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それを横目で眺めつつ、ニコルはディアッカへと話題を振った。
「それで?カガリ嬢は順調に傷害で起訴という流れになりそうですか?」
「なんで俺に聞くかなー」
途端に飛んで来たディアッカのクレームにも、ニコルは態とらしく目を瞬いた。
「今更。どうせ女刑事さんとよろしくやってんでしょ」
さも当たり前のように断言され、ティカッカは両手を挙げた。
「はいはい。でもあんま茶化されるのは本意じゃないぜ」
「おや、珍しい。ひょっとして本気ですか」
「そんなんじゃないけどよー」
なんだかモゴモゴとハッキリしない。女と見たら即食いのディアッカには、これまで見られない反応だった。
(あちらもこちらも春ですね)
全てがアスランとキラの影響だとまでは言わないが“そういう相手”が出来るのは悪いことではない。ニコルはこれ以上囃し立てるのはやめ、ひっそりと笑みを浮かべるだけに留めた。そしてニコルも二人の影響を受けている自分に気付く。
(“守るもの”が出来てしまえば“弱くなる”と、頑なに信じて来た、この僕までが、ねぇ)
いつかそんな相手が自分にも現れるといいな、などとそれこそ仲間が聞いたら卒倒しそうなことを考えているニコルの胸の内など知る由もないディアッカが、矛先を逸らそうと話を元に戻した。
「起訴はされる。が、姫さんに対する殺人未遂は立件が難しいらしくて、アスランへの傷害罪だけだってよ」
「武器まで用意して、携帯してたのに、ですか?」
「強え弁護士が付いてるらしいぜ。ただ武器持ってたから、衝動的じゃなく計画的犯行ってのは、流石に覆せなかったみてーだけどな」
「その弁護士とやらは、キラさんが?」
「さぁ。そこまでは知んね」
そもそも弁護士を付けるのは犯罪者側にも、権利として認められている。裁判なら国選弁護人という線もありだが、当番制で通り一遍の弁護しかしてくれないし、この段階でというのは考え難い。明らかに用意された人材だろう。
カガリの起こした事件にはノータッチを貫く姿勢を見せていたキラだが、完全に冷酷には徹し切れなかったのかもしれない。
まぁ彼女に“犯罪者”のレッテルを貼れればいいか、と視点を変えた。罪状はなんでも良い。名家中の名家の次期当主だった彼女のプライドを挫くなら、それで充分だろう。

ニコルの溜飲が僅かに下がったところで、思い出したようにディアッカが付け足した。
「そういや、足しげく面会に来てる奴がいるらしいぜ」
「男ですか?件の弁護士の他に?」
流石にそれはキラではないだろう。
キラは優しげだが、決めてしまえば躊躇わない。アスランを傷付けた“敵”であるカガリに、面会に行くなど有り得ないはずだ。尤も今のキラにそんな暇はないというのもある。
さりとてあのお嬢様校にいた純粋培養のカガリに、そうそう親しい男がいたかというと疑問が残る。男に免疫がなかったからこそ、あんなバレバレのハニートラップに引っ掛かってくれたというのに。
「アスハ家の使用人とかでしょうか?カガリ嬢付の人だっていたでしょうし」
「どうもそんな感じでもないらしいぞ」
「詳しく聞いてないんですか?」
これが焦らしているわけではないのだから、ディアッカの浅慮に苛立ちが先に立つ。咎められてディアッカは慌てて弁解を並べた。
「だって刑事だぜ!?そんなペラペラ喋れないだろ!?」
「個人情報まで聞き出せとは言ってないでしょう?年齢層とか容姿とか」
うーん、と唸りつつ会話を辿ったディアッカの記憶の隅をあるワードが過った。
「オレンジ!」
「―――は?」
あからさまに怪訝なニコルのリアクションに「しまった!端的過ぎたか」と頭の中を整理する。
「特徴的なオレンジ頭に最初吃驚したって言ってた。カガリ嬢ともわりと親しげに話してたって言われて、じゃあ歳はそう変わんねーんじゃないかって思ったのを覚えてる」
得意満面で報告するディアッカに対し、それまで無言で聞いていたアスランやイザークの反応はあまりにも冷たいものだった。




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