味方




「クラウドファンディングとか…他にもいくつか資金繰り案を用意してますけど、決定するのは一度この方に会ってみてからでも遅くはないかな、と」
勢いでアスランにはバレただろうが、ニコルはかなり乗り気だった。音楽に関しては父である現アマルフィ家当主がやり尽くした感があったから、自分が後を継いでからの独自路線を模索していたのだ。年齢的にも具体策を試すのにいい頃合いである。仮に失敗したとして、この規模ならばアマルフィ家の根幹は少しも揺らぎはしないだろう。
無論、失敗するつもりなどつゆ程もないのだが。

ニコルはきっとわざとアスランの目に触れるよう、書類に予め書き付けておいたのだ。なんだかんだ、最大の出資者であるザラ家の人間に、無断で動くわけにはいかない。というか昔馴染みの気安さを利用して、協力を取り付けようと目論んでいるのだろう。どこまでも策士のニコルらしかった。

それらを踏まえた上でアスランは頷いた。
「いいんじゃないか?というか、面白そうだな。もっとこの商会の資料が見たい……いや、こちらで調べさせる」
「でも時間がかかりませんか?僕の集めたもので良ければ今出せますけど」
「いや、それじゃ片寄りかねないから、遠慮する」
「信用ないんですね」
「お前はリスクを最大限に減らしたいから、違う角度からこの商会を検分して欲しいんだろ、俺に」
「否定はしません。既に夢が広がり過ぎてる僕では、冷静な判断が出来てない可能性がありますからね」
黒い笑みを張り付けて同意するニコルは、経済人としても、ザラ家次世代のアスランのビジネスパートナーとして遜色ない。
「まぁ…了解した。商会の資料は急がせるから、アポイントメントは任せていいか?」
「ええ。フライト予定を調べた限り、比較的ゆったりした滞在プランを組んでるようですが、早急に接触してみます」
そういえば彼がこの国を訪れている理由までは調査が間に合わなかったが、小さいとはいえあちらも商会を営む経済人だ。商談メインで来ているのは間違いない。
そしてアスランの言い回しに気付いたニコルが首を傾げた。
「もしかして、アスランも同席するつもりですか?」
「多少の欲目は否定出来ないにしろ、お前なら箸にも棒にも引っ掛からないような相手を候補に入れたりしないだろ?聞く限り取り扱う商品に拘りはないようだし、俺も会ってみたくなった」
流石にザラ家の次期当主のアスランは鼻が利く。見ればすっかり企業人の顔をしていた。
「尤も、実際に会うかどうかは、報告書に目を通してから決めるがな。無駄足になると分かってて、割ける時間はない」
「分かりました。先方にはその辺りも踏まえてコンタクトを取ってみます」
「また連絡する」
あっさりと立ち上がり部屋を後にするアスランの背中を見送って、ニコルは早速、商会代表であるギルバート・デュランダルの連絡先を調べるように部下へ声をかけたのだった。




◇◇◇◇


「意外にも骨が折れましたよ」
数日後、件の代表者に会うために再び合流したアスランに、ニコルは溜め息混じりに経緯を話し始めた。


お目当てのギルバート商会代表のデュランダルは、今回、あくまでもプライベートでこの国を訪れていたらしい。ビジネスとは完全に分ける主義のようで、いくらニコルが甘言を呈しても姿勢は揺らがなかったそうだ。
その主義には好感が持てるが、今度は如何にして今日の会合を取り付けたのかが気になった。尋ねるとニコルは吃驚したように、きょとんとアスランを見た。
「え?そんなのザラ家の名前を出したからに決まってるじゃないですか」
「調子がいいな」
「いやー、流石、世界に名の聞こえたザラ家ですねぇ。ふたつ返事とはいきませんでしたが、すぐに了承をいただけましたよ」
「そこはもっと悔しがってもいいところだろ」
「いやいや、ザラ家と張り合うなんて烏滸がましい。そこまで厚顔無恥じゃありません」
経済人としてウチを抜くくらいの構えじゃないと駄目だ、と言いかけてやめた。本気を出されたらこちらもうかうかしていられなくなる。そうなったらなったで受けて立つのも吝かではないが、わざわざ寝た子を起こすほどアスランもお人好しではない。
「やっぱりアスランも会ってみるに値する人物だと思いましたか?」
話題がギルバート・デュランダルへと移って、ザラ家で集めた資料をざっと思い出す。
「商才があると思ったのが、一番大きいな」
一見扱う商品に拘りはなさそうだが、綿密に計算されてのものだと分かる。商才があるというのは貴重だ。もっと会社を大きくすることも可能だろうに、それでもこの規模なのは、本人の意思だろうか。




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