味方
・
しかしそんなキラよりもアスランの方が不思議そうな表情だった。
「確かに急にあてにしてた後継者がいなくなるのは困るかもしれないが…。あの人の周りは優秀な人材の宝庫だ。本格的に仕事を手伝い出したから良く分かる。俺が駄目ならすぐに新しい後継者の一人や二人、候補は上がるんじゃないかな」
「僕が言ってるのはそういう意味じゃないよ!」
「ん?」
強がりではないのか、アスランは本当にキラの言いたいことが分からないらしい。あまりにも反応が意外過ぎて、キラは自分の主張の方が間違っているんじゃないかと不安になるほどだった。
「仕事とか後継者とかじゃなくてさ、パトリック氏はきみのお父さんだよ?あの…気を悪くしたらごめんね。僕だってウズミさまとは一般的な“親子”とは違うかもだけど、少なくとも母親は慈しんでくれた。だから親が子供の心配をするのは当たり前だと思ってるんだけど」
「ああ、そういう話しか。ならキラが気に病むことはないぞ。父上は俺が誰かに傷つけられても、先に自分を有利な立場に持って行く条件にするって方向へ考える。俺の怪我の状態や程度を心配するのは、後回しだろうな」
「そんなことは!」
「ほんとにさ。俺も今さらそういう“家族愛”なんか期待してないし、持ち出されても困惑するだけだ。別に卑下してるんじゃないぞ。俺だって父上がそんな事態に陥っても、まずは仕事に結びつけるだろうからな」
アスランがそう言うのなら、それ以上キラがとやかく口を挟むものではない。そもそも“一般的な”という言葉を使ったが、家族関係など千差万別なのだから。
だがアスランはそれで寂しくないのだろうか。
「もしかして同情してるのか?」
「…───言葉を選ばないなら、そうなんだろうね」
生い立ちのアレコレを知られて、“可哀想”だと同情されるなど、真っ平ごめんだ。それはキラが常に思っていることで、だからこそ親しい友人など作らなかった。希薄な人間関係は、アスハ家の血縁を隠すのが一番の理由だったが、安い同情の目を向けられないためでもあった。上辺だけの付き合いならば育ちなど知られることもない。
キラはちゃんと母に慈しんでもらえた。虚勢ではなく、それで充分なのだから。
踏み込み過ぎたかとこっそりアスランの様子を伺う。しかしアスランからはやっぱりキラの想像とは違う反応が返って来た。
「キラから与えられるなら、同情でもなんでも嬉しいよ」
「強がり──じゃなさそうだね」
「さっきも言ったように俺とあの人の親子関係は、これでいいんだよ。話し合ったってわけじゃないが、お互い納得してる。これからも変わらないだろうな。けどそれでもキラは色々考えちゃうんだろ?」
「…………」
「俺のことを気にかけてくれてる証明みたいなもんだと思えば、俺が嬉しくないはずがない」
「調子にのらないで。ちょっと!やめてよ、その顔!」
ふと見れば、アスランはニヤニヤとヤニ下がった表情だ。アレコレと考えていた思考が一気に吹き飛んだ。
「ありがとな」
「ふん!」
アスランのことだから気になるのだ。人付き合いの悪いキラが他人をそこまで慮ったりしないのはアスランにだって分かっている。だからそこを指摘されたら認めざるを得ないのだが、素直になれないキラは外方を向くしかなかった。
「…………、諦めずにいれば、いつかは叶うものなんだな」
やがて呟かれた染々とした言葉に、同じことを考えていたのだとキラの顔に更に熱が集中する。
「でも、僕は…」
「おいおい、まだ言うか」
本当は未だアスランの自分に対する感情が変わってないと知って、嬉しくて仕方ないのだ。だがすぐに掌を返せるほど厚顔無恥にもなれなかった。
しかし落ち着きなく膝に置いた拳を開いたり閉じたりしているのを見て、アスランは後一押しだと確信した。
「俺と一緒に歩く未来には、想像も出来ない大変な局面が何度も訪れると思う。もしも今、キラが俺に負い目を持ってるなら、これから先の苦労への先払いだったんだと考えられないか?」
「──なにそれ、怖いんだけど」
あくまでも素直でないリアクション。それでも否定はされなかったことに安堵する。
自信がなかったわけではないが、これでも心配していたのだ。本人に自覚はないようだが、キラには他人を惹き付ける魅力がある。アスランにとって幸運だったのは、キラが自身の都合によって交遊関係を制限してきたことで、実際会ったことのあるキラの知り合いはあのレイという男くらいだった。だがそのたった一人さえキラに並々ならぬ好意を抱いていた。キラがその想いを断って時間が経った後でも、力になりたいと養い親であるデュランダルを紹介するくらいだ。想いは半端なものでないだろう。
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しかしそんなキラよりもアスランの方が不思議そうな表情だった。
