味方
・
そしてキラならばあるいは、とも思った。
パトリックとキラがまともに顔を合わせたのは、最初の顔合わせの時だけだ。当然“アスハ家の人間”としか見ていないだろうし、キラの人となりなど知ろうともしていなかった。
しかしキラという一個人を少しでも知れば、パトリックも考えを変えるかもしれない。自分がそうだったように。
認めたくないが、パトリックと自分は似ているのだから。
だったら───
「なら、俺はその間、準備しておく」
「準備?」
きょとんとするキラに肩透かしを食らった。
「いやいや、まさか結婚式もしないつもりか?」
「けっ、こん…しき!?」
あーこれ、想像もしてなかったな、とアスランは苦笑した。
「そっちの親族は気にしなくても良さそうだが、こっちはそうはいかないんだよな。俺、仮にもザラ家次期総帥だし、今のところそれを放棄する予定もない。その俺が結婚したことを内外に示すには式を挙げて披露宴を開くのが手っ取り早いんだ。多少は盛大になるだろうが、グループ会社のホテル部門を使うから、費用は実費だけで済む。あ、後、ザラ家がグループ企業を手放すことはないけど、出来るだけ早く父上には総帥の座から退いて貰うつもりだから」
「───、待って。情報量が多過ぎてついてけない…」
キラは上半身をヘタリとベッドに倒した。しかし頭の中は目まぐるしく働いているのだろう。
「それって、お父さんに代わってきみが総帥になるって意味だよね」
衝撃を受けた“結婚式”ではなく、そちらの方が気になったのは何とも心強い。
アスランは満足げな笑みを隠すように椅子の背に体重を預け、天井を仰いだ。「“いずれ”が具体的な時期になっただけだ。勿論一筋縄でいく相手だとは思わないが、全く勝算がないわけでもない」
そして意味深な視線をキラに向けてくる。
「その勝算には僕の存在も入ってる?」
「当たり前だろ。入ってるどころか最も重要なファクターだな」
「いや、僕はただパトリック氏にご挨拶したいって思っただけで…」
「本当にそれだけで済むなんて甘いことも考えてないだろ?」
「──それは、まぁ…」
「なんだ、急に弱気だな。お前が言い出したんだぞ」
「そうだけど、まさか総帥の座がかかってくるなんて!」
「敵陣に乗り込むんだから、そのくらいの覚悟は必要だろ」
アスランの言うことは尤もだ。
分かっているがあっさりと認めるにはハードルが高過ぎる。
はっきりと言葉には出来ないが、まだゴニョゴニョと苦情を並べるキラの手を、アスランは力強く握った。
「ずっと言わなきゃなって思ってた。俺はこの先ずっとお前を諦めるつもりはない。だがそれは絶対に父上の反対を受ける。お前に会ってもまだ父上が考えを変えないなら、退いてもらうしかない。そうだろ?」
「だから、そういうのが重いんだってば!」
自分がパトリックに認められなければ、総帥の座を奪い取ると言っているのだ、アスランは。
しかしアスランは妙に楽しそうだった。
「そう気負わなくていい。どんな結果になってもお前のせいにしたりしない。お前の印象がどうであれ、父上を追い落とせなかったら、それは全て俺の力不足だからな。尤もお前を認めない総帥なんか、その座に居座っても先は知れてるが」
「きみは僕を買い被り過ぎてる」
「そうか?」
ニコルやディアッカ、イザークまでもあっという間に味方につけておいて、それはないとアスランは確信している。情けないが自分ひとりの感覚なら疑いもするが、彼らの目まで誤魔化せるわけがない。彼らにはキラを認めなければならない理由がないのだから。
しかも会って間もないデュランダルまでがキラを気に入っている。
場違いだとは思っても、アスランはなんだかワクワクしてきた。
「なんならその“ご挨拶”とやらの日程も今決めておくか?」
「そんなの無理に決まってるでしょ!?少なくともアスハ家の問題が片付いてからの話だよ!」
「いつまでもダラダラやっててもしょうがない。目標があった方がいいんじゃないか?」
「~~~~っ!」
全く、アスランの言うことには一理もニ理もあり過ぎて、キラは言葉を失った。アスハ家の解体にあたって、影響を受ける人々にとっては、早く片付くに越したことはないのは当然だ。
だが簡単に承諾するには抵抗があった。
「デュ・デュランダルさんに依頼した仕事に目処が立ってから、じゃ駄目かな?」
アスランは僅かに首を傾げて熟考した。
ここで無理強いして折角“パトリックに会おう”というキラの決心が鈍ってしまっては元も子もない。キラはずっと人の上に立つ人間の世界とは縁のないところで生きてきた。多少は“場馴れ”したようだが、解体するためになったアスハ家の当主と、ザラ家総帥のパートナーとでは背負うものが違い過ぎて躊躇するのも無理ないだろう。
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そしてキラならばあるいは、とも思った。
