恋愛
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「な、なんだよ!」
ディアッカは歳が同じという理由で、最も一緒に居る機会が多いイザークに前のめりで助けを求めた。本当に分かっていないらしいディアッカに、イザークは頭痛を堪えるように額に手を当ててから答えてやった。大盤振る舞いだと思う。
「そんなもの…ハイネ以外に誰がいるんだ」
「ぅええっ!!!?」
「そうですよね。意外な人物だとは思いますが」
「と、いうことは強力な弁護士ってのも、ハイネが手配した可能性が高いな」
「これで辻褄が合いましたかね」
心底仰天して思考停止中のディアッカを放置して、話だけがどんどんと進んで行く。彼らの会話を極めて勝手な憶測意外のなにものでもないと一笑に伏すのは簡単だ。だが順を追って考えると、パズルの足りなかったピースがしっかりと埋められていくようで、妙に納得させられる。
ハイネは名家に生まれ育ちながら、連中にありがちな拘りがない。どちらにも属さないとまでは言わないが、成金だ名家だとかの隔てが希薄なのは間違いなかった。そんな彼だから特権意識の塊の名家の中では馴染めなかったのだろう。さりとて出奔したからといって、拘りの少ないハイネの方からそれまで構築していた人間関係まで切り捨てる必要はなかった。だからヴェステンフルス家の弁護士に実家を通さず繋ぎをつけ、カガリを紹介することも容易だった――そう考えるのが自然だ。
しかもその推測は間違っていないのだろう。
ディアッカがもたらした情報は面会者の年の頃と髪色だけだったというのに、あっという間に全てを把握してしまった。本当に頭の良い人間というのはその回転の早さで周囲を驚かせるのが常(事実、彼らと付き合いの長いディアッカですら、よく舌を巻く)なのだが――。
「そっかぁ。ハイネの奴、カガリ嬢に個人的な興味があったんだなー」
「「「――――は?」」」
当り前のように呟いたディアッカだったが、今度はその他の三人が異口同音に間抜けな声を出し、一斉に彼を見た。三人が三人とも一様に意味がわからないと言わんばかりに目を見開いた間抜け面だ。普段あまり経験しない様子に、声の発信源であるディアッカも、しどろもどろになった。
「あ、いや、だってそう考えるのが普通だろ?いくら背景に拘らないっつったって、ハイネは出奔してんだぜ。いけ好かない実家のお抱え弁護士にわざわざ頭下げに行くとか、カガリ嬢に特別な感情がないとしねーだろ。姫さんが当主となったアスハ家の恩恵も望めないんだからさ。ハイネがそこまでして彼女につくメリットなんてなくね?」
「……………成る程」
その発想はなかったと、今度は三人ともが頷かされる番だった。キラの影響を受けたとはいえ、全てを色恋沙汰へこじつけるほど、頭が柔らかくなったわけではない。恋愛脳のディアッカならではである。
四人がつるむきっかけは、年齢の近さや境遇が似ているからという偶然がもたらしたものでしかなかったが、これはこれでバランスが取れているのかもしれない。
「まぁ、カガリ嬢のことは不名誉なレッテルを貼って黙らせられれば何でも良かったんですけどね。元々男関係のスキャンダルで少々痛い目を見てもらおうくらいの計画でしたし。寧ろ思い詰めてアスランを刺すなんて大それたことをしでかしてくれたから、余計事態がややこしくなっちゃったわけで。カガリ嬢の今後は成り行き任せで関知せずでいいんじゃないですか。で?アスラン。貴方はこれからどうするおつもりですか?」
「もう件の金融会社への潜入は不可能だぞ」
「…――――分かってる」
イザークの伝はキラに直接会える最良で最終手段だった。それが潰れたとなれば、現状、キラに接触する方法は皆無だ。忍んで行くという手がないこともないが、腐っても相手はアスハ家の当主さまである。実行するにはリスクとハードルが高過ぎた。だがここで「諦める」などとヘタレた台詞を言おうものなら、それこそぶん殴ってやらねばと、顔に似合わぬ物騒なことを考えているニコルだった。
