友人




キラの笑顔をたっぷりと堪能したラクスは、充分な間を取ってから話を開始した。
「さて、それではこのようにご足労頂いた理由のひとつである、キラを良く知るための質問を始めても宜しいでしょうか?」
「え?は、はい」
キラは緊張で身を固くする。
出生のアレコレを質されはしないと判断したが、ならば一体何を聞かれるのだろうとじんわりと冷や汗をかいた。
しかしまだ家のことを聞かれた方がましだったのではないかと、キラはすぐに思い知った。


「アスランとは家同士のメリットだけを追求した許婚者として出会ったと伺ってます。だというのに、その後アスランはキラのお姉さまと正式に婚約しましたよね。それもあの“事件”のせいで解消になりましたけれど。紆余曲折に加えて、そもそも恋愛感情を差し挟む余地のない関係だったと推察しますが、一体どういう心境の変化があって、今も彼を愛しているのですか?」
「あ、愛してる──とか」
途端に真っ赤になるキラに、もう何度目か分からないほど悶えたラクスだったが、ここはお首にも出さないでおく。
「キラがある種の人間にとって、大変魅力的であるのは、この短時間で身に染みて理解させていただきました。ですが相手はこのアスランでしょう?何がそんなに貴方の気を惹いたのか聞いておきたいのです」
「それは是非、俺も聞いてみたいな」
余計なことを言うなとばかりの鋭いラクスの視線が飛んできて、アスランは小さく肩を竦めた。茶化していい場面ではないだろう、空気を読めと言いたいらしい。
ラクスは咳払いひとつで再びキラに向き合った。
「わたくしもいずれは家同士のメリットを重視した結婚を迫られるはずです。望んだわけではありませんが、何不自由ない生活をしてきたのですから、そのくらいの覚悟はありますわ。ですがそういう結婚だったとしても、相手の方とは気持ちだけは繋がっていたいと思うのです。だから後学のためにもキラの体験談を聞いておきたい気持ちを酌んでもらえませんか」
確かにラクスの境遇は同情の余地があるものだ。下手すれば顔と名前くらいしか知らない相手と生涯を共にしなければならないのだから。

ここは恥ずかしがっている場合ではないと、キラは腹を括った。
「あくまでも僕の話なんで…ラクスさんにも当てはまるとは限りませんが、それでも構いませんか?」
「もちろんです」
途端ににっこりと笑ったラクスに、口に出していない思惑を感じたが、敢えてそこは考えないようにした。


「アスランの第一印象は最悪でした」

普段からあまり愛だの恋だの言わないキラのことだ。期待していたわけではないが、それでも少しは素直な気持ちを聞かせてもらえるかと思ったアスランは、辛辣過ぎる第一声に撃沈した。
当たり前というかなんというか、当然そんなアスランにキラが気付くはずがない。ラクスは目敏く見抜いたようで、そこはかとなく上から目線の視線を感じるが、そこは全力で無視である。
そんな二人の一瞬のやり取りなどやっぱり気付いてないキラは、どんな風に言えば正しく伝わるか熟考しつつ慎重に話し続けた。
「僕、色々あって余り他人と深い付き合いをしてこなかったんです。その上お金持ちの人たちにも、いい感情を持ってなくて。なのに疎遠だった実家のために人身御供にされたって思い込んでました。そういうバックグラウンドもあったから、アスラン自身のことなんて全く見てなかった。反発しかありませんでした。しかも相当な遊び人だって聞きましたし」
「それは間違っておりませんわ」
速攻で同意したラクスに、キラは苦笑いを溢す。
「でもこれだけハイスペックなら、女性が放っておくわけないんですよね」
「まぁ、悔しいですけどしょうがありませんわね。悔しいですけど」
「なんで貴女が悔しがるんですか。しかも二回も言ってるし」
やや復活したアスランが抗議する。もちろんラクスはどこ吹く風で、ひたすらキラの言葉を傾聴する姿勢を崩さなかった。
「それでその後接していく内に、アスラン自身を見る機会が増えて、その…いつの間にかって言うか、気が付けばって言うか……」
「愛していた、と」
言葉を継いだラクスの直接的な表現に、キラは瞬時に耳まで赤くなった。
「ですから、そういう言い方は──」
「あら、違うんですか?」
「ちが、違わない…です……けど………」
キラの声はどんどん小さくなったが、対するアスランの気分は急上昇だ。
「キラ、それ本当か?」
「あのねえ!僕だって好きでもない相手と、立ち塞がる困難を乗り越えてまで、この先もずっと一緒にいようとは思わないよ!!───っ、あ!」
しまった、と思った時にはもう遅かった。




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