそろお時間だと思いますが」
一応この場で唯一部外者であるミリアリアが、控え目に声をかけてきた。絶対時間のことを忘れて話し込むだろうから注意していてくれとディアッカに言われていたのだ。案の定である。

そもそもそれなりに成功している家の令嬢なら、自ら街へ出るなどということはしないものだ。それがクライン家ともなれば言うに及ばすである。そこを「庶民の友人が出来たので出かけてみたい」と無理を通した形での外出だった。最初からあまりに長時間戻らなければ、今後許しが出ない可能性どころか、怪しまれることもあるかもしれない。





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