味方




しかも話の流れで(誓って意図したわけではない)ザラ家の総帥の座を継ぐファクターとして、キラの存在が大きく関わってくるような感じになってしまった。本音を言えばパトリックがキラを気に入るか入らないかに関わらず、アスランには自力で総帥の座を奪い取る自信があるのだが。
それを伝えたとて、キラの気休めになるとは思えない。
(それに例え気を抜いていたとしても、キラが父上の目にとまらないなんてないだろうからな)
だから少し狡いが余計なことは伝えないことにする。


色々と頭の中で先のことを計算したアスランは、ここは一先ず譲歩するのが最適だと判断した。
「分かった。そこはお前のペースに合わせるよ。まずは一歩ずつ、ってことでいいな」
「………そうしてくれると、有難いよ」
この僅かなやり取りで、キラは一気に疲れてしまったようだ。

丁度のタイミングでホムラが扉を開けたのだが、憔悴し切った表情を向けたキラに驚いて、ちょっとした騒ぎになったほどだった。




◇◇◇◇


そんなことがあって10日ほどが経った頃、ニコルがアスランを訪ねて来た。

上機嫌であることが一目で分かるほくほく顔だ。彼がこんなあからさまに感情筒抜けな表情なのは珍しい。
「随分楽しそうだな。いいことでもあったのか?」
予想はついていたが、敢えて惚けてみる。しかし流石はニコルだ。そんなものに煽られる様子は皆無だった。
「おや、僕が機嫌がいい理由も予測がつかないとか。飛ぶ鳥を落とす勢いのザラ家次期総帥が。もしかしてすっかり恋愛脳になっちゃったんですか?」
嫌みをたっぷり携えた見事な返しに、アスランは早々に両手を上げて降参する。
「例の画廊の件に手応えがあったんだな」
「そうなんです!ちょっとこれ、見て下さいよ!!」
一瞬火花が散った空気などまるでなかったかのように、ニコルは勢い込んでアスランの執務机に手にしていた書類の束を広げた。雑多な紙の中からアスランは的確に契約に関する書類を拾い上げる。
「先に色好い返事はもらってたんですけど、一応アスランも関係してましたから。書面に起こせたんで見てもららおうと持って来ました」
アスランの手にした書類はビンゴだったようで、一番気になっていた資金面のアレコレが一目で解るように記されたものだった。画廊にと目している場所は立地が良過ぎるため地代がネックになっていたのだが、そこはデュランダルが紹介してくれた複数の画商のお眼鏡にかなえば、無名の作品も買い取ってくれる算段を取り付けることで解消されている。それだけで全て賄えるとは言い切れないが、資金面については最初から想定しての計画なのであまり問題ではない。しかも──
「気に入った作家がいれば、展示以外の作品も買い取ることも視野に入ってるのか」
「そうなんです。心強いですよね」
「ふーん…」
既に目をかけられている作家もいるようで、それほど見通しは悪くなさそうだ。勿論、全て鵜呑みにするわけにも行かないだろうが。
「俺たちも絵について勉強する必要がありそうだな」
「ええ。門外漢なんて言ってられません」
この先はビジネスが絡んでくるので、“知らない“”分からない”ではお話にもならない。
「こちらが画廊の見取り図で、この辺が宣伝方法に関する書類です」
で、こちらが出展作品リストです、と次々と並べられた。サッと見た感じではこちらも問題はなさそうだった。
「いいんじゃないか?進めてみても」
「ですよね!」
父親に頼らず新しい事業を始められるのが余程嬉しいらしい。音楽に特化しているアマルフィ家だが今後は絵画方面でも名を馳せていくのかもしれない。数年、下手すれば数十年単位の話だが、最初の一歩としては上々だ。


流石、アマルフィ家の次期当主。過不足なく立てられた企画書に満足しつつ、アスランは自分にも伝えておかなければならない案件があったことを思い出した。
「ああ、そうだ。お前らには先に伝えとく」
「何ですか?そう改めて言われると身構えちゃうんですけど──」
と言いながらも、ニコルは多くの書類の中から、アスランに見せておきたい物を選別している。だからアスランもサラッと告げた。
「キラと結婚するから」
「え…」
“身構える”とは言ったものの禄に聞いていなかったのか、それとも爆弾発言をあまりにも普通に言われての驚きか。ニコルは即座に手元から顔を上げ、まともにアスランを見た。そして別段気負った様子のないアスランに今度こそ目を大きく見開く。
それからきっちり一秒後、部屋をつんざくニコルの大声が響いたのだった。



「えええー!それこの流れで言っちゃっていいことなんですか!?」







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