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しかしアスランとて、生半可な気持ちで決断したわけではない。
不安の色濃い彼らの顔を一巡すると、笑みを不敵なものに変えて言い切った。
「キラだってやってるんだ。俺にやれないことはないだろ」
これまで得てきた仲間たちの協力はもう期待出来ない。仮にパトリックに勝てたとしても、その後背負うものの重さは想像を絶するだろう。一度背負ってしまえば、もう下ろすことは許されず、戦いは形を変えて永遠に続いて行くのだ。
イザークが指摘したような不安は勿論、未知なる部分へ踏み込む恐怖も、アスランにとっては小さくなかった。
それでもキラを諦める選択肢など存在しない。
「いーんじゃねーの」
長い沈黙を破ったのは、やはりディアッカの軽い口調だった。
「姫さんだってあのややこしい連中のトップに立ってるんだ。お前と目指す場所は違ってるかもしんねーが、俺は…なんつーの?刹那的?そういう感じは、嫌いじゃないな。欲しいものを目の前にぶら下げられて、形振り構っちゃいられねーし、ここでビビってちゃ男が廃るってもんだ」
しかし口調は軽くても、ディアッカの表情は真剣そのものだった。彼とてアスランの進む道が蕀の道であることを分からないわけではない。だからこそ未だ諸手を上げて賛成とはいかないイザークとニコルには、無理もないかと苦く笑った。
「ま、俺らが出来るのは精々助言くらいのもんだけどよ。結局最後に頼れんのは自分だけなんだから、そういう意味じゃあんま変わんねーだろ?」
その言葉は「相談ならいつでも乗ってやる」と暗に示していて、アスランは不覚にも胸が温かくなるのを感じた。彼らは間違いなくアスランの味方で、信頼に足る幼馴染みなのだと、かつてキラが言ってくれたことを改めて実感した。
「…そうだな。だがまさかディアッカに背中を押される日が来るとは、流石に複雑な気分だ」
「お前、俺のこと何だと思ってんだ」
そぐわない茶番じみたやり取りが、彼らの意図したものであると汲み取れないニコルでもイザークでもなかった。
「しょうがないですね。その代わり、キラさんを絶対手放しちゃ駄目ですよ。あんないい人、この先アスランの前に現れないでしょうから」
張り詰めた息を吐き出すように茶番に乗ったニコルの台詞を受けて、イザークも肩の力を抜いた。
「だらしないな、アスラン・ザラ。ディアッカごときに舌を巻くんじゃ、先々思いやられるぞ」
「イザーク…。俺も一応エルスマン家の次期トップなんだが」
額を押さえたディアッカが、あからさまにガックリと項垂れると、ニコルが堪らないとばかりに噴き出した。
「あははっ!これで将来のジュール家とエルスマン家の力関係、見えちゃいましたね!」
「いや、それ全然笑えねーから!」
すぐにアスランが笑い出し、年長組も釣られると、場は一気に明るいものに変わった。誰もが腹の底から湧く不思議な熱を感じていた。
「―――ということだ、アスラン」
一頻り笑い合った後、イザークがガラリと雰囲気を変え、真っ直ぐにアスランを見て纏めにかかった。
「お前が決めたのなら、俺たちに止める権利はないし、多分、充分には助けてもやれない。ここからはお前ひとりの戦いになるぞ。それでも進むんだな」
ニコルとディアッカの暖かい視線を心強く感じながら、重々しくアスランは頷いた。現時点では保証が出来ないだけであって、きっと彼らはここぞという時には力になってくれる。
甘えなどという安っぽい感情などではなく、これはもう確信だった。彼らはアスランにとって、信頼を置くに値する人物だ。
「ああ。やると決めたからには、必ず勝ち取ってみせるさ」
それは、アスランの口許に、久々に不適な笑みが戻った瞬間だった。
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しかしアスランとて、生半可な気持ちで決断したわけではない。
不安の色濃い彼らの顔を一巡すると、笑みを不敵なものに変えて言い切った。
「キラだってやってるんだ。俺にやれないことはないだろ」
これまで得てきた仲間たちの協力はもう期待出来ない。仮にパトリックに勝てたとしても、その後背負うものの重さは想像を絶するだろう。一度背負ってしまえば、もう下ろすことは許されず、戦いは形を変えて永遠に続いて行くのだ。
イザークが指摘したような不安は勿論、未知なる部分へ踏み込む恐怖も、アスランにとっては小さくなかった。
それでもキラを諦める選択肢など存在しない。
「いーんじゃねーの」
長い沈黙を破ったのは、やはりディアッカの軽い口調だった。
「姫さんだってあのややこしい連中のトップに立ってるんだ。お前と目指す場所は違ってるかもしんねーが、俺は…なんつーの?刹那的?そういう感じは、嫌いじゃないな。欲しいものを目の前にぶら下げられて、形振り構っちゃいられねーし、ここでビビってちゃ男が廃るってもんだ」
しかし口調は軽くても、ディアッカの表情は真剣そのものだった。彼とてアスランの進む道が蕀の道であることを分からないわけではない。だからこそ未だ諸手を上げて賛成とはいかないイザークとニコルには、無理もないかと苦く笑った。
「ま、俺らが出来るのは精々助言くらいのもんだけどよ。結局最後に頼れんのは自分だけなんだから、そういう意味じゃあんま変わんねーだろ?」
その言葉は「相談ならいつでも乗ってやる」と暗に示していて、アスランは不覚にも胸が温かくなるのを感じた。彼らは間違いなくアスランの味方で、信頼に足る幼馴染みなのだと、かつてキラが言ってくれたことを改めて実感した。
「…そうだな。だがまさかディアッカに背中を押される日が来るとは、流石に複雑な気分だ」
「お前、俺のこと何だと思ってんだ」
そぐわない茶番じみたやり取りが、彼らの意図したものであると汲み取れないニコルでもイザークでもなかった。
「しょうがないですね。その代わり、キラさんを絶対手放しちゃ駄目ですよ。あんないい人、この先アスランの前に現れないでしょうから」
張り詰めた息を吐き出すように茶番に乗ったニコルの台詞を受けて、イザークも肩の力を抜いた。
「だらしないな、アスラン・ザラ。ディアッカごときに舌を巻くんじゃ、先々思いやられるぞ」
「イザーク…。俺も一応エルスマン家の次期トップなんだが」
額を押さえたディアッカが、あからさまにガックリと項垂れると、ニコルが堪らないとばかりに噴き出した。
「あははっ!これで将来のジュール家とエルスマン家の力関係、見えちゃいましたね!」
「いや、それ全然笑えねーから!」
すぐにアスランが笑い出し、年長組も釣られると、場は一気に明るいものに変わった。誰もが腹の底から湧く不思議な熱を感じていた。
「―――ということだ、アスラン」
一頻り笑い合った後、イザークがガラリと雰囲気を変え、真っ直ぐにアスランを見て纏めにかかった。
「お前が決めたのなら、俺たちに止める権利はないし、多分、充分には助けてもやれない。ここからはお前ひとりの戦いになるぞ。それでも進むんだな」
ニコルとディアッカの暖かい視線を心強く感じながら、重々しくアスランは頷いた。現時点では保証が出来ないだけであって、きっと彼らはここぞという時には力になってくれる。
甘えなどという安っぽい感情などではなく、これはもう確信だった。彼らはアスランにとって、信頼を置くに値する人物だ。
「ああ。やると決めたからには、必ず勝ち取ってみせるさ」
それは、アスランの口許に、久々に不適な笑みが戻った瞬間だった。
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