「確かに急にあてにしてた後継者がいなくなるのは困るかもしれないが…。あの人の周りは優秀な人材の宝庫だ。本格的に仕事を手伝い出したから良く分かる。俺が駄目ならすぐに新しい後継者の一人や二人、候補は上がるんじゃないかな」
「僕が言ってるのはそういう意味じゃないよ!」
「ん?」
強がりではないのか、アスランは本当にキラの言いたいことが分からないらしい。あまりにも反応が意外過ぎて、キラは自分の主張の方が間違っているんじゃないかと不安になるほどだった。
「仕事とか後継者とかじゃなくてさ、パトリック氏はきみのお父さんだよ?あの…気を悪くしたらごめんね。僕だってウズミさまとは一般的な“親子”とは違うかもだけど、少なくとも母親は慈しんでくれた。だから親が子供の心配をするのは当たり前だと思ってるんだけど」
「ああ、そういう話しか。ならキラが気に病むことはないぞ。父上は俺が誰かに傷つけられても、先に自分を有利な立場に持って行く条件にするって方向へ考える。俺の怪我の状態や程度を心配するのは、後回しだろうな」
「そんなことは!」
「ほんとにさ。俺も今さらそういう“家族愛”なんか期待してないし、持ち出されても困惑するだけだ。別に卑下してるんじゃないぞ。俺だって父上がそんな事態に陥っても、まずは仕事に結びつけるだろうからな」
アスランがそう言うのなら、それ以上キラがとやかく口を挟むものではない。そもそも“一般的な”という言葉を使ったが、家族関係など千差万別なのだから。
だがアスランはそれで寂しくないのだろうか。
「もしかして同情してるのか?」
「…───言葉を選ばないなら、そうなんだろうね」
生い立ちのアレコレを知られて、“可哀想”だと同情されるなど、真っ平ごめんだ。それはキラが常に思っていることで、だからこそ親しい友人など作らなかった。希薄な人間関係は、アスハ家の血縁を隠すのが一番の理由だったが、安い同情の目を向けられないためでもあった。上辺だけの付き合いならば育ちなど知られることもない。
キラはちゃんと母に慈しんでもらえた。虚勢ではなく、それで充分なのだから。
踏み込み過ぎたかとこっそりアスランの様子を伺う。しかしアスランからはやっぱりキラの想像とは違う反応が返って来た。
「キラから与えられるなら、同情でもなんでも嬉しいよ」
「強がり──じゃなさそうだね」
「さっきも言ったように俺とあの人の親子関係は、これでいいんだよ。話し合ったってわけじゃないが、お互い納得してる。これからも変わらないだろうな。けどそれでもキラは色々考えちゃうんだろ?」
「…………」
「俺のことを気にかけてくれてる証明みたいなもんだと思えば、俺が嬉しくないはずがない」
「調子にのらないで。ちょっと!やめてよ、その顔!」
ふと見れば、アスランはニヤニヤとヤニ下がった表情だ。アレコレと考えていた思考が一気に吹き飛んだ。
「ありがとな」
「ふん!」
アスランのことだから気になるのだ。人付き合いの悪いキラが他人をそこまで慮ったりしないのはアスランにだって分かっている。だからそこを指摘されたら認めざるを得ないのだが、素直になれないキラは外方を向くしかなかった。
「…………、諦めずにいれば、いつかは叶うものなんだな」
やがて呟かれた染々とした言葉に、同じことを考えていたのだとキラの顔に更に熱が集中する。
「でも、僕は…」
「おいおい、まだ言うか」
本当は未だアスランの自分に対する感情が変わってないと知って、嬉しくて仕方ないのだ。だがすぐに掌を返せるほど厚顔無恥にもなれなかった。
しかし落ち着きなく膝に置いた拳を開いたり閉じたりしているのを見て、アスランは後一押しだと確信した。
「俺と一緒に歩く未来には、想像も出来ない大変な局面が何度も訪れると思う。もしも今、キラが俺に負い目を持ってるなら、これから先の苦労への先払いだったんだと考えられないか?」
「──なにそれ、怖いんだけど」
あくまでも素直でないリアクション。それでも否定はされなかったことに安堵する。
自信がなかったわけではないが、これでも心配していたのだ。本人に自覚はないようだが、キラには他人を惹き付ける魅力がある。アスランにとって幸運だったのは、キラが自身の都合によって交遊関係を制限してきたことで、実際会ったことのあるキラの知り合いはあのレイという男くらいだった。だがそのたった一人さえキラに並々ならぬ好意を抱いていた。キラがその想いを断って時間が経った後でも、力になりたいと養い親であるデュランダルを紹介するくらいだ。想いは半端なものでないだろう。
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