衝撃




別にラクスに知られても不都合はない。隠していたわけではなくて、話す必要がなかっただけだ。
ただ何となく照れ臭い。
「違いますわよ」
と、またラクスが脈絡ない言葉を発した。
「わたくしがその方の話をしたのは、イザークとですわ」
「…────もう、誰だっていいですよ」
アスランは額を押さえて肩を落とした。
ということはイザークも口には出さないだけで、キラを可愛いと思っているということか。取り澄ました顔をして、油断ならない奴だと悪態をつきたくなった。
それでも仲間の名前が出たからだろうか。アスランの頭も漸くまともに回転を始めてくれた。
「あら、お認めになりますのね」
「今更でしょう」
「わたくし、その方に興味を持ちましたの。なんと言っても誰にも落とせないと評判の貴方の心を、手にした方ですもの。一見の価値ありですわ」
まるで珍獣扱いだ。加えてラクスがどんな立ち位置なのか、アスランには一生解りそうになかった。
「えーと…イザークにどこまで聞いたか知りませんが、貴女も話には聞いてるでしょう?俺の元婚約者ですよ」
するとラクスは腑に落ちないと言わんばかりに首を傾げた。
「その方でしたらお見かけしたことがありますわ。とても快活でいらっしゃって、──ですが…失礼ながら、イザークの話とは少々イメージが」
「ああ…そっちじゃなくて、その前です」
「前?」
「公にはなりませんでしたが、俺には彼女の前に許婚者がいたんです」
「まあ、そうでしたの」
「出会いは最悪でしたが、色々ありまして。まぁ段々お互いを認め合うようになったと言うか…」
「────」
ふとアスランが我に返ってラクスを見ると、観察するような目を向けられていた。
「あ、いや。これは──」
喋り過ぎたかとゴニョゴニョと濁したアスランに、ラクスは会心の笑みを浮かべた。
「本当に愛してらっしゃるのですね。その方のこと」
「あ・愛……って!」
真っ赤になるアスランなど、誰が想像しただろう。しかし普段ポーカーフェイスで澄ましているから忘れそうになるが、アスランだって同年代の男である。本気で怒ることもあれば、悲しむことだってあるはず。
今のように感情のコントロールが利かない時があって当たり前なのだ。

ラクスは妙に楽しくなって来て、アスランの意外な一面をもう少し突っつきたくなった。
「それともご自分ではお気付きになってらっしゃらないのかしら?わたくしもそれなりに長いお付き合いだと思いますが、その方のことを語る時の貴方の幸せそうなお顔、初めて見せて頂きましたわ」
「──────っ!!」
咄嗟に片手で顔を覆ったアスランは、人目がなければその場にへたり込んでいただろう。よりにもよってこんな惚気をラクス相手にと、顔から火を噴きそうだった。
揶揄かいが成功したラクスは内心で手を叩きつつ、うっとりと呟いた。
「ああ、増々お会いしたくなりましたわ。きっと素敵な方なのでしょうね」
「…………ええ。俺にとってはこれ以上ない最高の相手です」
ラクスの台詞に触発されて、キラの様々な顔が脳裏に浮かぶ。今すぐあの華奢な身体を抱き締めたいと握った拳に力が入る。

まさかすぐ側に求める相手が居るとも知らずに。



「そう言えば……先ほど妙なことを仰ってましたね」
意識的にキラのことを考えないようにしながら、アスランは話の矛先を変えた。いくら抱き締めたいと思っても、側にキラが居ないのではどうしようもない。
目を丸くしたラクスに、余りに突飛過ぎたかと慌てて言い添える。
「俺がこういう場所に来るのを嫌がるとか、仰ってたでしょう?」
「ああ」
質問の意味が伝わったのか、ラクスは小さく手を打った。
「このパーテイの趣旨の話ですね」
「趣旨?」
それなら分かり切っている。
さっきもラクスと交わした遣り取りだ。新興企業同士が連携を持てる場であり、自分たちは箔づけのために呼ばれただけ。
「表向きはビジネスのためのパーティですし、わたくしたちが客寄せパンダであることに間違いありませんけれど、それにしては少々妙齢の女性が多いとは思いませんか?」
アスランが気付かなかったのも無理はない。なにしろ何処へ行っても女に囲まれたし、抜け出す隙ばかり伺っていたのだから、不自然に思う暇はなかった。
「実はわたくしを始め、お集まりの女性たちは、貴方のお父上──パトリック氏に招待を受けておりますの」
「は!?」
らしくなく、大声が出た。
何度目かになる周囲の注目を浴びることとなったが、構ってる場合ではなかった。
「それはどういう──」
畳み掛けるような質問に、本当に何も聞かされてなかったのかと、ラクスは気の毒になった。
あれほど心に決めた相手がいるアスランだ。前もって聞かされていたら、きっと絶対に拒否したに違いない。

「このパーティには貴方のお相手を見繕うという趣旨もある、ということです」




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