再会




最後に会ってからそれほど年月が経ったわけではないから、風貌が変わるなんてあり得ないが、記憶の中の彼よりも頬のラインがシャープになっているように思う。長かった髪を切って尚且つ纏めているからだろうか。まだあどけなさを残していたあの頃の後輩に負けた気がして、なんだか悔しくさえなった。
「お久し振りです。俺のこと、覚えてますか?」
静かに話しかけられて、元々落ち着いた性格だったのを思い出す。
「あ、当たり前だよ。え?あれ、仲介者って……まさかきみってことなの?」
ワタワタと立ち上がり歩み寄るキラに、レイは微笑んで浅く頷いた。
「貴方と会わなくなった後も、実は折に触れて動向を辿ってたんです。すいません」
「謝ることなんかないよ。別に隠しておくものなんかない」
最初の衝撃が去ったのか、キラはふんわりと笑った。
「久し振りだね、レイ。元気だった?」
キラを取り巻く大多数の“他人”には決して向けられることのない柔らかな空気。意図してやっているわけではないのだろうが、この特別感が、自分はキラの懐に入れてもらっているのだと実感出来て、レイはらしくなく気分が高揚するのを感じた。
もうキラを手に入れたいという激しい感情ではなくなっていても、やっぱり好きなのだろう。

「有難うございます。先輩もお元気そうで」
「元気だよ。身体はね。動向を辿ってたなら知ってるだろうけど、当主としてはまだまだ勉強が足りなくて、周りの人たちには迷惑をかけっぱなしで、それが心苦しいくらいかな」
「先輩は優秀ですから。そう根を詰めなくてもすぐ立派に勤まるようになりますよ。ああ、でも真面目が過ぎて、自分を顧みずに詰め込みそうで心配です」
当たっている。疲労がピークを迎えていて、アスランの顔を見た瞬間、気が抜けて倒れてしまったのを思い出した。それから多少セーブするようになったのは、本当に情けないと後悔したからだ。

苦い記憶を振り切るように、キラはレイに椅子を勧め、改めてテーブル越しに三人が顔を合わす。
「えーと…。それで何できみが?」
キラはデュランダルとレイを交互に見た。
「貴方の動向を辿っていたって言ったでしょう?貴方がアスハ家秘蔵の骨董品の買い手を探していると耳にしましたたので力になれるかな、と」
「不躾でごめんね。この方ときみって?」
「身内のようなものです。養い親、とでも言いますか」
「おいおい。親というのは酷くないか。私はそんな歳じゃないぞ」
「似たようなものでしょう?事実、俺がなに不自由なく生活出来るのは、貴方のお陰です」
「だったらもっと甘えてくれてもいいんだぞ?」
「それは遠慮します」
内容には付いて行けなかったものの、流れるようなやり取りの応酬に、二人が普段から親密な仲であるのは分かる。ひょっとして兄弟なのかとも思ったが、二人の容姿に共通点は皆無で、結論付けるには座りが悪かった。しかしこれ以上の詮索は余りにもプライベート過ぎて、流石に憚られる。
キラはアスハ家の骨董品を売って金に代えたかっただけだし、任せる相手がレイの紹介であり、信用に足ると分かれば充分だった。

子供扱いされて心底嫌そうな顔をしたレイは、デュランダルとの会話を強制終了させるとキラに向けて言った。
「と、いうわけなんで、この人の身元は俺が保証します」
「いや、別にそこを疑ってたんじゃ──…、ああ、うん。でも安心はしたかな」
キラは咄嗟に否定しかけて、取り繕うのをやめた。
降って湧いたこちらに都合の良過ぎる商談だ。何か裏があるのではと疑ったのは確かだから。
曖昧になってしまった相づちをレイがどう受け取ったのか、彼の落ち着いたアイスブルーの瞳が更に静けさを増した。
「ちょっと込み入った話なんですが。俺の両親は不慮の事故で他界してまして。彼は俺の実母の友人の息子なんです。その縁で昔から家族ぐるみの付き合いがありました。血縁者ではありませんが、突然天涯孤独になってしまった俺を、放っとけなかったんでしょうね。以来付かず離れずで助けてもらってます」
「────、そうだったの」
家族を喪う辛さはキラにも理解出来る。すっかり肩を落としてしまったキラに、レイはフォローするように微笑んだ。
「俺が勝手に始めた身の上話なんで、先輩が気に病むことはありませんよ。もう10年も前の話ですから気持ちの整理もとっくに済んでます。なんで義務もないのにこの人が俺の面倒をみてくれてるのかは、未だに謎のままなんですけど」
わざと茶化して、レイは再びデュランダルに話を振った。



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