パトリックとキラがまともに顔を合わせたのは、最初の顔合わせの時だけだ。当然“アスハ家の人間”としか見ていないだろうし、キラの人となりなど知ろうともしていなかった。
しかしキラという一個人を少しでも知れば、パトリックも考えを変えるかもしれない。自分がそうだったように。
認めたくないが、パトリックと自分は似ているのだから。
だったら───
「なら、俺はその間、準備しておく」
「準備?」
きょとんとするキラに肩透かしを食らった。
「いやいや、まさか結婚式もしないつもりか?」
「けっ、こん…しき!?」
あーこれ、想像もしてなかったな、とアスランは苦笑した。
「そっちの親族は気にしなくても良さそうだが、こっちはそうはいかないんだよな。俺、仮にもザラ家次期総帥だし、今のところそれを放棄する予定もない。その俺が結婚したことを内外に示すには式を挙げて披露宴を開くのが手っ取り早いんだ。多少は盛大になるだろうが、グループ会社のホテル部門を使うから、費用は実費だけで済む。あ、後、ザラ家がグループ企業を手放すことはないけど、出来るだけ早く父上には総帥の座から退いて貰うつもりだから」
「───、待って。情報量が多過ぎてついてけない…」
キラは上半身をヘタリとベッドに倒した。しかし頭の中は目まぐるしく働いているのだろう。
「それって、お父さんに代わってきみが総帥になるって意味だよね」
衝撃を受けた“結婚式”ではなく、そちらの方が気になったのは何とも心強い。
アスランは満足げな笑みを隠すように椅子の背に体重を預け、天井を仰いだ。「“いずれ”が具体的な時期になっただけだ。勿論一筋縄でいく相手だとは思わないが、全く勝算がないわけでもない」
そして意味深な視線をキラに向けてくる。
「その勝算には僕の存在も入ってる?」
「当たり前だろ。入ってるどころか最も重要なファクターだな」
「いや、僕はただパトリック氏にご挨拶したいって思っただけで…」
「本当にそれだけで済むなんて甘いことも考えてないだろ?」
「──それは、まぁ…」
「なんだ、急に弱気だな。お前が言い出したんだぞ」
「そうだけど、まさか総帥の座がかかってくるなんて!」
「敵陣に乗り込むんだから、そのくらいの覚悟は必要だろ」
アスランの言うことは尤もだ。
分かっているがあっさりと認めるにはハードルが高過ぎる。
はっきりと言葉には出来ないが、まだゴニョゴニョと苦情を並べるキラの手を、アスランは力強く握った。
「ずっと言わなきゃなって思ってた。俺はこの先ずっとお前を諦めるつもりはない。だがそれは絶対に父上の反対を受ける。お前に会ってもまだ父上が考えを変えないなら、退いてもらうしかない。そうだろ?」
「だから、そういうのが重いんだってば!」
自分がパトリックに認められなければ、総帥の座を奪い取ると言っているのだ、アスランは。
しかしアスランは妙に楽しそうだった。
「そう気負わなくていい。どんな結果になってもお前のせいにしたりしない。お前の印象がどうであれ、父上を追い落とせなかったら、それは全て俺の力不足だからな。尤もお前を認めない総帥なんか、その座に居座っても先は知れてるが」
「きみは僕を買い被り過ぎてる」
「そうか?」
ニコルやディアッカ、イザークまでもあっという間に味方につけておいて、それはないとアスランは確信している。情けないが自分ひとりの感覚なら疑いもするが、彼らの目まで誤魔化せるわけがない。彼らにはキラを認めなければならない理由がないのだから。
しかも会って間もないデュランダルまでがキラを気に入っている。
場違いだとは思っても、アスランはなんだかワクワクしてきた。
「なんならその“ご挨拶”とやらの日程も今決めておくか?」
「そんなの無理に決まってるでしょ!?少なくともアスハ家の問題が片付いてからの話だよ!」
「いつまでもダラダラやっててもしょうがない。目標があった方がいいんじゃないか?」
「~~~~っ!」
全く、アスランの言うことには一理もニ理もあり過ぎて、キラは言葉を失った。アスハ家の解体にあたって、影響を受ける人々にとっては、早く片付くに越したことはないのは当然だ。
だが簡単に承諾するには抵抗があった。
「デュ・デュランダルさんに依頼した仕事に目処が立ってから、じゃ駄目かな?」
アスランは僅かに首を傾げて熟考した。
ここで無理強いして折角“パトリックに会おう”というキラの決心が鈍ってしまっては元も子もない。キラはずっと人の上に立つ人間の世界とは縁のないところで生きてきた。多少は“場馴れ”したようだが、解体するためになったアスハ家の当主と、ザラ家総帥のパートナーとでは背負うものが違い過ぎて躊躇するのも無理ないだろう。
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