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「な、なんだよ!」
ディアッカは歳が同じという理由で、最も一緒に居る機会が多いイザークに前のめりで助けを求めた。本当に分かっていないらしいディアッカに、イザークは頭痛を堪えるように額に手を当ててから答えてやった。大盤振る舞いだと思う。
「そんなもの…ハイネ以外に誰がいるんだ」
「ぅええっ!!!?」
「そうですよね。意外な人物だとは思いますが」
「と、いうことは強力な弁護士ってのも、ハイネが手配した可能性が高いな」
「これで辻褄が合いましたかね」
心底仰天して思考停止中のディアッカを放置して、話だけがどんどんと進んで行く。彼らの会話を極めて勝手な憶測意外のなにものでもないと一笑に伏すのは簡単だ。だが順を追って考えると、パズルの足りなかったピースがしっかりと埋められていくようで、妙に納得させられる。
ハイネは名家に生まれ育ちながら、連中にありがちな拘りがない。どちらにも属さないとまでは言わないが、成金だ名家だとかの隔てが希薄なのは間違いなかった。そんな彼だから特権意識の塊の名家の中では馴染めなかったのだろう。さりとて出奔したからといって、拘りの少ないハイネの方からそれまで構築していた人間関係まで切り捨てる必要はなかった。だからヴェステンフルス家の弁護士に実家を通さず繋ぎをつけ、カガリを紹介することも容易だった――そう考えるのが自然だ。
しかもその推測は間違っていないのだろう。
ディアッカがもたらした情報は面会者の年の頃と髪色だけだったというのに、あっという間に全てを把握してしまった。本当に頭の良い人間というのはその回転の早さで周囲を驚かせるのが常(事実、彼らと付き合いの長いディアッカですら、よく舌を巻く)なのだが――。
「そっかぁ。ハイネの奴、カガリ嬢に個人的な興味があったんだなー」
「「「――――は?」」」
当り前のように呟いたディアッカだったが、今度はその他の三人が異口同音に間抜けな声を出し、一斉に彼を見た。三人が三人とも一様に意味がわからないと言わんばかりに目を見開いた間抜け面だ。普段あまり経験しない様子に、声の発信源であるディアッカも、しどろもどろになった。
「あ、いや、だってそう考えるのが普通だろ?いくら背景に拘らないっつったって、ハイネは出奔してんだぜ。いけ好かない実家のお抱え弁護士にわざわざ頭下げに行くとか、カガリ嬢に特別な感情がないとしねーだろ。姫さんが当主となったアスハ家の恩恵も望めないんだからさ。ハイネがそこまでして彼女につくメリットなんてなくね?」
「……………成る程」
その発想はなかったと、今度は三人ともが頷かされる番だった。キラの影響を受けたとはいえ、全てを色恋沙汰へこじつけるほど、頭が柔らかくなったわけではない。恋愛脳のディアッカならではである。
四人がつるむきっかけは、年齢の近さや境遇が似ているからという偶然がもたらしたものでしかなかったが、これはこれでバランスが取れているのかもしれない。
「まぁ、カガリ嬢のことは不名誉なレッテルを貼って黙らせられれば何でも良かったんですけどね。元々男関係のスキャンダルで少々痛い目を見てもらおうくらいの計画でしたし。寧ろ思い詰めてアスランを刺すなんて大それたことをしでかしてくれたから、余計事態がややこしくなっちゃったわけで。カガリ嬢の今後は成り行き任せで関知せずでいいんじゃないですか。で?アスラン。貴方はこれからどうするおつもりですか?」
「もう件の金融会社への潜入は不可能だぞ」
「…――――分かってる」
イザークの伝はキラに直接会える最良で最終手段だった。それが潰れたとなれば、現状、キラに接触する方法は皆無だ。忍んで行くという手がないこともないが、腐っても相手はアスハ家の当主さまである。実行するにはリスクとハードルが高過ぎた。だがここで「諦める」などとヘタレた台詞を言おうものなら、それこそぶん殴ってやらねばと、顔に似合わぬ物騒なことを考えているニコルだった。
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